「今日でやめます」

悠里

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第33話 変な想像

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 翌朝。目を開けなくても分かる。……今日も、いい天気だ。眩しい。
 ゆっくり目を開けた、瞬間。

 ……あれ。ばあちゃん、寝てる?

 いつもなら、オレより先に起きてるのに。
 ――――ざわ、と嫌な感覚。ばあちゃんハは向こうを向いてるので、顔が見えない。


「……ばあちゃん……??」

 声が出ない。
 どうしよう。もっと大きな声で呼ばないと聞こえない。

「……っ……ばあちゃん……!」

 やっとのことで声が出た時。
 ぴく、と動いて、ばあちゃんがこっちを振り返った。

「碧くん、おはよう……」
「あ。……ばあ、ちゃん……」

 は、と息を吐く。変に入っていた力も抜けた。

「ごめんね……寝すぎちゃったね」

 のんびりした声で、そんな風に言いながら、ばあちゃんは起き上がった。


「っ……全然! 昨日遅かったし、大丈夫だよ。寝てていいから、オレ、朝ごはん作ってくるから」

 オレが焦ったまま、なんだか早口でそう言うと。「碧くん??」とばあちゃんが不思議そう。

「あの……昨日、遅くまで話しちゃったし。……二十分くらいしたら、起きてきて?」

 今度は、なるべくゆっくりと、言葉を出すと。
 ばあちゃんは、にこ、と微笑んだ。

「ありがと。じゃあゆっくり、行くね」
「うん」

 オレは、立ち上がって、手早く布団を片付けると、洗面所で顔を洗った。


「――――……」


 ……はー。……びっくりした。
 変な、想像をしてしまった。

 ……ばあちゃんが、もう、動かなかったら。なんて。
 体の血が、一気に冷えた。

 朝ごはんを作ってると、後から来たばあちゃんが手伝ってくれる。
 いつも通りばあちゃんは、元気。笑顔だし。

 ――――良かった……。
 ほっとして、息を吐く。少しずつ、体温が戻ってくるような、感覚。
 馬鹿だな、オレ。変な想像で、こんなにうろたえて。

「碧くん、ご飯よそるね」
「ありがと」

 ばあちゃんがご飯をよそっている間に、オレは、金魚を金魚鉢の中に移した。広い水の中で、すいーと泳ぎ出した金魚。
 と、玄関がとんとんされ、慎吾とポメ子がやってきた。鍵を開けると、もうすっかり見慣れた顔。……なんかさっき、冷えた感覚があったせいか、ほっとする。

「はよ、碧、今日東京行ける?」
「うん。行く。よろしく」

 言いながら、先に上がって、金魚鉢の近くに戻る。

「じゃあ和史くん呼ぶから」

 言いながらスマホを操作してる慎吾をばあちゃんが覗いた。

「あ、しんちゃん、おはよ。ごはん食べる?」
「おはよー、ばあちゃん。うん、食べる気満々で来てる」

 言いながら、慎吾が上がってくる。ポメ子が、オレのもとにたーーっと走ってきて、ふと、金魚を見上げた。動いてるから、なんだろうと思うのかな。
 
「おーよかった、元気そうじゃん金魚」
「そーだな」

 エサをあげると、水面に、ぱくぱく食べにくる金魚。より激しく動いたから、ポメ子はめちゃくちゃ不思議そうに見あげている。

「ポメ子、気になる?」
 可愛くて、クスクス笑いながら聞いてしまうと慎吾も笑ってる。

「赤いのがすげー動いてるから気になるんだろうな」

 そこにばあちゃんも、見に来た。
 しばらく皆で、金魚を見つめていたのだけれど。

「いいなあ、金魚……」
「いいねぇ、金魚」

 オレがぽつんと、言ったセリフに、ばあちゃんがクスクス笑って同じように言うのを、慎吾がニヤニヤ笑いながら見てる。

 その後、皆でご飯を食べて、出かける準備をしていると、和史くんが現れた。
 出かける準備を終えて、慎吾の家の駐車場。

「じゃあ、ばあちゃん、都会に行ってきます!」
「ばあちゃんごめんね、ポメ子、よろしく」
「うちの親父をよろしく」

「つか何で先生をよろしく?」

 笑いながら突っ込んだ慎吾に、「なんとなく」と和史くん。
 慎吾の車の前で、口々に言ってるオレ達に、「ふふ。いってらっしゃい」と、ポメ子を抱いたばあちゃんが笑う。

「オレ達、夕飯前に帰れないかもだから、誰か呼んで食べてたら?」
「そうだねぇ。でもまあ、一人でもいいんだけどね」

「んー。早く帰れたら帰って来るから」
「うん。急がなくていいからね。運転気をつけてね」


 ばあちゃんとポメ子に手を振って、オレ達は、出発した。




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