20 / 38
第19話 しばらく居る。
しおりを挟む結局、少しばあちゃんにも手伝ってもらって、夕飯が出来上がった。
「めっちゃおいしい、碧くん」
「レシピ見ながらだから」
「それでもおいしいー」
「ほんとおいしいね」
芽衣が騒いでると、よこからばあちゃんもそう言ってくれた。
「さっぱりしてるレシピ、選んでみた」
「うんうん。食べやすい」
ふ、とばあちゃんが笑うと、嬉しくなる。
「碧くんって向こうでどんなことしてたの? ホームページ作るって、どんな感じで作るの?」
環がそんな風に聞いてくる。
「大企業とかが相手じゃなくて、中小の企業だったから、どんなコンセプトで、どんな人相手に、何を伝えたいか、だよな。それを話し合って、出来ること、出来ないことも詰めて……あとは、作ってくだけ」
「だけってーすごい簡単そうに言うよね」
「簡単って訳じゃないけど。まあチーム組んで、担当持って……人間関係が面倒かな」
「ふうん……」
そうなんだー、と芽衣と環が頷いている。
「ていうか、興味ある? この話」
思わず聞くと、なんで? という顔で思い切り見られた。
「あるよ。何で無いと思うの?」
芽衣にまっすぐ聞かれて、逆に首を傾げる羽目になった。
「……向こうでは、あんまり話さなかったから。あんまり人に興味ない人も多いし。仕事で関わる人に、過去とか聞かない」
「えー、そうなの。なんかつまんないね?」
「つまんない訳じゃないかな……そういうもんだって思ってるかも」
「じゃあ、こっちなんて、カルチャーショックじゃない? 昨日の夜なんて……」
ぷぷ、と芽衣は笑ってるけど。
「笑い事じゃなくて、驚くこと、多すぎる」
「そうなんだね」
言いながら芽衣は笑ってて、環はふーん、と頷いてる。慎吾はポメ子を膝に置いて撫でながら、ちら、とオレを見たけど、何かいいたげだけど黙ってる。
「でも碧くん、お昼、楽しそうだったけどな」
ばあちゃんがクスクス笑いながらそう言うので、「そう?」と首を傾げた。
「昨日は確かにびっくりしてたけど。今日は少し慣れてた気がするけど」
「あ、畑行ったの?」
環も可笑しそうにクスクス笑う。
「あそこじゃ昨日みたいに台所に逃げることもできなかったでしょ」
「……そう。逃げれなかった。狭い空間で……」
「先生、居た?」
「……そんなにいつも居んの? あの先生」
あそこに居るのを知ってるってこと? そんなにいつも居るのかと思って、芽衣に聞くと。
「往診帰りをあそこに合わせてたりする気がする。診察に来ないおじいちゃんおばあちゃんを見に行ってるような感じだからなぁ」
「……いい先生なんだろうけど」
オレがそこまで言って黙ってると、「碧は今、あれだよ。身代わり? 和史くんのさ」と、慎吾が笑う。
「しょうがねえな、諦めろよ、その内、認めてくれたらいい人だから」
「理不尽……」
オレが呟くと、皆、苦笑。
「ばあちゃん、もうご飯食べないの?」
慎吾がばあちゃんに聞いてる。
「うーん、今日は結構食べたよ」
「そうなの? 食べないと、暑くなってきたし、倒れちゃうよ? あ、碧、さっき買ってきたやつあげたら」
「ああ。ばあちゃん、水ようかん、食べる?」
そう聞くと、ふふ、と笑って、ばあちゃんは頷いた。
とってくる、と立ち上がった。
「あ、そういえば。碧くん、まだ転居届出しにきてないでしょー」と芽衣の声。
「……ああ、そういえば」
「暇なとき出しにきてね」
「んー」
ばあちゃんに水ようかんと、小さなスプーンを渡しながら、座って、オレは、ちょっと首を傾げた。
「会社辞めてすぐ、転居届は出して、ガスとか水道とかは止めたんだけど……免許の住所も変えなきゃだよな。あと、こっちの役所に届け出して……あと郵便物の転送手続きしないと、しばらく色々来そうだし……一回帰んないとできないことありそうかも……」
「ネットで出来るものもあるけどねー。明日、持ってきてあげると、転居する時に必要なものっていう冊子があるから」
「ん」
「ていうか、碧くん、しばらく居るつもりなんだね。良かったな」
環がそう言って、オレを見て笑う。
オレよりでかいし、女の子というのが完全に間違いだったのは認識したけど、やっぱり、穏やかな感じは変わんないのかも。
「そのまま住んじゃえばいいのに」
芽衣が楽しそうにそう言った。……しばらく、か。――――最初は、ばあちゃんを看取るつもりで来たけど。
……看取りたくないと、二日目にして、めちゃくちゃ思ってんな……。
「私とたまちゃんは、この町を盛り立てる仕事してるから。そうだ、昨日言った、ホームページ、考えておいてね、碧くん」
「……ああ。昨日の? あれ本気なのか?」
「うん、今日上司に話したら、少しは予算くれるかも。お仕事として作ってもらえたらいいなあ」
「……なにつくるんだっけ?」
もー、碧くん! と芽衣は膨らんでから。
「この町にある会社や、温泉や、特産物とか。この町に来たいって思わせるような、まとめたサイトが欲しいの。それぞれのお店の詳しいことなんかもあるといいなーとか。まあそれぞれホームページ持ってる会社もあるんだけど、リンクで繋げられたらいいなあとか……」
「あ。オレの陶芸教室のも作って」
「ていうかオレ今、完全普通の個人だけど。そんなのに頼めるのか?」
「オレは頼めるよ」と慎吾。そりゃお前はそうだろうけど。
「なんか、お仕事として頼めるところに登録とかしてくれたらいいんじゃないかな、ねっ、あるでしょ、そういうサイトが」
「……ちょっと考えとく」
「あああー絶対考えない感じでしょ!! めぐばあちゃんからも頼んどいてー」
はいはい、とばあちゃんは笑ってる。
「でもずっと居るなら、仕事した方がいいんじゃねえの」
慎吾がそう言う。
「畑手伝うとかならすぐ働けそうだけど、なんか碧、体力無さそうだから無理そう」
「……余計なお世話」
ムッとして言い返すと、慎吾は、肩を竦める。
「陶芸って、簡単そうでいいよなあ、土こねこねしてて楽しそうだし」
ムッとしたまま、続けると。
はー? と慎吾もまたムッとする。
「オレ明後日は教室があるから、構ってらんねーけど、明日なら、陶芸、体験させてやろうか?」
「は? 別にやりたいなんて」
「土こねこねで楽しそうとか、体験してから言ってみろっつの」
「はー?? 全然やりたく」
「いいよね、ばあちゃん、こいつ、借りて」
慎吾はばあちゃんに向かってそう言った。ばあちゃんは、そうだねえ、と言いながらオレを見て、「どうぞ」とにっこり笑った。
「何で、ばあちゃん」
「ほら、いい機会だから。ね。何か素敵なお皿、作ってきて?」
クスクス笑ってるばあちゃん。そう言われると断れない。
246
お読みいただき、ありがとうございます♡
楽しんで頂けましたら、ブクマ&感想などよろしくお願いします♡
(好き♡とか短くても嬉しいです♡)
以前ライト文芸大賞で奨励賞を頂いた作品がこちら↓です。
「桜の樹の下で、笑えたら」
よろしければ…♡
楽しんで頂けましたら、ブクマ&感想などよろしくお願いします♡
(好き♡とか短くても嬉しいです♡)
以前ライト文芸大賞で奨励賞を頂いた作品がこちら↓です。
「桜の樹の下で、笑えたら」
よろしければ…♡
お気に入りに追加
317
あなたにおすすめの小説
「桜の樹の下で、笑えたら」✨奨励賞受賞✨
悠里
ライト文芸
高校生になる前の春休み。自分の16歳の誕生日に、幼馴染の悠斗に告白しようと決めていた心春。
会う約束の前に、悠斗が事故で亡くなって、叶わなかった告白。
(霊など、ファンタジー要素を含みます)
安達 心春 悠斗の事が出会った時から好き
相沢 悠斗 心春の幼馴染
上宮 伊織 神社の息子
テーマは、「切ない別れ」からの「未来」です。
最後までお読み頂けたら、嬉しいです(*'ω'*)
独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立
水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~
第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。
◇◇◇◇
飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。
仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。
退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。
他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。
おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
Husband's secret (夫の秘密)
設樂理沙
ライト文芸
果たして・・
秘密などあったのだろうか!
むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ
10秒~30秒?
何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。
❦ イラストはAI生成画像 自作

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる