【初恋よりも甘い恋なんて】本編完結・番外編中💖

悠里

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1ミリ近づいて

「やめていい?」*奏斗

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 協定――――……。
 変なの、四ノ宮。

 そう思いながらも、くす、と笑ってしまう。


「……四ノ宮、ご飯、行く?」
「――――……」

 うさんくさいのが外れて、怖くはなくなったし。
 お腹空いたし。ご飯食べながらゆっくり話そうかなと思って聞いたら、しばし沈黙。


「あ、行きたくない?」
「いえ。……行きましょうか」

「うん。行こ」
 

 と言う事で。今。目の前に四ノ宮が居る。
 駅前にある、ハンバーグのお店。

 結構高い衝立があって、ほぼ個室みたいだし、音楽も結構大きい。だからこの店を店を選んだ。


「昨日――――……びっくりしたよな、 ごめんな」

 何となくそれは言っておこうと思って、座って、注文を済ませてから言った。すると、四ノ宮は、ふ、と苦笑い。

「まあ、驚きましたけど」
「あそこ、良く行くの?」
「……いえ。初めてでした」
「そうなんだ。すごい偶然だよなーあんな部屋の前で知ってる誰かと会うとか、初めて」

「……ですね」

 少し長い沈黙の後、四ノ宮が一言だけ頷く。

「……ていうか、まあ四ノ宮より、オレのビックリの方が絶対凄かったと思うけど」

 あはは、と笑いながらそう言うと、四ノ宮は首を振った。

「先輩のはヤバいって焦っただけでしょ? ……こっちは死ぬほどびっくりしましたからね」
「……まあそうかもね」

 ――――……そう答えてから、目の前の四ノ宮の顔をマジマジと見つめてしまう。

「今の、すっごい素な感じだなー……素だとちょっと口悪い?」


 くす、と笑って聞いてみると。

「あー。悪いかも――――……乱暴な言葉遣い、らしくないってよく女子に言われてたから」
「――――……らしくない、か。そうかなぁ? なんか、オレにはすっごくしっくりくるんだけど」

「……あんたの目から見たら、オレってどんな奴なんですか?」
「見た目は王子って言葉似合うけど。……んー、中身は得体が知れない奴、だったかなあ」

 言いながら、苦笑いで「ごめんな」と言っておく。

「ふうん――――……見た目は王子って思う?」
「まあ、そこは、否定はしないけど」

 笑いながら頷くと、四ノ宮は、ふー、と息を付いてオレを見つめてくる。

「オレは、見た目は王子じゃない方が良かったんですけどね」

「うわ。なんかすごい贅沢って言われそうだけど?? お前のルックスになりたい奴、めちゃくちゃ居るだろうと思うけどなー」

「……譲れるなら譲るけど」

 そんな風に言って、視線を落とす四ノ宮。
 憂いを帯びる、なんて形容詞がぱっと浮かんでしまうような、恵まれたルックスしてるのに。

 ほんと贅沢だなと、思うのだけれど。


 ――――……本音言うのが面倒になるほど、外見で期待されてきたのかなーと思うと、少し不憫にも思ってしまう。



「まあ、その顔じゃなきゃ分かんない事も色々あるんだろうけど。でもさ」
「――――……」


「……表と融合できていければいーんじゃない? そしたら、その見た目は絶対お得だと思うけどなあ」

 四ノ宮はじっとオレを見ていて、ぷ、と苦笑い。

「お得っておかしくないですか?」
「そう?」

「お得って言われたのは初めてかも」
「――――……」

 確かに、お得って言葉は変だったかな。


「じゃあ、先輩のその見た目は? お得ですか?」
「……んーまあ。モテるし。得、なんじゃない? モテて悪い事ってそんな無いし」

「それって、男にってこと?」
「――――……うん。オレ、女の子にモテても、無理だから」

 そう言うと、四ノ宮はふーん、と少し黙った。


「恋人は、居ないんですか?」
「うん」

「……作らない?」
「うん」

「ふーん……」


 それきり2人で何となく黙っていた所に、食事が運ばれてきた。


「話、後にしよ。いただきまーす」

 手を合わせて、食べ始める。
 2人とも無言。 美味しいし、別に気まずくないからいいやと思いながら、 目の前の四ノ宮を少し盗み見る。


 ――――……うさんくさくて、怖かったけど。
 ……なんか、色々トラウマありそう……。

 それのせいで、こんな感じだったのかと思うと。
 いっぱい話、聞いてあげたくなってしまう。


 ダメなんだよなー、オレ。
 弟がいるから、ちょっと可愛く思っちゃうと、構っちゃう。
 世話したくなっちゃうし。


 …………でも、ちょっと、とりあえず、あれだな。
 弟とは違うんだし、まだどんな闇があるかも分かんないし、適度にしとこう。


「先輩」
「……ん?」


「――――……ちなみにオレ、完全にノーマルですけど」
「……ん?」

「変な目で見ないでくださいね?」

 くす、と笑って、そんな風に言う、四ノ宮。


「――――……」


 色んな事が頭に浮かんでは消えて、また浮かんでは消えて。
 咄嗟に、答えられない。


「ん? もしかして、変な目で、見てますか?」

 ニヤ、と笑われて。

「……っちがうっつの!!!」

 なんかよく分からないけど、恥ずかしくなって、かあっと赤くなったまま、小声で叫ぶ。一応、ここは店という理性だけは働いてる自分を褒めてあげたい。

「……っ見てねーから! つか、オレ、うさんくさいと思ってた奴に惚れる趣味ねーから!!」

 そう言うと、ぷ、と笑う四ノ宮。


「じゃあ良いんですけど」


 前言撤回だ。
 可愛くない。

 オレの弟は可愛いけど、こいつは可愛くない。



「……さっきの協定、やめていい?」
「は? ――――……明日、ばらすけど良いです?」


 ぐ。
 ほんの数秒葛藤した後。


「……いや。ごめん。……引き続きお願いします」
「ん、いいですよ」

 ……偉そう。
 でもって、なんか、楽しそうに笑ってる。


 ……くっっ。
 やっぱり、全然いい奴じゃねーぞ。どこが王子だ?

 皆なんであんなに騙されるんだろう。



 先行き、なんか、心配だけど。



 でもまあ。
 ――――……うさんくさいよりは、よっぽど、イイか。






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