「今日でやめます」

悠里

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第19話 しばらく居る。

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 結局、少しばあちゃんにも手伝ってもらって、夕飯が出来上がった。

「めっちゃおいしい、碧くん」
「レシピ見ながらだから」
「それでもおいしいー」
「ほんとおいしいね」
 
 芽衣が騒いでると、よこからばあちゃんもそう言ってくれた。

「さっぱりしてるレシピ、選んでみた」
「うんうん。食べやすい」

 ふ、とばあちゃんが笑うと、嬉しくなる。

「碧くんって向こうでどんなことしてたの? ホームページ作るって、どんな感じで作るの?」

 環がそんな風に聞いてくる。

「大企業とかが相手じゃなくて、中小の企業だったから、どんなコンセプトで、どんな人相手に、何を伝えたいか、だよな。それを話し合って、出来ること、出来ないことも詰めて……あとは、作ってくだけ」
「だけってーすごい簡単そうに言うよね」
「簡単って訳じゃないけど。まあチーム組んで、担当持って……人間関係が面倒かな」
「ふうん……」

 そうなんだー、と芽衣と環が頷いている。

「ていうか、興味ある? この話」

 思わず聞くと、なんで? という顔で思い切り見られた。

「あるよ。何で無いと思うの?」

 芽衣にまっすぐ聞かれて、逆に首を傾げる羽目になった。

「……向こうでは、あんまり話さなかったから。あんまり人に興味ない人も多いし。仕事で関わる人に、過去とか聞かない」
「えー、そうなの。なんかつまんないね?」
「つまんない訳じゃないかな……そういうもんだって思ってるかも」
「じゃあ、こっちなんて、カルチャーショックじゃない? 昨日の夜なんて……」

 ぷぷ、と芽衣は笑ってるけど。

「笑い事じゃなくて、驚くこと、多すぎる」
「そうなんだね」

 言いながら芽衣は笑ってて、環はふーん、と頷いてる。慎吾はポメ子を膝に置いて撫でながら、ちら、とオレを見たけど、何かいいたげだけど黙ってる。

「でも碧くん、お昼、楽しそうだったけどな」
 ばあちゃんがクスクス笑いながらそう言うので、「そう?」と首を傾げた。

「昨日は確かにびっくりしてたけど。今日は少し慣れてた気がするけど」
「あ、畑行ったの?」

 環も可笑しそうにクスクス笑う。

「あそこじゃ昨日みたいに台所に逃げることもできなかったでしょ」
「……そう。逃げれなかった。狭い空間で……」

「先生、居た?」
「……そんなにいつも居んの? あの先生」

 あそこに居るのを知ってるってこと? そんなにいつも居るのかと思って、芽衣に聞くと。

「往診帰りをあそこに合わせてたりする気がする。診察に来ないおじいちゃんおばあちゃんを見に行ってるような感じだからなぁ」
「……いい先生なんだろうけど」

 オレがそこまで言って黙ってると、「碧は今、あれだよ。身代わり? 和史くんのさ」と、慎吾が笑う。

「しょうがねえな、諦めろよ、その内、認めてくれたらいい人だから」
「理不尽……」

 オレが呟くと、皆、苦笑。

「ばあちゃん、もうご飯食べないの?」

 慎吾がばあちゃんに聞いてる。

「うーん、今日は結構食べたよ」
「そうなの? 食べないと、暑くなってきたし、倒れちゃうよ? あ、碧、さっき買ってきたやつあげたら」
「ああ。ばあちゃん、水ようかん、食べる?」

 そう聞くと、ふふ、と笑って、ばあちゃんは頷いた。
 とってくる、と立ち上がった。

「あ、そういえば。碧くん、まだ転居届出しにきてないでしょー」と芽衣の声。
「……ああ、そういえば」
「暇なとき出しにきてね」
「んー」

 ばあちゃんに水ようかんと、小さなスプーンを渡しながら、座って、オレは、ちょっと首を傾げた。

「会社辞めてすぐ、転居届は出して、ガスとか水道とかは止めたんだけど……免許の住所も変えなきゃだよな。あと、こっちの役所に届け出して……あと郵便物の転送手続きしないと、しばらく色々来そうだし……一回帰んないとできないことありそうかも……」
「ネットで出来るものもあるけどねー。明日、持ってきてあげると、転居する時に必要なものっていう冊子があるから」
「ん」

「ていうか、碧くん、しばらく居るつもりなんだね。良かったな」

 環がそう言って、オレを見て笑う。
 オレよりでかいし、女の子というのが完全に間違いだったのは認識したけど、やっぱり、穏やかな感じは変わんないのかも。

「そのまま住んじゃえばいいのに」

 芽衣が楽しそうにそう言った。……しばらく、か。――――最初は、ばあちゃんを看取るつもりで来たけど。
 ……看取りたくないと、二日目にして、めちゃくちゃ思ってんな……。

「私とたまちゃんは、この町を盛り立てる仕事してるから。そうだ、昨日言った、ホームページ、考えておいてね、碧くん」
「……ああ。昨日の? あれ本気なのか?」
「うん、今日上司に話したら、少しは予算くれるかも。お仕事として作ってもらえたらいいなあ」
「……なにつくるんだっけ?」

 もー、碧くん! と芽衣は膨らんでから。

「この町にある会社や、温泉や、特産物とか。この町に来たいって思わせるような、まとめたサイトが欲しいの。それぞれのお店の詳しいことなんかもあるといいなーとか。まあそれぞれホームページ持ってる会社もあるんだけど、リンクで繋げられたらいいなあとか……」
「あ。オレの陶芸教室のも作って」
「ていうかオレ今、完全普通の個人だけど。そんなのに頼めるのか?」

 「オレは頼めるよ」と慎吾。そりゃお前はそうだろうけど。

「なんか、お仕事として頼めるところに登録とかしてくれたらいいんじゃないかな、ねっ、あるでしょ、そういうサイトが」
「……ちょっと考えとく」

「あああー絶対考えない感じでしょ!! めぐばあちゃんからも頼んどいてー」

 はいはい、とばあちゃんは笑ってる。


「でもずっと居るなら、仕事した方がいいんじゃねえの」
 慎吾がそう言う。

「畑手伝うとかならすぐ働けそうだけど、なんか碧、体力無さそうだから無理そう」
「……余計なお世話」

 ムッとして言い返すと、慎吾は、肩を竦める。

「陶芸って、簡単そうでいいよなあ、土こねこねしてて楽しそうだし」

 ムッとしたまま、続けると。
 はー? と慎吾もまたムッとする。

「オレ明後日は教室があるから、構ってらんねーけど、明日なら、陶芸、体験させてやろうか?」
「は? 別にやりたいなんて」
「土こねこねで楽しそうとか、体験してから言ってみろっつの」
「はー?? 全然やりたく」

「いいよね、ばあちゃん、こいつ、借りて」

 慎吾はばあちゃんに向かってそう言った。ばあちゃんは、そうだねえ、と言いながらオレを見て、「どうぞ」とにっこり笑った。

「何で、ばあちゃん」
「ほら、いい機会だから。ね。何か素敵なお皿、作ってきて?」

 クスクス笑ってるばあちゃん。そう言われると断れない。




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以前ライト文芸大賞で奨励賞を頂いた作品がこちら↓です。
「桜の樹の下で、笑えたら」
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