【初恋よりも甘い恋なんて】本編完結・番外編中💖

悠里

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1ミリ近づいて

「葛城」*大翔

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「こんばんは、大翔さん」
「あーなんか、久しぶり、葛城」
「そうですね。元気でしたか?」
「まあ。そこそこな」

 言いながら、車の後部座席に乗り込む。

 葛城 恭一かつらぎ きょういち

 実家、四ノ宮の屋敷にいた時、オレの世話をしていて、今でも何かある時に色々頼むのは、両親ではなくて、葛城。

 そもそも父親も母親も、子育てというものをしない。
 一緒に食事を取ったり、話したりはするけれど、世話は全部他人任せ。

 もともと金持ちのお坊ちゃんとお嬢様。
 そういうものだと思ってるらしい。

 小さい頃は、プロのシッターがオレの世話をしていたらしいし、色んな事を教えてくれたのは家庭教師やその道のプロの先生達。

 まあ――――……悪くも無かったけど。

 父親は仕事をしているから、そこそこ世間も知ってるのだろうが、母親は……息子が言うのもなんだが、完全に世間知らず。頭、花畑な気がする。親父の付き添いで出るパーティが楽しくてしょうがないらしいし。あれを楽しめるって、相当だ。……まあ、優しくて穏やかで嫌いではないが、特別そこまでの繫がりも感じない。姉とは小さい頃はいつも一緒だったが、高校生くらいからはバラバラ。まあ異性の姉弟なんてそんなもんだと思う。

 父母に比べれば、葛城の方がよっぽど家族みたいな存在だ。
 兄みたいでもあるし、父親みたいでもある。

 普段は屋敷の事を取り仕切っていて、葛城の指示で屋敷は回っている。
 葛城の父親が、もともとその業務と、オレの父親の執事みたいな役目だった。今も健在だけれど、徐々に葛城に譲りながら、今も屋敷には暮らしている。

 まだ確か30代半ば位だったような。若いけど落ち着いていて、色々取り仕切るのが得意なのは父親を見ていたせいか、もともとなのか。

 オレが唯一、相談したり頼るのは、葛城くらい。


「どうですか、大学は。慣れましたか?」
「ああ、まあ。慣れた」

「お友達は? 恋人とかできました?」
「――――……まあうまくはやってるけど」

 言うと、葛城は「うまくやってる、ですか……」と苦笑い。


「うまくやってる」の本当の意味が分かるのは、この世で葛城しか居ない。と思う。――――……もしかしたら、今日から、雪谷先輩も、かもだけど。


「――――……そう簡単に、うまくやらなくはなんねーし」
「まあ。そう、ですね」

 運転しながら、葛城は苦笑い。


「葛城」
「はい」


「――――……1人、バレた」

 そう言うと、葛城、しばらく無言。


「……バレたっていうのは?」
「――――……なんかその人、オレの事、疑っててさ」

 車の外を流れていく夜景を、ぼんやりと目に映しながら。
 なんとなく、あの時の顔を思い起こす。


「本気でしゃべってる?とか、聞いてきて」
「――――……」


「……前から、裏がありそうとか言ってるのもたまたま聞いたりしてて。だから、もう、ばらした」
「いつですか?」
「今日の夕方」
「ついさっきですか。――――……それで、私に会いたくなりました?」

 クスクス笑われて、「ちげーし」とそこは否定。


 ――――……隣の部屋でヤってんのかと思ったら、あそこに居たくなかっただけだし。


「……ゲイって、知り合いに居る?」

 そう聞いたら、葛城は一瞬間を置いて、ぷ、と笑った。


「今度は、どうしました?」
「――――……そのさ、バレた人がさ。ゲイなんだ」
「ああ。そうなんですね……」

「……ゲイだっていう秘密と、オレの良い人装ってる秘密を、お互い守るっつー協定を結んだ」

「――――……大翔さん……」

 クスクス笑って、葛城が赤信号を良い事に、振り返ってオレに視線を向けてくる。


「別にあなたの外面がいいのは、秘密にするほどじゃないですけどね」
「オレがどんだけ隠してるかまではしらねーだろ」

「まあそうですけど……そんなに皆、本当の事ばかり話して生きてないと思いますけどね」

「――――……それはそうだろーけど」


 でも、そこそこ分かりやすい奴とかは 正直に生きてると思う。
 オレ、顔にすら出さないからな。思ってる事。
 何なら、嫌なはずの「王子」の仮面を、結果的にものすごく守ってるって、どーなってんだ。


「――――……あなたが本音で話せるかもしれない人の名前は?」
「名前なんか聞きたいか?」

「ええ、覚えておきますよ」
「……雪谷奏斗。いっこ上」

「学校の人ですか?」
「そう。ゼミの先輩」

「――――……ゲイ、ですか」
「そう。……しかも恋人は作んないで、皆一回だけの関係なんだってさ」

「――――……大翔さんって、その気ありますっけ?」
「ねーよ」

 即答すると、ですよね、と笑う。

「でも、一回だけとか、その気持ちは分かるんじゃないですか?」

 苦笑いとともに言われる。オレは大学入るまで屋敷にいたし、あれやこれやと話してたのは葛城なので、オレの事、一番よく知ってる。


「でもあの人は、やられる方だからさ。危なくねえ?」
「……心配なんですね」

 クスクス笑われて、口を噤む。


 ……さっき先輩にもそう言われたっけ。
 これ、心配してるってことになんの……?

 ほんと、やめとけって思うけど。


 ――――……今日のあいつは、親しそうだったし。
 ……まあ危なくはねえのかな。

 にしても。
 ――――……相手を見るとか、やっぱ無いな。



 妙に想像しかけて――――……
 イラっとする。


「今日はどうしたんですか?」
「え?」

「明日だけでも、屋敷に泊るの面倒って言ってましたよね?」
「――――……ああ。別に。朝移動、面倒だっただけ」


 明日は、ひいじいさんの十三回忌の法事。
 親戚中が集まる。面倒な、いとこ、はとこ達も山ほど。

 ――――……だるすぎ。

「まあ――――……明日だけは、なるべくうまくやってくださいね。適当にでいいですから」
「……分かってる」



 明日の事を思うと、ため息しか出ない。




 ――――……まあでも。マンション帰らなくて済むからいいか。



 そっちの思考にも、ため息が漏れた。





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