「嫌いな君に、恋をした僕」

悠里

文字の大きさ
上 下
11 / 12

11.視線

しおりを挟む


 ――とりあえず折り返し地点まで行って戻ってくればまた水、飲めるし。がんばろ。

 やっぱり戻って飲めば良かったな、と思いながら走るけど。
 ……なんかちょっとくらくらする。

 前方から、カインが居る先頭集団が折り返しで走ってくるのが見えた。あっという間に近寄ってきて、速いスピードで、すれ違う。
 うわー。もう戻ってきたんだ。しかもすっごく速い。

 ……僕もここらで、折り返したい気分……なんて思っていたら。「シュリ?」と呼ばれて、腕を引かれた。すれ違って走っていったはずのカインが何故かそこに居た。

「……?」

 振り返ると、カインが一緒に走ってきた人たちは、そのまま先へと走っていく。何人かカインに気づいて、振り返ったけど。

「悪い、先に行ってて」
 そうカインが伝えてる。渋々といった表情で、その人達が走り去っていくと、カインは僕の腕を掴んだ。

「え、何……?」
「シュリ、ちょっとこっち来て」

 言いながら半ば強引に連れていかれたのは、脇の木陰。

「顔が真っ赤。水を貰ってくるから、ちょっと休んでて」
「何、言って……大、丈夫だし」
「駄目。すぐ来るから、じっとしてて」
「――」

 何なんだ、もう――。
 ほぼ無理無理、木陰に座らされて、かと思ったら、カインは走り去っていってしまった。

 水とってくるって……。
 別に僕、今から折り返しまで走って、戻ってきたところにあるお水、飲むからいいのに。

 ――。

 カイン達の先頭のグループに大分遅れて、また色んな人たちが、走り去っていく。
 僕に気づいて、ちらっと見ていく人はいるけど、特に止まる訳ではない。

 そりゃそうだよな。
 ……これの結果も、成績の一部になるわけだし。
 普通は、立ち止まったり、しない。

 ――なんか。めちゃくちゃ、光が、眩しいなあ……。世界が、白く見えるような……。
 こんな暑い日に、こんなことしなくてもいいのに……って二回目だなぁ……。

 何だかやたら瞼が重い。
 そう思ったのが、最後だった。


 ――ん??
 どこ。なんか白いな。目を開けてしばらく考える。

 部屋じゃないし。
 白いし、クリーム色のカーテンでベッドの周りを囲われているし。

 静かだし。
 あ、でも、なんか、カチャカチャ、という、食器?の音がするような。
 あ――保健室、かな。もしかして、僕、意識なくなったとか……?

 ゆっくり体を起こしたら、ギシ、とベッドが鳴った。

「シュリくん、目が覚めた?」
 そんな声とともに、カーテンが開いた。やっぱり、保健室の先生だった。

「……あの、僕って」
「走ってる間に意識が無くなっちゃったみたい。寝不足だったでしょ? 顔も真っ赤だったし。冷やして、お水をなんとか少しずつ飲ませてやっと熱が引いたけど――隈もすごいし。駄目よ、体調悪い時は、無理して走っちゃ」
「――すみません……あの、僕って、ここまでどうやって帰って来たんですか……?」
「カインくんがおんぶしてきたわよ。ついさっきまでここに居て、ずっと水差しで少しずつお水をあげてくれてたの。お礼言ってね」
「――」

 ……なんてことだろう。もう。すごい迷惑を掛けてしまった――カイン、ちゃんとゴールできてないのかな。あんなに速かったのに。


「今は、給食の時間で、呼ばれて行ったけど、心配そうだったわよ――あ、そうそう、シュリ君の給食もここに来てるから。食べられそう?」
「あ――はい」

 食べないと。倒れるとか、困るし。
 立ち上がるとちょっとくらくらするけど、先生が用意してくれた机に座って、なんとか食事を食べた。

 おんぶされて、ここまでって……他の人たちも、見ていたのかな。
 うう。すごく嫌だな。みっともないし。……カインに、迷惑を掛けてしまった。借りも、作りたくないのに。

 半分くらいは食べ終わったところで、授業開始のチャイムが鳴った。

「授業に戻れそう? 担任の先生もさっき来て、無理しなくていいとは言ってたから。もうこのまま寮に戻ってもいいけど」
「――いえ、出ます」

 今日の授業は出ないと。――苦手科目だし。 
 先生にお礼を言って、保健室を出る。ゆっくり教室に向かって歩くけれど、なんだか足が重い。
 ああなんか、ほんと……情けないなあ。
 こんなの父さんに連絡がいったら、一発で、もう学校なんかいいから、働けって、言われそう。ため息が零れる。


 教室に入ると、皆が僕を振り返った。


「――?」

 なんかいつもなら、スルーされると思うのに、なんだか、変に視線を感じる。なんだろ……?
 入口で足を止めた僕に、先生が気づいて話しかける。

「あぁ、シュリ君、具合はどうだ?」
「大丈夫です。遅れてすみません……」

 そう言って、席に座る。
 ――その間も、なんだか視線を感じる。

 何だろ。意識不明とか言っても、走ってて倒れただけだし、そんなに見られることじゃないような気もするのだけれど。

 授業が再開すると、視線は感じなくなったので、そのまま、考えるのをやめて、勉強に集中することにした。




しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

平凡顔のΩですが、何かご用でしょうか。

無糸
BL
Ωなのに顔は平凡、しかも表情の変化が乏しい俺。 そんな俺に番などできるわけ無いとそうそう諦めていたのだが、なんと超絶美系でお優しい旦那様と結婚できる事になった。 でも愛しては貰えて無いようなので、俺はこの気持ちを心に閉じ込めて置こうと思います。 ___________________ 異世界オメガバース、受け視点では異世界感ほとんど出ません(多分) 些細なお気持ちでも嬉しいので、感想沢山お待ちしてます。 現在体調不良により休止中 2021/9月20日 最新話更新 2022/12月27日

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

拝啓、許婚様。私は貴方のことが大嫌いでした

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【ある日僕の元に許婚から恋文ではなく、婚約破棄の手紙が届けられた】 僕には子供の頃から決められている許婚がいた。けれどお互い特に相手のことが好きと言うわけでもなく、月に2度の『デート』と言う名目の顔合わせをするだけの間柄だった。そんなある日僕の元に許婚から手紙が届いた。そこに記されていた内容は婚約破棄を告げる内容だった。あまりにも理不尽な内容に不服を抱いた僕は、逆に彼女を遣り込める計画を立てて許婚の元へ向かった――。 ※他サイトでも投稿中

それ以上近づかないでください。

ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」 地味で冴えない小鳥遊凪は、ある日、憧れの人である蓮見馨に不意に告白をしてしまい、2人は付き合うことになった。 まるで夢のような時間――しかし、その恋はある出来事をきっかけに儚くも終わりを迎える。 転校を機に、馨のことを全てを忘れようと決意した凪。もう二度と彼と会うことはないはずだった。 ところが、あることがきっかけで馨と再会することになる。 「本当に可愛い。」 「凪、俺以外のやつと話していいんだっけ?」 かつてとはまるで別人のような馨の様子に戸惑う凪。 「お願いだから、僕にもう近づかないで」

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

狂わせたのは君なのに

白兪
BL
ガベラは10歳の時に前世の記憶を思い出した。ここはゲームの世界で自分は悪役令息だということを。ゲームではガベラは主人公ランを悪漢を雇って襲わせ、そして断罪される。しかし、ガベラはそんなこと望んでいないし、罰せられるのも嫌である。なんとかしてこの運命を変えたい。その行動が彼を狂わすことになるとは知らずに。 完結保証 番外編あり

僕はお別れしたつもりでした

まと
BL
遠距離恋愛中だった恋人との関係が自然消滅した。どこか心にぽっかりと穴が空いたまま毎日を過ごしていた藍(あい)。大晦日の夜、寂しがり屋の親友と二人で年越しを楽しむことになり、ハメを外して酔いつぶれてしまう。目が覚めたら「ここどこ」状態!! 親友と仲良すぎな主人公と、別れたはずの恋人とのお話。 ⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。 大晦日あたりに出そうと思ったお話です。

【完結】捨ててください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。 でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。 分かっている。 貴方は私の事を愛していない。 私は貴方の側にいるだけで良かったのに。 貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。 もういいの。 ありがとう貴方。 もう私の事は、、、 捨ててください。 続編投稿しました。 初回完結6月25日 第2回目完結7月18日

処理中です...