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◇呼び方さえも

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 体大丈夫だから外に出られるよ、と陽斗さんが言うので、夕飯は、個室の居酒屋にやってきた。四人掛けの、窓から夜景の見える席。完全にドアの閉まる個室なので、二人きりの空間。ネットで探して初めて来たけど、良い感じの店で良かったと思ってると、陽斗さんが窓から外を見ながら。

「すごいな、ここ。綺麗」

 微笑して、外を見てる横顔が、本当に綺麗に見える。

「そうですね」

 陽斗さんのほうが綺麗、とか。
 言ってしまいそうになるけど、ちょっとベタすぎるからやめにした。

「ビールでいい?」
「うん」

 メニューを陽斗さんに渡す。注文はタッチパネルなので先に飲み物を頼んだ。

「食べたいもの言ってって」
「んー……焼き鳥とか。串の頼んで」
「モモ?」
「うん。あと、豚しそとか……色々適当に」
「了解」
「あとサラダとか……」
「ん」

 適当に一通り頼んだところで、先に飲み物とお通しが運ばれてきた。
 ドアが閉まると、グラスを手に取る。

「じゃあ、陽斗さん」
「ん」
「付き合い記念で」

 そう言うと、陽斗さんは、はは、と笑って、グラスを近づけてきた。

「よろしく。三上」
「よろしくお願いします」

 そう言うと、ふ、と笑う陽斗さん。


「美味しー」

 言いながらグラスを置くと、オレをまっすぐ見つめる陽斗さん。

「三上、敬語で話したい?」
「んー……どうだろ。自然と今は敬語ですけど」

「その内崩してくれてもいいよ」
「……分かりました」

 頷いてから、ふと、思って。

「陽斗さん的には、どっちがいいんですか?」
「んー……まあ全然敬語でも慣れてるからいいんだけど。三上が、良い方で良いよ。崩したかったら、崩して」
「ん。分かりました」

 頷いてから少し考える。ゆくゆくは崩したいな。敬語って少しよそよそしい気がするし。でも仕事ん時は、敬語だろうから。混ぜてく感じか? 
 ちょっと今までそういう感じで、分けて接したことが無いからな。

「仕事では敬語なので、自然と敬語使うかもですけど」
「それならそれでいいよ」

 うんうん、と頷きながら、陽斗さんはオレを見てる。


「あ。名前は?」

 オレが聞くと、陽斗さんは、んーと首を傾げる。

「オレのことは、蒼生でいいですよ?」

 ふ、と笑って言ってみると、陽斗さんは、んー、と考えてから。
 蒼生、かぁ……蒼生……。と呟いてる。

「……も少し時間ほしいかも」

 そんな風に言って、顎に手を当てて悩んでる、照れたみたいな顔に、微笑んでしまう。

 いまんとこ、蒼生って呼んだのは、オレとそういうことしてて、オレが呼んでって言った時だけ、だったような。それを思い出してるのかなと。


「了解。……オレが、名前で呼ぶのは、ありですか?」
「陽斗って?」
「うん」
「……ちょっと考えさせて」
「はは。良いですよー、いくらでもどうぞ」

 そっちも、セックスしてる時だけ、だったよな。
 ――――まあ。

 そういうことしてる時にだけ呼ぶのも、それはそれで、萌えるから、全然いいんだけど。

 なんかこんな呼び方ひとつ、考えるとか言う陽斗さんが。
 ……すげー可愛いし、こんな会話がめちゃくちゃ楽しいとか。



 なんか、ちゃんと恋する、って。
 ――すげーかも。




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