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よりによってなんで?

「秘密協定」

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「――――……協定、結びませんか」


 考えた末に漏れたオレのセリフに、雪谷先輩は、え?と首を傾げた。


「オレと、先輩だけの間で」
「……協定って? どういうこと?」


「先輩の秘密、守ります」
「……うん」


「……だから、オレの秘密も守ってもらえますか」
「……四ノ宮の秘密って、何?」

「――――……守りますか?」
「……うん。 守る。お前も守ってくれるんだろ?」


 オレはまっすぐ、先輩を見つめて、頷いた。


「――――……何、秘密って」

「……先輩が、表と裏が違うんじゃないかって言ってるの」
「……ん」

「合ってる、と思います」
「――――……」

 え、という顔をして、オレをじっと見つめてくる。


「オレ正直、もう結構長い事適度にうまくいくようにやるのに慣れてるんで、自分でも、どこからどこまでが表なのかもよく分かんないんですけど」
「――――……」


「……とりあえず、さっきあんたがオレに、こう思ってんじゃないのって言った事は――――……結構あってるし」

「…………」


「オレの事知らないくせにって、言ったのは――――……完全に、いつもなら隠してるオレの気持ちだし」

「――――……あー……うん」


 先輩は少しの間オレから視線を逸らした。
 それから、まっすぐにオレを見た。

「なんか、四ノ宮、複雑だな……?」
「――――……自分でもそう思ってます」


「そう、なんだ……」
「――――……だから、マジで絡むと大変だと思いますけど」


 自分でも何が言いたいんだか、よく、分からない。


 隠すことなく、絡みたいのか。
 やっぱりそんなの面倒だから、今まで通り行きたいのか。


「……よく、分かんないんだけど」

 
 先輩は、んーー、と声を出して。
 それから少しして。 あ、と言ってオレを見て。



 ふわ、と、笑った。
 

「……じゃあもしかして、オレにはほんとのこと、言ってくれるって事?」
「――――……」


「オレにだけ言ってくれるって事?」

 返事をできないでいると、先輩はまた、ふ、と笑って、オレをまっすぐに見つめた。


「――――……なんかオレお前、うさんくさくて、嫌だったんだけど……」
「……は?」


「……なんか、今、大丈夫になったかも」

 ふふ、と笑う。


 ――――……なんか。
 よく、分からない、感覚が、胸に渦巻いてる気がする。



「……じゃあ、四ノ宮はオレにだけ本音いうって事で。 オレも、お前にだけはあの件、隠さない。なんか相談があったら、話していい?」

「――――……」


「協定ってそういう事で、良いの?」


 何かが、渦巻きまくってて、返事が出来ない。


 そもそもオレ、かなり前から誰にも言わないできたこと、この人に言えるのか? ……あー。わかんねえなあ……。


「……ほんとオレ、良い人期間長いんで……全然どうなるか分かんないんですけど」
「んー……?」

「……突然吹っ切って先輩に裏全開で行ったらどうしますか」

 普通、嫌だよな。
 そこでまた、らしくないとか、これはひどいとか、言われんのもな。

 ……めんどくせえしな……。

 先輩は、ちょっと眉を寄せてオレを見て、また首を傾げた。

「すっごい心配性なのか? 四ノ宮」
「――――……んな事初めて言われましたけど」

「……それも隠してるからじゃないの? ……オレ多分、お前がどんな感じかはちょっとは分かってる気がする。うさんくさいお前は怖かったけど。本音なら、全然いいよ。どんだけ裏がすごいのか、ちょっと楽しみ」

 あははー、と笑う。


 ……そうだ。この人、こんな感じの人だった。
 明るくて、おおらかで、いつもにこにこ笑顔を絶やさない。



 だから――――……ゲイ、とか。
 そんなのを暗く隠してるイメージが、無くて。
 意味が分からなくなった。
 


「……後悔しないでくださいよ」
「え?」

「ずっとひっこめてきたの――――……あんたが、引き出すんだから」
「――――……」

 しばし、きょとん、として。
 それから、ぷ、と先輩は笑顔になった。


「だから楽しみって、言ってるじゃん」


 クスクス笑って、先輩は、右手を差し出してきた。


「秘密、お互い、絶対守る。 良い?」

 まっすぐに見つめ合ったまま、オレは手を出して、先輩の手を握った。



「よろしく、先輩」
「うん」





 先輩のゲイ発覚で衝撃だった、翌日。


 そんな風に。
 ――――……変な秘密協定を、雪谷先輩と、結んだ。





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