259 / 273
◇我慢。
しおりを挟む服を脱いで、中に入ると、陽斗さんはちょっと目を逸らす。
……恥ずかしいのかなーと思うと、可愛く思えて。だめだこれ。我慢できるのか、オレ。……いや、するし。労わるって言っちゃってるし。
一歩入ったところから、葛藤の嵐だったけれど、何とか平常心を保つ。さっきシャワーは浴びてるので、ざっとお湯で流してから、バスタブの方を向いた。
分かってたけど、男二人で、並んで入れるほど広くはない。
「陽斗さん、改めて見るとすごく狭いですけど、オレ、どうやって入ります?」
「……いっこしかなくないか? 入る方法」
言いながら、陽斗さんは座ったまま前に進んで、背中側を開けてくれる。
……それしかないよなあとは思ったけど。これだとめちゃくちゃ後ろから抱き締めることになっちゃうけど。……まあでも前から抱き締める方がヤバいから、後ろからが、唯一の選択肢か。
陽斗さんの後ろから湯舟に入って座って、もうそうするしかなくて脚を開くと、その間にすぽ、と寄りかかってくる。
背中がオレの胸にあたってるけど、なんとなく腰から下部分は離れようとしてるみたいで、だいぶ前。
ぷ、と笑ってしまった。
「……なに?」
振り返った陽斗さんに、不審げに見つめられる。
「なんか微妙に下の方、離れてるから……」
「……っだって、くっついちゃうと、なんか……」
「うん。離れててくれた方が助かるかも」
「……そう言われるのも、どうかと思うんだけど……」
なんか恥ずかしそうにぶつぶつ言いながら、前を向いた陽斗さんは、膝を抱えるような感じで、ちょっと前に離れていった。
引き留めて抱き寄せたい気持ちもあるのだけれど、今それをすると、そのまま触っちゃいそうな気がして、とりあえず動かずにいると、少し離れた陽斗さんの背中が視界にモロ入ってくる。
――――……背中、綺麗だな……。
首筋と、後ろから見える、耳の辺り。あったまってるせいか、ちょっと赤くなってて。……なんか、かわいい。
お湯の雫って。
……こんなにそれだけでエロかったっけ?
首筋や背中を伝う雫にすら燃えそうで、思わず視線をそらしたところで、陽斗さんが、クスッと笑った。
「やっぱり、狭いね」
「……そう、ですね」
「男二人だもんなー」
「……ですね」
膝を抱えた感じのまま、ちら、と振り返ると、陽斗さんは、湯舟に張り付いてるオレを見て、クスクス笑った。
「……最大限離れてるって感じ」
「んーだって……くっついたらヤバそうで。もうちょっと、視覚が慣れたら、チャレンジしてみます」
「何だそれ……」
陽斗さんは、可笑しそうに笑いながら、また、前を向いた。
正直、開いた脚にどうしようもなくて触れてる部分だけだって、結構クるし。マジで落ち着け、オレ。
「……なんかさ」
「はい?」
「部長と話して、聞いたんだけどさ」
「何をですか?」
何だか陽斗さんの声が笑いを含んでいて、オレも思わず顔が綻ぶ。
「……京都行く時さ、部長の変なお願い、聞いてくれたんだって?」
「変なお願い?……あ」
「ボディーガードのつもりだった?」
「……あー。いや。そんなのほんとにあんのかって、思ってもいたんですけど……一応そのつもりもありましたけど」
「……部長は、三上が嫌そうだったら頼まないつもりだったみたい。普通に受けてくれたからそのまま頼んだって」
「そうなんですか。つか、言ったんですね、部長。秘密って言ってたのに」
苦笑いでそう言うと。
「仲良くなって帰ってきて良かった、とか言ってた」
陽斗さんはクスクス笑いながらそう言ってから、ふ、と息をついた。
「なんかさ。オレ、あんな態度でずっと来てたのに、そんな変なお願い聞いてくれたって話聞いたらさ」
「――――……」
「なんか……やっぱ、三上は良い奴だなー、て思って……」
何だかとっても恥ずかしそうな感じで、ぽつぽつと話す。
「オレ、お前にすごい、会いたくなったんだよね……」
そんなセリフが嬉しいし。
なんだかな。……もう、とにかく、すごく。可愛い。
73
お気に入りに追加
1,251
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
そばにいてほしい。
15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。
そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。
──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。
幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け
安心してください、ハピエンです。
赤ちゃんプレイの趣味が後輩にバレました
海野
BL
赤ちゃんプレイが性癖であるという秋月祐樹は周りには一切明かさないまま店でその欲求を晴らしていた。しかしある日、後輩に店から出る所を見られてしまう。泊まらせてくれたら誰にも言わないと言われ、渋々部屋に案内したがそこで赤ちゃんのように話しかけられ…?
僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした
なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。
「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」
高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。
そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに…
その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。
ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。
かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで…
ハッピーエンドです。
R18の場面には※をつけます。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる