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10.持久走
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「い、た……」
「シュリ、固いよね」
クスクス笑うカイン。僕はムッとして振り返る。
「そんな押さなくて、いいから……」
「駄目だよ、ちゃんとのばさなきゃ。ほら、足もちゃんと開いて」
絶対わざと痛くしてる気がする。周りの視線が気になるので、あんまり反応したくないんだけど。
いつも目立たず視線なんて浴びずに生きているので、カインと一緒にだとしても、見られてるのは嫌。ていうか、なんであいつと? って視線だよう、絶対。
「……痛いってば、むり……」
「――」
半分涙目。無理無理と首を振りながらカインを見上げると、ふ、とカインが笑う。
「はは。なんかかわい、シュリ」
周りには聞こえないように囁いてから、カインが僕の隣に座った。
「じゃあ今度は押して?」
……言われなくても押すし。
なんか腹が立つから、いっぱい押してやるのだけれど。
カイン、体やわらかいな。くそ。全然痛がってないし。運動できる人って、体もやわらかいの?? 全然痛いとか言わないし。むーー! 悔しがっていると、カインに気づかれたのか、「ごめんね、柔らかくて」と、クスクス笑われる。いちいちムカつくのだ。
柔軟はほんの数分。すぐ集合するように声が掛かって、カインとは自然に離れた。この程度のことだったら、組にさせなくてもいいのに。先生に、心の中でひたすら文句を言っていると、走るコースについて、説明があった。
――走るの、嫌い。特に持久力が必要なものは特に。そこまで早くはないけど、短い距離を全速力で走るほうが、まだまし……とか言って、運動は全般苦手だけど。
とにかく、ビリじゃ無ければいいや。
これ以上カッコわるいとこは見せるの悔しいし。頑張ろう。
「カインは一位かなあ」
「走るの得意だよねー?」
カインを囲んでる女子も男子も、そんな風にカインに話しかけてる。
――そっか、こういうのも得意なのか。まあ……そうだよね。……はー。やだ。ほんとに。何でも普通の顔してこなしちゃう奴。
僕ってば醜い嫉妬だなあと分かってるけど、でも誰にも聞かれないし、まあいいや。そう思っていたら。「はい、スタート」と先生が、手を大きく叩いた。
「水を補給するポイントを設けてあるから、しっかり水分は取るようになー」
先生が、僕らをスタートさせながら、そう言った。
皆、先は長いとばかりに、ゆっくりと、走り出したのだけれど、少し距離が進んでいくと。
周りの人達、皆、早くて、あっという間に遠ざかっていく。
こんなペースで走るの……?
皆のペースに合わせようとして、必死に足を動かすのだけれど、息はすっかり上っていく。
なんか、足、重い。
今どのくらい走ったんだろう。最初のカーブ、もう皆は大分先を走ってくる。
ああ、なんかビリは嫌とか言ったけど、もはやこれは確実にビリだな。というか……完走できるかな。
一歩一歩足を踏み出すけれど、足が重くて、進んでる気がしない。
今日は割と暑い日で――何でこんな日に持久走なんて、と泣きたい気分。それでもなんとか、ちゃんとゴールしたところをカインに見せたい……気がする。
――でも足が重い。
折り返し地点の少し前にある給水ポイント。たどり着いた時には、喉がカラカラ。コップを取ろうとしたけれど、慌ててたせいかうまくつかめなくて、少しこぼしてしまった。
「あ」
コップに少ししか入っていない。ひと口しか飲めないまま、また走り出した。人が立ってるからなんだか戻るのもみっともない気がして、そのまま。
ちょっと飲んだから、余計に喉が渇くような。
なんでうまく飲めないんだろ……あれくらいのこと、失敗するなんて。
ちょっと落ち込みつつ。それでも、ゴールまで頑張ろうと、自分に言い聞かせながら走る。
「シュリ、固いよね」
クスクス笑うカイン。僕はムッとして振り返る。
「そんな押さなくて、いいから……」
「駄目だよ、ちゃんとのばさなきゃ。ほら、足もちゃんと開いて」
絶対わざと痛くしてる気がする。周りの視線が気になるので、あんまり反応したくないんだけど。
いつも目立たず視線なんて浴びずに生きているので、カインと一緒にだとしても、見られてるのは嫌。ていうか、なんであいつと? って視線だよう、絶対。
「……痛いってば、むり……」
「――」
半分涙目。無理無理と首を振りながらカインを見上げると、ふ、とカインが笑う。
「はは。なんかかわい、シュリ」
周りには聞こえないように囁いてから、カインが僕の隣に座った。
「じゃあ今度は押して?」
……言われなくても押すし。
なんか腹が立つから、いっぱい押してやるのだけれど。
カイン、体やわらかいな。くそ。全然痛がってないし。運動できる人って、体もやわらかいの?? 全然痛いとか言わないし。むーー! 悔しがっていると、カインに気づかれたのか、「ごめんね、柔らかくて」と、クスクス笑われる。いちいちムカつくのだ。
柔軟はほんの数分。すぐ集合するように声が掛かって、カインとは自然に離れた。この程度のことだったら、組にさせなくてもいいのに。先生に、心の中でひたすら文句を言っていると、走るコースについて、説明があった。
――走るの、嫌い。特に持久力が必要なものは特に。そこまで早くはないけど、短い距離を全速力で走るほうが、まだまし……とか言って、運動は全般苦手だけど。
とにかく、ビリじゃ無ければいいや。
これ以上カッコわるいとこは見せるの悔しいし。頑張ろう。
「カインは一位かなあ」
「走るの得意だよねー?」
カインを囲んでる女子も男子も、そんな風にカインに話しかけてる。
――そっか、こういうのも得意なのか。まあ……そうだよね。……はー。やだ。ほんとに。何でも普通の顔してこなしちゃう奴。
僕ってば醜い嫉妬だなあと分かってるけど、でも誰にも聞かれないし、まあいいや。そう思っていたら。「はい、スタート」と先生が、手を大きく叩いた。
「水を補給するポイントを設けてあるから、しっかり水分は取るようになー」
先生が、僕らをスタートさせながら、そう言った。
皆、先は長いとばかりに、ゆっくりと、走り出したのだけれど、少し距離が進んでいくと。
周りの人達、皆、早くて、あっという間に遠ざかっていく。
こんなペースで走るの……?
皆のペースに合わせようとして、必死に足を動かすのだけれど、息はすっかり上っていく。
なんか、足、重い。
今どのくらい走ったんだろう。最初のカーブ、もう皆は大分先を走ってくる。
ああ、なんかビリは嫌とか言ったけど、もはやこれは確実にビリだな。というか……完走できるかな。
一歩一歩足を踏み出すけれど、足が重くて、進んでる気がしない。
今日は割と暑い日で――何でこんな日に持久走なんて、と泣きたい気分。それでもなんとか、ちゃんとゴールしたところをカインに見せたい……気がする。
――でも足が重い。
折り返し地点の少し前にある給水ポイント。たどり着いた時には、喉がカラカラ。コップを取ろうとしたけれど、慌ててたせいかうまくつかめなくて、少しこぼしてしまった。
「あ」
コップに少ししか入っていない。ひと口しか飲めないまま、また走り出した。人が立ってるからなんだか戻るのもみっともない気がして、そのまま。
ちょっと飲んだから、余計に喉が渇くような。
なんでうまく飲めないんだろ……あれくらいのこと、失敗するなんて。
ちょっと落ち込みつつ。それでも、ゴールまで頑張ろうと、自分に言い聞かせながら走る。
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