「今日でやめます」

悠里

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第15話 誰?

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 昼食を終えて、ばあちゃんとオレは、早々に退散。他の人達は皆、仕事の続きらしい。
 オレ達は、来た道をのんびりと戻る。

「ああいうの、よく行ってたの?」
「明日行こうかなーっていう前日に連絡しとくの。そしたらご飯類だけ持ってきといてもらって、おかずを持ってくの」
「そうなんだ」
「作るのも食べてもらうのも好きだし……皆が材料、持ってきてくれるからね」
「うん……」

 確かに、なんか知らんが、庭先や玄関前に、色んなものがちょこちょこ積んである。

 ばあちゃんが作り始めたのが先なのか、差し入れが先なのか。
 分からない問いな気がする。

「ちなみに、先生が居たのは、体調管理がてら、よ」
「ああ……」
「そう、結構年寄りが多いからね。暑くなってきたし。往診の帰りとかに、顔出してくれるのよ、先生」
「……そっか」

 まあ結局オレのだし巻き食わなかったし。ムカつくけど。
 ……あんなところにわざわざ。……先生としては、良い先生なんだろうなとは、思ったりする。

「いい先生なんだよ」

 クスクス笑うばあちゃん。まあ。そうなんだろうけど。
 オレ的には微妙だが。

「あ。ばあちゃん、昨日の夜みたいな集まりは? よくやるの?」
「あんなに大人数は、月に一回とかかなあ……でも、何人かならよくあるかな。食べ物持ってきたりして、急に、だったりもするし」
「はー……すごすぎるね」

 しみじみ言うと、ばあちゃんは、そう? と笑う。

「集まるお家が無いのかな、都会は」
「……んー、まあ、一軒家よりマンションとかが多いとこに住んでたし……でも一軒家があっても、あんな風にひらけてないから。戸締りされて、入れる雰囲気じゃないよ。……ってまあ入ろうともしないけど。それに、むしろ窓が無いみたいな家が多いよ」
「窓がないの??」
「防犯。人が入れない位のサイズの窓でさ」
「へーーー……防犯……」

 呟いて、ばあちゃんが、クスッと笑う。

「田舎も、少しは気にした方がいいんだろうけどね、防犯」
「……そうだね……」

 いや、でもどうなんだろう、こんな駅から離れたへんぴなとこに来る泥棒か……。しかもこんなに人がおおっぴらに行き来してるところに入るのも結構大変そうな……。

「まあ、気を付けとくのはいいだろうけど……昨日みたいな時はあけっぱなしでも平気かもね」
「うん。そうね」
「都会と違いすぎて、別世界みたいだけど……」
「別世界かぁ……」

 オレの言葉に、ばあちゃんは楽しそうに笑った。

「ばあちゃんさ、あんまり食べてなかった?」
「そう?」
「うん。あんまり食欲ない?」
「暑いからかな……」
「あとでさっぱりしたものでも食べよっか……ゼリーとかある?」
「ゼリーはないかな……」
「……ていうか、ここら辺って、コンビニ……」

 言いかけて、無いか、とすぐ諦めると、ばあちゃんが笑った。

「うちから裏の方に十分位行けば、個人のお店だけど、色々売ってるとこ、あるよ」
「なるほど……」
「あと、週一回トラックが来てくれるんだけどね」
「トラック?」
「生鮮食品、お肉とか魚とか色々のせてきてくれて、そこで買えるの」

 へー、色々あるもんだなーと感心しつつ。
 何十、何百メートルおきにコンビニや薬局があってなんでも買えるところとは違うなあと、改めてしみじみ。

 ……自販機も、あんま無いしな……。

 まだ、来たの、昨日なんだけど。
 一日が、長いなあ……。

 のんびり歩いて、ばあちゃんちの家の前に近づくと、誰かが家の前に立っていた。
 つか、来客も、多い……。


「ばあちゃん、誰かいるよ」
「うん? ……ああ」

 立っていたのは若い男。何でかポメラニアンを抱っこしたまま、ばあちゃんちの前に居る。
 何の用なんだろう……。

「ばあちゃん、とりあえず、オレ先に入って、この中、片付けておくから」
 そう言って、先に入ろうと思っていた。その人に軽く挨拶して通り過ぎようとした瞬間。

「ああ、なんだ、畑に行ってたのか」

 ……ん? オレに言った? なんか顔の方向がこっち向いてたような。

 ふと、オレを見てるそいつと目が合う。

 また昔の知り合い? 
 誰だっけ、馴れ馴れしいな……??


「……お前、分かってねーだろ」

 呆れたような口調に首を傾げる。
 ……? 誰。つか、こんなイケメン、知らん。つか、ポメ、すげー可愛いけど。


「しんちゃん、綺麗になったね」

 そいつの前に立ったばあちゃんがクスクス笑って、そう言ったのを聞いて、しんちゃん……?? とさらに首を傾げる。しんちゃんて、昨日も聞いたけど。……しんちゃん……。

「…………慎吾??」
「おう」

 にや、と笑うこいつ。
 …………あ。唐突に、昔を思い出した。

 面影あるわ。この顔。
 なんか勝気な顔をした、えらそーな喋り方の幼馴染。

 昨日のナリだと、全く面影なくて、誰って感じだったけど。
 こっちの顔なら、まだ……。とそこまで考えて、眉がおもいきり寄った。

「いや、つーか、今日も、誰って感じなんだけど……なんなのその変身。」
「会ったろうが、昨日。分かれよ」

「全然違うわ!! 誰だよ!!」

 思わず叫ぶと、「ちょっと髪切って、ひげ剃ってもらっただけだけど。ね、ばあちゃん」 そう言う慎吾と、「そうだねえ。ちょっと綺麗になったよね」と笑うばあちゃん。

「あ、あと、シャワー直してもらったから、風呂入れた」
「ああ、良かったねぇ」

 ふふ、と笑ってる二人。

「大して昨日と変わってないよね、ばあちゃん」
「そうねぇ、言うほど変わってないかな?」


 ……この人達、目ぇ、どうなってんの。
 なんか、オレ、疲れてきた。





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