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1ミリ近づいて

「不機嫌?」*奏斗

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「雪谷さんは、こちらにお住いなんですか?」

 そう聞かれて、はい、と頷く。

 ……なんだろう。
 もう、執事と聞いたら、この落ち着いた話し方も、執事さんだからかとやたら納得してしまう。でもなんとなく、執事ってもっと年取った人がするものだと思ってた。

 ……あれ? それは、「爺やさん」? あれなんだっけ。

 おぼっちゃんぽいのが、「じい」って呼んだりする……あれは執事じゃなくて爺やさんなのか?

 うう、よく分からない。あとで調べよう。
 とりあえず、今聞かれたのは――――……「ここにお住まいか」?

「オレ達もお互い、昨日知ったんですけど……隣同士だったんです」
「そうなんですか?」

 葛城さんは、四ノ宮を見つめている。
 四ノ宮は、あー……と声を出してから、頷いてる。

「……そうなんですね」

 少しまた間が空く。
 ……この空いた間、この人、何考えてるんだろう……??

 それとも、執事さんはゆっくりなのかな?
 ……めちゃくちゃてきぱきしてそうな人だけどなあ……。

「雪谷さん」
「あ、はい」

「大翔さんをよろしくお願いしますね」
「え? あ、……まあ、はい」


 よろしくって言われても…………。
 ……よろしくってなんだろうと思いながらも、頷いてしまった。

 すると、葛城さんは、ふと何だかものすごく優雅に笑う。

「本当は泊まるはずだった大翔さんの我儘を聞いて、ご実家から送り届けて
きたんですが――――……お会いできてよかったです」

「あ……はい。こちらこそ…………??」

 良かった? ……うん、まあ、良かった??

 ちょっと不思議。なんて思っていたら四ノ宮が、嫌そうに。


「……葛城、ありがと、送ってくれて――――……もう、帰っていいよ」

 帰っていいよと言いながら、「帰れ」というニュアンスが多分に含まれている言い方。どっちにしても、偉そうだな、四ノ宮……。
 あ、この人には、素で話してるのかな……。そんな気がする。


 四ノ宮の言葉に、はー、と葛城さんは大袈裟にため息を付いて、それから頷いた。

「帰ります。雪谷さん、またいつか」
「あ、はい。気を付けて……」

「じゃあ大翔さん。また」
「ん。おやすみ」

 四ノ宮と一緒に、葛城さんの運転する車を見送る。

 ……何だか不思議な人だった。

 しばらく見えなくなるまで見送ってふと、静かな空間。
 「いこっか」とオレが言うと、四ノ宮も歩き出したので、一緒にマンションのエントランスに向かう。

「……何で実家、泊まんなかったの?」
「面倒だから。昨日も泊まったし、いいかなって思って」
「あ、昨日から帰ってたんだ。あの後帰ったの?」
「はい」

 ふーん。昨日、居なかったんだ。

 他愛もない会話をしながら、部屋の前にたどり着く。
 鍵を開けた四ノ宮がドアに手をかけながらこっちを見た。

「……これからどっか行くんですか?」
「え? これから? 行かないよ?」
「……クラブとか」
「行こうかなと思ったけど……ちょっと体痛いし。やめた」
「――――……そーですか」

 なんか。気まずい。

「あ。アイス、食べる? さっきいくつか買って……一回冷凍庫で冷やしたほうがよさそうだけど」
「……いらないです。おやすみなさい」

 そう言うと四ノ宮はドアを開けてこっちも見ずに、すぐに消えてしまった。


「あ、うん。……おやすみ」




 ――――……なんか、急に、不機嫌だったような。

 ……よくわかんねえな。

 まあいいや。
 変ににこにこされてるより、ずっとマシ。

 

 なんか、情緒不安定な弟だとでも思ってれば、別に腹も立たない。


 ていうか、真斗は、全然そんな奴じゃないけど。良い子だけど。
 ふ、と笑んでしまいながら。


 部屋に入った。






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