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9.じわじわ
しおりを挟む――カインは、どんなに遅くなっても、泊りはしない。
おやすみ、と言って出ていく。もちろん、それでいいんだけど。
別に、一緒に寝たいとか、そんなんじゃないし。全然、構わないんだけど。
よく、分からないんだけど、カインが夜中に、僕の部屋から居なくなると。
なんか急に部屋の中がシーンと静まり返って、窓の外の虫の声がやたらに聞こえてくる。
虫、うるさい。
虫、嫌い。
僕は、布団にくるまって、眠りにつく。
学校では、カインとは話さない。
というか、まあ僕は、勉強をしてるから、ほとんど誰とも話さないけど。
教室移動の時。
廊下でカインを見かけた。
カインの周りには、顔がいい人たちが多い。家柄も良いのだろうなっていう雰囲気の。
カインの腕にまとわりついてる女の子たちが見える。
――カインの周りの集団は、目立つ。その中でも、カインは一番、目立つ。背が高いから、かな。なんか。どうして、あんなに、目に飛び込んでくるのか。見たくないのに、どうしてなんだろう――ムカつくなぁ。
――普段は一人でも別に何でもない。
僕はここに勉強する為に居る。
できらたここを卒業して、良い成績の人だけが行ける、良い就職先に行きたい。出来たら、父さんの仕事は、継ぎたくない。父さんの下になんていったら、一生、自由は無い。
だから、勉強して、学校を辞めさせられないようにしないと。
その為なら、ずっと勉強してて、友達が出来なくても、遊べなくても、いい。
この期間は――その後の、僕の一生を決める、大事な期間だから。
カインに勝たないと、父さんの認める一位になれない。
僕の目標は、学校を辞めさせられずに卒業すること。
だから、僕はこの学校では、勉強だけ、していられれば、いい。のだが。
◇ ◇ ◇ ◇
「はい、二人か三人で組を作って、柔軟体操―」
運動の授業。今日は、長く走る訓練とか言ってて。最悪なんだけど。
その前に、組を作って、体操をしろという先生。
別に柔軟なんて、一人で出来るのに。
組を作れとか言われると、ちょっと困る。
運が良ければ、僕の他にも居る、あんまり人と関わらない人達と、偶然組になったりするのだけれど、今日はたまたま、言われた時に、付近にそういう人達がいなかった。
しかも最悪なことに、今日の運動の授業は、全クラスの男女が一緒。
――カインも居るのに。
「まだ一人の人いる?」
先生がそんなことを言ってくる。……なんか。やな感じ。
仕方なく僕が手をあげると、「他に一人のひと、居ないの?」と追い打ちをかけてくる。
「じゃあ誰か、三人のとこ、一人ばらけて」
……好きだから組になってるのに、僕と組むために離れる人なんか居る訳ないし。この先生、前から思ってたけど、デリカシーとか無いよな。運動だけできるタイプかな。はーもう……。
「いっつも勉強ばっかしてるから友達居ないんだよなー」
「可哀想にな」
「聞こえるって」
不快な外野の声まで聞こえてくる。別に気にしない。
僕は敢えてそうしてるし。今だって、この柔軟を乗り切っちゃえば、一人だって全然問題なく生活できるし。
「僕、別に一人で」
柔軟なんて、一人で出来るし。言いかけた瞬間だった。
「じゃあオレとやろ」
涼やかな声。は。
カインだった。――カインと組んでた二人が、「えっ」と顔を見合わせている。
「オレでいい? シュリ」
「――」
――ここでいらないと言うのも、なんかおかしいのは分かるから。
僕は、小さく、頷いた。
何でカイン――?
いい奴すぎじゃね?
そんな声が、こそこそと、聞こえてくる。
「シュリ座って」
言われる通りに座ると、カインが、背中を押してくる。
「シュリ、体かたいね――もう少し、行ける?」
クスクス笑いながら、背中を押す手に力を入れるカイン。
――いつも学校では話しかけてこないのに。何で。
なんか、周りの人達に見られてる気がする。
なんだか――変な感じ。
さっきまで、冷たく冷えてて、何も感じなかった心が。
何故か、じわじわと――……よく分からない感じが、する
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