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1ミリ近づいて

「真斗と」*奏斗

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「カナは、しっかりしてそうで抜けてんだからさ……1人暮らし、大丈夫なのか? 変な奴につきまとわれたりしてない?」
「してないよ」

「家から通えばいーのに。つか、やっぱ心配だから家帰ってこいよ」
「……まあそれはしょうがないだろ?」

 オレが言うと、真斗はため息。

「……オヤジなんてどーせ忙しくて家に居ないんだから関係ないじゃん」
「そうだけど…… でも顔合わせない訳にはいかないし。お互いの精神衛生上、これがいいんじゃないかな。しょうがないよ」

「しょうがなくない。――――……別に、カナがゲイだって、家族に変わりはねーのにさ。あのくそ親父」

 父の事を、吐き捨てるように言う弟に、困ってしまう。

「しょうがないよ。息子が、男に、とか――――……受け入れられないのも分かるし。……マンション借りてくれてさ。見捨てるとかでもないし、むしろ感謝してるよ」

「――――……しなきゃいけないのは、そこじゃねえし」

 淹れ終えたコーヒーを、ローテーブルの上に置きながら、真斗を見つめる。

「時間かかるんだよ。そう簡単に受け入れられる事だと思ってないし」


 ――――……大好きだった恋人と、別れたその日。
 最後、別れ際にキスした所を、父さんに、見られた。

 外でなんかした事なかったのに。
 ――――……最後だからと。もうその時は別れがショックすぎて、隠すとか人が居るとか、全然気にしてなくて。

 オレが馬鹿だったんだし。

 カミングアウトもしてない状態で、仕事帰りの父さんが、外で、息子が男とキスしてるの見たその衝撃、想像できるし。

「……あんまり父さんの事、悪く言うなよ」
「――――……カナの事に関しては許せない」

「……オレが悪いんだから」
「カナは別に悪くない」

 まっすぐ真斗の視線に、ふ、と嬉しくなる。


「もー、真斗は、ほんと可愛いなー」

 ぎゅー、と抱き付いて、よしよし、と撫でると「やめろよ」と離される。
 「照れんなよ」と再び抱き付いて。

「真斗がずっと、認めてくれてるから。……なんかすごく、救われてるし」
「……当たり前だろ。兄弟なんだから」

「――――……真斗が嫌悪したって、おかしくないっても思うんだけどね」
「カナの事、嫌悪するとか、ねーから」

「……ありがと」

 ふ、と笑って、よしよし、と撫でて、真斗から離れる。


「ほんと、イイ男に育ってるなー、真斗」
「――――……」

 何も言わないけど。
 ちょっと喜んでるっぽいのは分かる。

 ふ、可愛い。


「そういえばまだバスケ部引退しないの?」
「最後の大会に負けた時点で引退。そしたら受験生」
「ていうか、今も受験生だけどねー。勉強ちゃんとしてる?」
「一応してる」

「頑張れよなー」
「頑張るよ」

 コーヒーを飲みながら、あ、と思って、真斗の顔を見る。

「大会応援に行くから。教えてね」
「ん。来週末からだよ」

「……ていうか、そんな時に、明日部活休みでいいの?」
「なんか体育館の点検があるとかで、使っちゃダメなんだって。明日は各自自主トレしろって。だから明日付き合ってよ」
「ん、いーよ」

 なんだかんだで、真斗が泊りに来るのは久しぶりで。
 連絡は取り合ってるけど、顔見てゆっくり話すのも久しぶり。

 2人でソファに座って、他愛もない話を続けた。
 



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