「今日でやめます」

悠里

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第30話 日常

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 その日からは、ばあちゃんが楽しく過ごせるようにすることが、日々の目標になった。
 ある意味分かりやすい。

 ばあちゃんが決めて、穏やかに過ごしたいというのなら尊重したい。
 少しでも、長く。少しでも、穏やかに楽しく。

 日常が楽しいというばあちゃんだから、それは、そんなに大変ではなかった。

 ここに来てからやってることも、大体決まってきた。

 朝起きて、一緒にご飯を作って食べて、洗濯や家事。野菜を収穫したり、水をまいたり。午前中は、先生の往診があったり、畑にお昼を持っていったり。
 夕方から、町の人が来る日もある。芽衣や環は良く来るし、慎吾やポメ子は家族みたい。

 先生と一緒に和史くんが来たり、和史くんだけで来たり。
 隣のみいちゃんもすっかり元気になって、ばあちゃんと遊びにくるし。

 オレは、その空いてる時間は、PCを開く。ポートフォリオはやっぱりあった方が、今後の為にもいいなってことで作ることにした。
 芽衣や環には、作りたいサイトをもっとイメージ作っといて、と頼んである。オレがポートフォリオをつくり終えたら、仕事を受けれる形でなにかしら登録して、それで依頼と合えば、受けることもあるかもってことにしてる。慎吾のサイトは、多分作ることになると思うけど。個人の依頼だから、やりやすいし。

 しかもポメ子の写真を載せて、ペットも一緒に陶芸教室、なんていう企画も載せたりするらしいので、可愛い写真を載せようと、楽しみにしてたりする。

 夕方は、慎吾とポメ子の散歩に付き合って、夕飯を作って、色んな人と食べたり、ばあちゃんと二人だったり。
 夜は、早めにばあちゃんと一緒に寝て、朝は早く起きる。

 すげー、健康的かつ、人とよく会う気がする。……あと、毎日ポメ子が可愛い。

 都会と全然違う、広い空と、緑色の風景と、土の感覚。小川が近くて、涼しい。


 なんだか、流れる時間のスピードが、全然違う。


◇ ◇ ◇ ◇  



「何でこんなに伸びるんだよー」

 今日は庭の草むしり。
 ばあちゃんがやろうとしてたので、オレがやる、と買って出た。は良いが。

 こういう時は、広い庭が恨めしい。

「あ、なんか、頑張ってる」

 朝の短い散歩帰りの慎吾とポメ子が、のんきに近づいてきた。
 なんて良いところに。と、軍手を差し出すと、慎吾が、絶対ぇやだ、と首を振る。

「……じゃあ、今日なんかうまいもん作るから」
「えー……いつもうまいよ?」

 うまく引き入れそうになったけれど、なんかオレ的には嬉しいことを言って、でも拒否しようとしてくる。

「もっとうまいやつ!!」
 そう言うと、慎吾は、えー、と動こうとしながらも、でも超嫌そうに顔をしかめる。

「今日十時半から、教室なんだって」
「それ、手伝うから!! こっち手伝って」

 もう一度、軍手を持って、慎吾に向けると。
 「はー……」とやっと受け取ってくれた。

 しばらく二人で頑張ってる。近くをポメ子がウロウロしてることだけが、ほっこりする。

「あらあら? しんちゃんも居る」

 アイスコーヒーを持って、様子を見に来たらしいばあちゃんが、可笑しそうに笑いながら、また戻っていった。
 少しして、またばあちゃんが、アイスコーヒーをふたつにして戻ってきた。

「綺麗になったね。ありがとうね、二人とも」
 縁側に置いてくれるので、オレと慎吾は、腰かけて、アイスコーヒーを飲む。

「教室の前に、シャワー浴びよ……」
 慎吾が汗をぬぐいながら、ふーと息をついた。

「あ、そういえばこないだ言ってたばあちゃんの検査、車出すのは、明日でいいんだよね?」

 慎吾が聞くと、よろしくね、とばあちゃんが頷く。
 分かった、と慎吾は言って、アイスコーヒーを飲み干した。

「碧もシャワー浴びてきて。陶芸教室の人が汗くさかったとか言われンの、無理だから」
「くさくねーし!」
「でも浴びてから来いよ? よし、ポメ子も一緒にシャワー浴びよ」
「――――待って、オレ、ポメ子のシャワー後、見たい」
「はー? やですよねぇ、女の子のシャワー後なんて」
「変な言い方すんなよ。見たい。ていうか、写真撮っていい?」

 ぷは、と慎吾が笑って、じゃあ、シャワー浴びたら速攻、うちに来てろよ。と言うので。オレは家に上がった。
 「コーヒーごちそうさまー」と慎吾がコップを渡してくる。

「じゃあすぐシャワー浴びて行く。慎吾とポメ子はゆっくりな」
「はいはい」

 笑いながらポメ子を抱いて消えてった慎吾を見送ってから、コーヒーのグラスを洗って片付けた。

「また、しんちゃんの教室、手伝ってくるの?」
 ばあちゃんに聞かれて、頷いた。

「うん。ばあちゃん、シャワー浴びてくる」
「はいはい」

 クスクス笑いながら、ばあちゃんは縁側に座った。
 ざっとシャワーを浴びて着替えて戻ると、ばあちゃんはまだ同じところに座っていた。

「何見てるの?」
「んー。野菜が、綺麗だなぁ、と思って」

 ばあちゃんの隣にちょっとしゃがんで、同じ視線の高さで、庭を見ると。

 赤いトマト、緑のキュウリやニラ、紫のナスや、黄緑色のレタスやもう色んな野菜がなってて確かに、綺麗。

「なんか碧くんがお水あげてくれるようになって、余計育ってるかも」

 ふふふ、とばあちゃんが笑う。

「昼、そうめんとかにする? 野菜、食べよ」
「うん。そだね」

「あ、ばあちゃん、暑くなってきたから、そろそろクーラーつけた方がいいかも」
「そうだねぇ」

「冷えすぎないようにねー」
「うん」

「ちょっといってくるね。何かあったら、電話して」
「はーい」


 最近暑いせいか、ばあちゃん、夜になると少し疲れてる気がする。
 まあ、夕飯食べたらもうあとは、のんびりテレビつけてる位で、片づけは、ばあちゃんにはさせないようにしてるけど。

 アスファルトの熱反射みたいなのがないのは良いなと思うけど、やっぱ田舎もそれなりに、暑いなーなんて思う。


「慎吾―」

 慎吾の家に入って呼びかけると、「碧、そこのタオルで拭いてあげて」という声がして、なんだかものすごく、小さくなったポメ子が現れた。

 ――――死ぬほど可愛いとか。ナニコレ。なんかフワフワの毛がぺちゃっとなってると、かなり小さくなる。
 ポメの普段の面積の大部分は、ほわほわの毛なんだな……。ある程度は拭いてあるみたいなので、オレは、とりあえず、スマホで写真をとることに専念。

「すげーかわいいな、お前……」

 撫でながら、かしゃかしゃ連写していると。


「お前、拭いてねーだろ……」

 呆れたような声を出しながら、慎吾が現れた。髪の毛をわしゃわしゃ拭いてから、置いてあったタオルをオレに放ってくる。


「拭いてやって。……どんだけ連写してんだよ」

 なんだかすごく、笑われたが。
 だって、すげー可愛いのがいけないと、思う。


 
 
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