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1ミリ近づいて
「嘘だろ?」*大翔
しおりを挟むもう目の前の角を曲がれば、自宅マンション――――……と、そこで。
前方に、雪谷先輩を発見してしまった。
隣に居るのは、背の高い男。
――――……先輩、もしかしてご近所とか?
まあ、大学から歩いて通えるマンションを選べば、ここら辺、マンションやアパートが多いし、まあご近所さんも、無くはないだろうけど。
隣の男と、距離、近。
……恋人じゃねえんだよな……?
はー。何で、昨日と言い、今日と言い、後からついてくみたいな真似……
いや、今日はただ、方向が一緒なだけだけど。
角を曲がって、自分のマンションが見えた。
先輩はどっちに行ったんだろう、と思って、見回したけど、もう居なくて。
どっか入ったのか。
もうほんと近いご近所さんだったんだな。
まあ、マンションなんか、隣の奴にも会わねーし。引っ越してから両隣、何度か訪ねたけど全然出てこず、結局挨拶すら叶わず終わったっけ。
隣すら会わないのだから、どんな近所だとしても、ここ数カ月会った事ねえし関係ないか。
にしても、昨日のラブホもな……。新しい施設なら、鉢合わせとかしないから会えなかっただろうし。先輩と、変な縁は、あるのかもな……。
マンションのエントランスに入り、エレベーターに乗る。自分の階で、降りて先を見ると。――――……珍しい。オレんちの隣のドアの前に、2人立ってる。会うの初めてなんじゃねえか。
……挨拶出来てねえけど。まあ、いっか……。
挨拶すべきかは……目があったら挨拶するか。そんな風に思いながら近づくと。
その会話が、聞こえてくる。
「ほんとよく鍵無くすよな」
「無くしてないって、鈴の音してるし」
「貸せよ、鞄。 オレが探すから」
「あ……もー」
鞄を奪われた男がふっと気づいてこっちに顔を上げて。
……声。似てるなとは、思ったけど。
――――……まさかなと、思った、のに。
「しの――――……みや??」
ていうか。
なにこれ。
「……先輩、何でここに、いんの」
「…… オレんち、ここ」
「はあ?」
何言ってンの、この人。嘘だろ。
「……四ノ宮は、なんで……」
「……こっち、オレんち……」
「は? 嘘だろ?」
「嘘じゃねえし」
「……ごめん、なんか、ちょっと受けとめきれない……」
「こっちのセリフ……」
数秒無言。
「え、四ノ宮、いつから住んでるの?」
「入学式のちょっと前から」
「……挨拶とか来た?」
「何回か行ったけど、全然つかまらねえから諦めた」
「……ああ、なるほど……」
それきりまた黙る。
「カナ、鍵あった」
黙ってた男が、そう言って、顔を上げて、オレを見た。
――――……結構、イケメン。結構つーか、かなり、イケメン。
昨日の奴もイケメンぽい雰囲気だったし、面食いだな、この人。
つか、なんだかため息、つきたい気分。
「カナ、オレ先入るよ」
「あ、うん」
その男は、ぺこ、とオレに頭を下げると、鍵を開けて、中に入っていった。
「……とにかく……お隣さん、てこと……なんだよな?」
「――――……そう、みたいですね……」
2人で、しばし、無言。
何だか何も言葉が浮かばない。
「……1回も、会った事ないよな……」
「見かけた事すらないですね」
「――――……とりあえず…… また今度話そうか」
「そうですね」
「……おやすみ、四ノ宮」
そう言って、先輩がドアの中に消えていった。
オレも鍵を開けて、自分の部屋に入る。
鍵を置いて――――…… ため息。
事実は小説よりも奇なり。
――――……どころの話じゃねえな。
何なんだよ、昨日から。
「……シャワー浴びよ」
もう考えんの疲れた。
――――…… そんな風に思いながら、熱いお湯を浴びて、すっきりしてバスルームを出る。
先輩側の壁が、目の前にある。
……あの人、今、向こうに居んだよな。
カナ、とか。呼んでたな。
――――……今夜、そこであいつと、寝んのか?
ち、と知らず舌打ちが漏れて。
――――……オレはスマホを手に取った。
『はい。大翔さん? どうしました?』
「葛城――――……明日じゃなく、今日迎えに来てくれるか?」
『私は構いませんが。良いんですか? 2日泊まる事になりますが』
「……良い」
『分かりました。1時間以内に行きますので』
頷くと同時に電話が切れた。
隣で、とか。考えながら過ごすとか、絶対ぇ無理。
ため息を付きながら、オレは立ち上がって、実家に帰る支度を始めた。
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