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1ミリ近づいて

「恋人は」*大翔

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 食事を終えて、オレはどうしても気になっていた事を、聞いてみる事にした。

「先輩って、いつからゲイだって気付いたの?」
「……聞きたい? それ」

「聞きたいから聞いてますけど」

 そう言うと、ふ、と息をついて。空いた皿を避けて、テーブルに肘をついて、少し前に乗り出してくる。

「ちゃんと自覚したのは、中学」
「ふうん。……ゲイって、楽しいですか?」

 何となくそう聞いてみたら。
 先輩はじっとオレを見つめて、逆に聞いてきた。

「……それ言うなら、女の子、好きで、楽しい?」
「別に楽しい訳じゃないけど……」

「こっちもそういう事だと思うけど。 別に楽しいから好きなわけじゃなくない?」
「そう、ですね…… じゃあ、男とすんのって良いですか?」

 そう聞いたら、すごく嫌そうな顔をして。
 それから、ため息とともに言った。

「オレ女とできないから、比べられないけど……でもバイの奴らに、今までで一番良いって言われたから、オレは良い方なんじゃないかなあ。まあ確かめようもないけど」

「――――……恋人は作らないんですか?」

 そう聞いたら。意外な答えが返ってきた。

「うん。作んない。1回限りの関係しか持たないから」
「……1回? 何で? 何、1回って」

「付き合うとか要らなくて。その時だけよければいいし」
「――――……」


「お前が一緒に来てた子は? 彼女?」
「――――……昨日引っ掛けた子」
「何だよ、オレと同じじゃん」

 ふ、と笑う先輩。

 いや、だから――――…… 違うだろ。
 組み敷かれるのに、1回限りとか。危ないんじゃねえの。


「……変なアブナイ奴に会った事とか、ねえの?」
「――――……え、何? 心配してんの??」

 先輩は、きょとん、として、オレを見つめる。


「いや、ちげーけど。 オレは女だからいーけど、あんた男相手じゃ、危ない目とかにあわねえのかなって」
「……やっぱり心配してくれてるよね?」

 ぷぷ、と楽し気に笑う先輩。

 笑い事じゃねーけど。

「でも、そんなに怖い目にも遭ったことないし。いつも同じ店で、なんとなく知り合いが居る奴としかしてないし。執着されるのも怖いし嫌だから、1回だけって事に最初からしてるし――――……もてそうな奴としかしないから、割り切ってる奴ばかりだし……大丈夫」

 そこまで言って、先輩は口を閉ざした。

「……オレちょっと喋りすぎ。 大体分かっただろ??」


 まあ。分かった。
 ――――……分かんねーのは。




 ……なんかすっげー、モヤモヤする、自分の内部。

 この人が、そんなよく知りもしない奴に、抱かれて泣かされてんのかと思うと。「腹が立つ」……ていうのが、一番、正しい表現、かな。


 だからと言って、オレが相手してやるから、他の奴とすんなとか。
 ……そんな事を思う訳ではないけど。

 ……つか、オレ、どノーマルだし。
 男、無理。

 よくこの人、男なんかと、出来るなあ……。


「……先輩って、恋人居た事は、無いの?」
「――――……」

 それなら、良いと思う。


 聞いた瞬間、いきなり空気が固まった。
 あ……。地雷か。これ。


「――――……居た事も……あったけど。もう二度と、要らない、かな」
「……そーですか」




 しばし、無言の時が流れる。

 



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