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よりによってなんで?
「緊張する」
しおりを挟むついさっきまでは皆が居て、楽しい空間だったけど。
今、四ノ宮と2人で息が詰まりそう。
「……とりあえずここで話してもいい?」
「はい」
四ノ宮が頷くので、オレは立ち上がって、ドアを閉めた。
間違っても話を聞かれたくないし。
長机で、ロの字型に並んでいる席。
オレは、四ノ宮の隣の隣の席に座った。
ああ。もう。
すげえ緊張する。
失言して、墓穴掘らないように気を付けないと。
――――……今知られてるのは、昨日、男とラブホに居たって事だけだ。
「……昨日の夜、オレお前と会ったよな?」
オレがそう聞くと、四ノ宮はふ、とオレに視線を向けて。
「はい」
と頷いた。
「……オレの相手、見たよな?」
「――――……顔は見てませんけど」
顔は、見てなくても。
……姿かたちは、見たって事だよな。
……オレみたいに、女の子にも見えそうな服なんて、着てなかったし。背も高い奴だったし。
――――……もう誤魔化しようがないよな。
何とか、何かしら事情があって入ったんだとか、
下手な言い訳を考えもしていたのだけれど。
…………こいつに、下手な言い訳が通じる気が、全くしない。
まっすぐな視線。
嘘なんかついて、キれられたら、マズイ。
ちゃんと、話そう。
苦手だけど。
…………なぜか死ぬほど、苦手だけど……っ。
「……とりあえず…… 誰にも言わないでくれて、ありがと」
そう。四ノ宮だと思うから言葉が出ないんだ。
仲の良い友達だと思おう。
礼を言ったら、四ノ宮は、いいえ、と笑んだ。
「誰にも言わないですよ」
「……」
その言葉に、じっと四ノ宮を、見つめる。
「そんなの、言う訳ないじゃないですか。 言うと思ったんですか?」
「――――……誰かには話すかも、とは思ったかも……」
「ひどいな、先輩。 オレ、話して良い事かどうか位、分かりますよ」
「……ごめん」
……うん。
そう。
こいつは「いい奴」なんだよな……。
そうだよ、言いそうだよ、こう言う事。
表立って、「ゲイだ」なんて噂立てたら、そういう噂立てる奴なんだって思われる可能性もあるもんな。
……そういう事は、しなそう。
「……聞いても良いですか?」
「あ、うん」
「雪谷先輩て、バイですか? ゲイですか?」
「――――……」
まあ。気になる、よな。
何て言おう。
……正直に、言っといた方が、良いかな……。
「そういえばずっと彼女は居ないって、聞いた事ありますけど」
「……女の子には、興味がないから、オレ」
「あんなにモテるのに?」
「……女の子は可愛いから好きだけど……そういう興味が、わかない」
「そうなんですね……」
それきりしばらく、四ノ宮は黙る。
「――――……誰にも秘密にしてるんですか?」
「……あ、うん。 身近な奴には、言ってない」
「昨日の人は、恋人ですか」
「……違う。クラブで知り合った奴」
「……へえ。そう、ですか」
「――――……」
また、黙ってしまった。
――――……四ノ宮は、背が高い。足も長い。顔も良い。
ほんと容姿に恵まれているなーと思ったら、家は超金持ちらしい。
高校から一緒の奴らが居て、そういう奴らから噂は広まってるらしい。
イケメン過ぎて有名なこいつの、そういう噂を好きな奴らはたくさん居るらしくて、まあそこは分からなくはないけど、それが学年も超えたオレにまで入ってくるのはすごい……とは思う。
でもって、このゼミにも易々と合格して入ってきて、オレら2年の前でも、余裕で意見を述べてくるんだから頭も良いんだろうし。高校時代バスケ部で活躍してたらしいのも、噂で聞いたから、運動神経も良いらしい。
…………出来すぎだなあ……怖い。
って、ここでも何故かすごいとは思わずに、怖いと思うオレ。
もはや、条件反射だな。
……黙って、少し俯いてる横顔が彫刻みたい。
キレイな顔だよなー。
手も大きくて、指も綺麗。
……顔だけなら、結構好みなのに。
オレは何で、こいつがこんなに苦手なんだろう。
近寄りたくないと、思ってしまう程に。
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