22 / 38
第21話 もう言わない
しおりを挟むで、翌日。先生の往診が終わった後、昼には帰るから、とばあちゃんに言って、慎吾の元に向かった。
いってらっしゃい、と、超笑顔のばあちゃんに手を振って。
「慎吾、居る?」
陶芸教室の中に入ると、もういくつも席が準備されていた。
「お、ちゃんと時間通り来たか」
「約束したからな」
「偉い偉い」
「バカにしてんだろ」
「してねーって」
面白そうにオレを見てから、「今日、英語しか話せないグループが居るみたいで」と、慎吾が苦笑い。
「慎吾、喋れんの?」
「英語は辛うじて、って感じ?」
「ふーん」
頷いてるところに、外で車の音と、人の話し声。
「ぁ。来た。てことで、なんとなく、よろしくな!」
「なんとなくって……」
苦笑してるオレに、「ぁ、エプロン、つけといて」と、新しいエプロンを放ってから、慎吾が迎えに出て行った。エプロンをつけて、腕まくりをしたところに、お客を連れて入ってくる。
おお。ほんとだ。日本人カップル一組、日本人家族一組と、あとは外人の一家。子供が三人、結構なはしゃぎ具合で入ってきた。日本人の子供は割と静かに、中を見回している。
慎吾の指示で、エプロンを付けたり、席に座ったり……の予定だが、外人の子供が座らない。部屋の中をあちこち見回って、なんだか騒いでいる。
英語で母親たちが注意してるが、その注意もうるさい。
……んー。これはオレが注意していいのか?
慎吾が色々説明してる間も、やかましいわ立ち上がってるわ。
……最初は、サポートだから口出ししない方がいいだろうと思ったんだけど。
オレはそもそも、人の迷惑を顧みないタイプの、ガキんちょが、好きじゃない。
それに……慎吾の作ったっぽい器とかも並んでる棚があるし、全然気にしないで動いているのは、無し、と判断した。
「碧?」
呼ばれて、オレは慎吾を振り返って、ちょっと頷いて見せた。任せろ、の意味を込めて。
ウロウロしてる子供たちの前に、オレはしゃがみこんだ。
フランス語、分かりますか? とフランス語で聞いてみた。そしたら、おもいっきり、きょとんとされた。外人一家全員、オレの言葉には全然反応せず、顔を見合っている。絶対通じてないなと判断の末。すう、と息を吸った。
「こんな神聖な雰囲気の場所に来て、座ることはおろか、黙って人の話を聞くこともできねーのか?」と、超にっこり笑顔で、しかも早口で言ってやる。
人って。全然分からない言語でまくしたてられると、ちょっと焦る。特に子供は。フランス語の発音は、独特だし。案の上、この人今何て言ったの? みたいな困った顔で、引いた子供たちは、座ってる家族の元に戻っていった。
オレは、外人一家に近づくと、今度は、英語で、「英語は通じますよね?」と聞いた。子供たちは、聞き慣れた言葉に、ほっとしたような顔でオレを見る。
座りましょうか、と伝えると、大人しく座った。……多分もう一度さっきの言葉で話されたくないんだろうな。はは。よしよし。
「通訳するから。進めていいです」
何となく今は先生の立場の慎吾に、一応敬語でそう言うと、慎吾は、「よろしく」と、ニヤッと笑った。
なんか多分に色々含まれてそうな「ニヤッ」だったけど。何それ。オレが敬語使ったってだけじゃ、なさそうな……?
なんか楽しそうな慎吾に、心の中で不思議に思いながらも。慎吾の言葉を英訳しながら、昨日習ったばかりの陶芸を人に教えるという、結構な荒行。
まあでも実際ろくろを回し始めてからは、慎吾の手本を見よう見まねで頑張ってたから、なんとかなったけど。
子供たちに、ポメ子が可愛がられてる時間や、お茶やコーヒーをふるまう時間を含めて大体二間弱。
観光用のワゴンで、客は帰っていった。
「碧、サンキュ。助かった」
「どーいたしまして」
結構疲れた、と苦笑したオレに。慎吾が口にしたのは、「おつかれさま」というフランス語。
え? 咄嗟に、慎吾の顔を見やる。
「オレのじいちゃんがさー。フランス語話せる人でさ。まあまあ分かるんだよね。英語よりも分かる」
「――――」
あ、それで、「ニヤッ」か。
アレ、聞き取れてた訳か。……誰も分かんねーと思ってたのに。
あー、と頷いていると。
「つか、おもしれーな、お前」
ぽんぽん、と肩を抱かれる。
「あんときも、呟いたよな」
「あんとき??」
「来た初日の夜。遊ぶかどうかはっきりしろよってオレが言った時。今更……みたいなこと、言ったよな?」
……ああ。言った気がする。
「フランス語で文句や愚痴ったり、悪口言う癖、ある?」
「…………もう言わない」
なんか気まずくて言うと、ぷは、と笑って、慎吾はバシバシオレの肩を叩いた。
「ほんと面白ろ。なあ、今夜、飲みに行こうぜ。温泉街の方。今の手伝いの礼、奢るから」
「……いーけど。ばあちゃんと夕飯食べてからな」
「オッケーオッケー」
慎吾はオレから手を離すと、「昨日の小鉢、次の工程やってみる?」と言ってくる。
「絶対やる」
「はは。やる気ー」
「だって模様つけんだろ? 何にしようかな」
「絵とか得意?」
「得意……つか、好き。デザインすんのも、好き」
「へーいいじゃん」
結局、それから夢中になって、気付いたら昼過ぎて、急いでばあちゃんちに、帰ることになった。
なぜか慎吾とポメ子も一緒に。
250
お気に入りに追加
311
あなたにおすすめの小説
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
『別れても好きな人』
設樂理沙
ライト文芸
大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。
夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。
ほんとうは別れたくなどなかった。
この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には
どうしようもないことがあるのだ。
自分で選択できないことがある。
悲しいけれど……。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
登場人物紹介
戸田貴理子 40才
戸田正義 44才
青木誠二 28才
嘉島優子 33才
小田聖也 35才
2024.4.11 ―― プロット作成日
💛イラストはAI生成自作画像
独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~
水縞しま
ライト文芸
第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。
◇◇◇◇
飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。
仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。
退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。
他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。
おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる