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第11話 難攻不落
しおりを挟む色んな人が来てんなぁ。しかも出入り自由……すごい空間。
ふと、気付いて、隣にいた芽衣に聞いた。
「こういう時、いつもばあちゃんが一人で作ってる?」
「あ、ちがうよ、手伝える人が手伝いに来てる。持ち寄りの時もあるし」
そう聞いて、ふーん? と考える。
今日は持ち寄りでもないし、手伝いも無かったし。……ばあちゃん体調良くないなら、こういうのも負担にならないのかな。良い人だから、断れないとか……?
「あ、今日はね、碧くんと作るからいいって、めぐばあちゃんが言ってたの」
「え?」
「今そういうことじゃなかった? 今日は手伝い無かったなーみたいに思ってたでしょ?」
「ああ。まあ……オレと作るって?」
「そうー。碧くんと一緒に料理するの、楽しみにしてたんだよー。ほんとは私も手伝おうと思ってたんだけど、碧くんとするからって、断られちゃったから仕方なく仕事してきた」
「仕方なくって、芽衣ちゃん」
聞いてた環が苦笑いしてる。あははーと芽衣は笑ってる。
少し先で、ばあちゃんが話してる姿を見つめながら、そうなんだ、と心の中で呟く。
……楽しみに、か。
そう聞いて、胸に沸き起こるこの感情を、何て呼ぶんだろう。なんだか、久しぶりの気持ちで、自分でもよく分からない。
「あ、めぐばあちゃんが今話してる人が、先生だよ。数少ないお医者さん」
芽衣の言葉に、そちらを見ると。がっちりしたタイプの、ぱっと見、いかつい感じの人。ばあちゃんには笑ってるけど黙ってたら、怖そうかな。年は結構いってそう。ここの人達皆、色々オレに話しかけながら中に入ってきた人が多いけど、あの人とは話してない。あんまり気安い医者じゃなさそう。……病気のこと、詳しく、聞きたいんだけど。
元気そうに見えるけど。緩和ケア……って。あれだよな。苦痛を和らげて、生活の質を上げるとか……辛い治療を選択しない、普通に生きるための……。
もうすぐ死ぬみたい、と入ってきた訳だから、きっとそういう話も、あの先生とはしてるんだよな。
もうすぐ、って……。
考えたくないことって――――オレは、あんまり考えないようにして、生きてきたような。
オレの言いたいことなんて、全然聞いてくれない父さんのことも。
ただ仕事をして、ただ毎日過ごして……感情が動くこともなく、ぼんやり過ごしている、自分のことも。
何が好きだとか、何が嫌いだとか、強い気持ちもなく、ただ、ぼんやり。
ばあちゃんが死ぬとかは、一番考えたくないかも……。
……久しぶりに帰ってきたばかりで何言ってんだと、自分でも思うけど……嫌だって思うのは、マジだ。
――――嫌だけど考えたくないけど。……それでも、それだけは考えないと。
オレは、立ち上がると、ばあちゃんと先生の方に向かった。先生はテーブルの端に座っていたので、ちょうどいい。
「こんばんは」
そう言うと、先生は、ちらとオレに視線を向けた。
「碧か……久しぶりだな」
「――――」
この人もオレを知ってるのか。つかもう、オレ、まったく記憶ない。
「覚えてないか」
「すみません。……あんまり覚えてなくて」
「しょうがないよ、碧くん、小学生だったもんね」
ばあちゃんが助け船を出してくれてる。
「あ、先生、ここらへん、碧くんが作ったんですよ。先生も食べてね」
ばあちゃんがそんな風に言ってるけど、手を付けようとはせず、オレを見ているので、オレは話し始めた。
「ばあちゃんの主治医の先生、ですよね?」
「……ああ」
……うう。なんだこの会話のしづらい感じは。
「ばあちゃんが、お世話になってます……」
「……ああ」
ちーん……。ぽくぽくぽくぽく、と木魚の音が聞こえてくるような気がする。
はい。会話終了。ていうか、オレ、聞きたいこと、言い出せる雰囲気ではない。絶対すごく拒否られている。
何な訳、これ。ここまであからさまに拒否られるとか……。
と、そこで突然立ち上がる先生。
「帰る。めぐさん、また明日くるから」
「うん。よろしく、先生」
ばあちゃんが、あーあーという困った顔でオレを見てる。
あとでね、とばあちゃんは小声で言って、先生の後についていって、見送るみたい。
しーん…………。あーなんか。……久しぶりに、こういう感覚も、味わったかも。
奥の方に一人ぽつんと座ってるのもなんなので、立ち上がって、台所に移動。あれで医者とか、しかもこういうとこの医者なんてそんな居ないだろうし、いいの、あれで? と思ったのだが、立ち去りながら、他の人達とは話をしてる。皆も話しかけてるし、信頼はしてそう。
…………なんだ、オレ、あの人になんかしたっけ? なんか、昔すげー悪さして、めちゃくちゃ何かすごいことしたとか???
なんか……難航不落って感じだったな……。
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