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第14話 圧
しおりを挟む先生が往診に来た。
庭の方から入ってきて、オレは席を外すように言われた。台所に下がると、和室のふすまが閉められた。
……挨拶はしたけど。ちらっと見られて、締め出された。……なんだかんだで、もう一時間くらいか?
あームカつくなぁ。別にオレに直接的な非がある訳じゃないだろうし。その態度は無いんじゃねえ? と思うんだけど。ばあちゃんの主治医と喧嘩するわけにはいかないし。
いや、こういう時こそ。都会で無駄に培った、スルースキルを総動員して…………って、スルーしてちゃ駄目だ。ちゃんと話して、ばあちゃんの様子を聞かねえと!
「無理しないで、めぐさん」
「はーい。大丈夫、ありがとう」
「また明日」
やっと終わったっぽい。先生は縁側の方から靴を履いて、出て行ったみたいだ。つか、こっちにも声かけてけー! と思いつつ、オレが玄関で靴を履いていると、ばあちゃんが和室のふすまを開けて、「碧くん、お待たせ」と顔をのぞかせた。
「あ、ちょっと行ってくる」
「え。あ、……うん」
苦笑いのばあちゃんを置いて、バイクに乗ろうとしている先生のところに走り寄った。
「あの!」
「……なんだ?」
「ばあちゃんの様子、聞いておきたいんですけど」
「――――本人から聞いたらどうだ?」
「あんまり詳しいこと、言いたく無さそうで、まだ聞けてなくて」
そう言うと、先生は、ちらっとオレを見てから、ヘルメットを着けた。
「本人には全部伝えてある。本人が納得済みの治療法だ。めぐさんが言いたくないことは、言えない」
「……でもオレ、心配なので。どんな状況か、だけでも」
「……今まで帰っても来なかったくせに?」
「――――」
「了承がないことは伝えられない。……ただ、元気そうに見えても、弱ってはいる。大事にしてやりなさい。今までの分も」
そう言うと、バイクを走らせて、あっという間に消えてしまった。
呆然。
……弱ってる、か。…………。
…………くわー、むかつく!!
「今まで帰っても来なかったくせに」? 「大事にしてやりなさい。今までの分も」?!
いちいち、なんか嫌味なんだよ!!! 心の中が、ざわざわと騒ぐ。
……スルースキルなんて、かけらも消えたみたいだ。
おかしい。
あの騒音先輩の時は、かなり発動してくれていたのに。
この付近では、唯一の内科医。毎日往診に来てくれるから、入院はしないで済んでると聞いて、感謝しようと思ってはいた、けど……!
「碧くん?」
ばあちゃんが様子を見に来たのか、門の方までやってきた。
「……ばあちゃん」
「うん?」
「あの……体、大事にしようね、無理しないようにって言われてたし」
「うん。そうだねえ」
「とりあえず家、入ろう」
ばあちゃんと話して、洗濯はオレがすることにして、庭の方の物干しに干していく。
縁側でばあちゃんはこっちを見てる。
「ばあちゃん、洗濯とか掃除とか、オレがやるから」
「えー。大丈夫よ?」
「オレ暇だし。ばあちゃんは好きなことしてていいよ」
「こういう日常が、一番好きなんだけど……」
クスクス笑うばあちゃんのセリフに、そうなのか、と頷きながら。
「……じゃあ重いものとか、掃除機とか? 疲れそうなのはオレで……じゃあ、タオル干して」
そう言うと、ばあちゃんは、なんだか嬉しそうに笑って庭に出てきた。
「ん」
タオルを差し出すと、ふふ、と笑って、パンパンと皺を伸ばした。
「碧くんとお洗濯したり、料理したり。またできると思ってなかったから。嬉しい」
なんか照れるようなことを平気で言われる。……つか、マジで照れる。
「……うん」
辛うじて頷く。
「洗濯干したら、お野菜収穫しようね」
「ん。あ、なんか昼に用事あるって言ってたよね?」
「うん。そうなの」
「何の用事?」
近所のばあちゃんたちとご飯とかかな、と思っていたら。
「碧くんにも手伝ってもらおうかなあ~」
「……? いいけど。何?」
まあ暇だし。ずっと暇だし。と頷くと、ばあちゃんはまた、嬉しそうに笑った。
そして、何やら煮物を作ったり、ちょっと甘いものを作ったり、何だかタッパーにいくつもいくつもまた料理を作った。
朝、美味しくできた、だし巻きも、また作ったりする。
もしかして昼も、昨日みたいにたくさん来るのか? え、まさか毎食集まってたり……??
田舎分からん。
と、思っていたら、そうではなかった。
お昼前、タイヤのついてる荷物入れに、タッパーを入れると、コロコロ引き出した。
「行こ―、碧くん」
「……?? うん。ところでどこに? あ、それ持つよ」
荷物を受け取って、コロコロ引きながら、ゆっくり進む。なんかあれこれ教わりながら一緒に作ってて、聞きそびれてた。一応舗装はされている道路を、十分ほど歩く。
ていうか、昨日も思ったけど、畑ばっかり。
畑と川と、樹々と、飛び飛びに建ってる、低い建物。
あとは、広い空。
ばあちゃんが、「あそこに行くの。皆がご飯を食べててね」と言う。皆……。
ばあちゃんが指さしているのは、畑の近くにたってる……木の小屋みたいな……。
舗装された道から、されてない路に入り、進んでいくと。
後ろからは分からなかったけど、表は全開で、中にテーブルとイス。
ああ、なるほど。畑で働いてる人達のごはん中か。
「あーばあちゃんー待ってたー」
わっと皆が沸く。「あ、碧くんだ」「碧くん、しゅっとしてるねー。昔もちもちしてたのに」「碧くんも来てくれたんだね」と、オレまで無理矢理、輪に入れられる。
もちもちしてたって何年前の話だ……。思いながら、荷物の蓋を開けて、ばあちゃんに手渡すと、皆がテーブルの上に広げてく。
配ってるのを見てたら、なんとさっきまで家にいた先生まで居る。
「あ。さっきはありがとうございました」
と言ったオレ、偉くねえかな……。そして、かるく頷かれるだけ。
……なんで医者なのに、ここに居るんだ……。畑仕事してんの??
異様な空間……いやちがうか。オレがここに居るのが異様なだけで、きっと、ここの人達にとっては、毎日のように続いてきたことなんだろうなと。
ばあちゃんとオレも、テーブルの端に座って、ご飯開始。
メインのごはんがないなーと作ってた時から思ってたけど、そういうことか。
ここの人達、おにぎりとかは持ってる。で、ばあちゃんがおかずを持って来てるって感じみたい。好きに食べてってことみたい。
「碧くん、お休みで来てるの?」
「いや。しばらくいます」
「そうなんだー、ばあちゃん、良かったねー!」
そうだね、なんて、ばあちやんは楽しそう。
…………圧。
この場の楽しそうな雰囲気を、そう感じるのは、オレが慣れてないから、なんだろうけど。
でもばあちゃんが楽しそうだから、いいか……。
「碧くんがだし巻き卵作ったのよ。食べてみて、美味しいから」
へーすごーい、と皆が食べる中。
……先生は食べねーな。うん。食べたくないんだろうな。そうだと思った。うん。卵焼きが嫌いなのか? 嫌いな人も居るよな。……って絶対違うだろ。はー。めんど。この人ずっと往診に来るんだよなあ……。はー。
と色々思いながらも、皆に、上手だねー美味しいねーと言われると。
……なんか、それは、正直、すごく、嬉しいかも。しれない。
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お読みいただき、ありがとうございます♡
楽しんで頂けましたら、ブクマ&感想などよろしくお願いします♡
(好き♡とか短くても嬉しいです♡)
以前ライト文芸大賞で奨励賞を頂いた作品がこちら↓です。
「桜の樹の下で、笑えたら」
よろしければ…♡
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