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◇撃沈。

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「三上、夕飯どうしたい?」

 会社を出た所で立ち止まって、先輩はオレを見て、笑顔で聞いてきた。

「陽斗さんは?」
「んー……」

 少し黙ってから、先輩はオレを見上げる。

「定食屋、行く?」
「あれ、飲みには行かないですか?」

「うん。飲まなくていい。三上が良いなら」
「良いですよ」

 頷くと、先輩がゆっくり歩き始めるので、オレもその隣に並んだ。


「昨日飲み過ぎましたか?」

 そう聞くと、先輩は不思議そうな顔でオレを見つめる。

「何で? そこまで飲んでないよ?」
「じゃあなんで飲まないんです? オレ、昨日飲まない代わりに今日飲んでいいですよって言いましたよね」
「あー。言ってたね」
「だから今日は飲みに行くと思ってました」

 笑いながら言うと、先輩は、オレをじっと見上げた。

「だってさ」
「はい?」

「だって……お前んとこ、行く、でしょ」
「――――……」

 なんか。すごく可愛い顔で、オレを見てる。

 ……えーと……オレんとこ行くから飲まない。
 …………オレんとこ行くから。
 それって。


「……あのさ、陽斗さん、それってどういう意味?」
「え?」

 先輩はふっとオレを見て、オレと目が合うと。

「どういうって……」

 口ごもった瞬間、かああっと赤くなっていく。

「それ、何で聞くんだよ……わかんないの?」

 ぷい、とそっぽを向かれてしまう。
 うわ。これ。照れてる……?


「……飲んでもいいけど。酒飲んで、酔っ払ったら、オレ今日、疲れてるから寝るけど」
「――――……」
 
「……いいの?」

 最後の一言で、オレの方に視線を戻して、なんだか不満そうにふくらんでいる。

 ……こういうの、絶対会社ではしない顔。
 オレの前でだけ、するんだと思うと。

 今すぐ抱き締めて、キスしたい。


「……飲みに行きたいなら行くけど?」

 そんなこと、嫌そうに言われると。
 ――――……。

 オレは、先輩の腕を掴んで、歩き出した。


「……あのさ。どっかで買って帰りましょ?」
「――――……」


「陽斗さんに、触りながら食べたい」
「っ」

 オレに腕を取られたまま急いで歩いてた先輩は、一気に真っ赤になった。


「さ、わり……って」
「え?」

「……ど、こに?」
「――――……」


 もう、なんか、動揺しすぎて。
 歩く速度は完全に落ちて。掴んでた腕はそっと離した。


 なんか。
 ……可愛すぎて、無理なんだけど。

 マジで勘弁してよ。


 どこにって何。
 どこにって。

 とにかく近くに座って、ひっついて食べたいって思っただけなんだけど。
 そんな真っ赤な顔で、どこに触るとか聞かれるとか、もう。


「……どこに触ってほしいですか?」

 なんだか、可愛すぎて、意地悪な質問しか何故か出てこない。

 ゆっくり歩きながら、至近距離で見下ろしながら言ったら。

 なんか思った以上に、すっごい赤くなったまま、ムッとして。
 軽く睨まれたけど。


「――――……」


 ――――……もうどうして、こんなに、可愛く見えるんだろう。
 ……つか、可愛いよな。絶対。

 何な訳。
 さっきまで、会社では、絶対「カッコいい先輩」だったのに。
 そう、思っていたら。
 

 

「……好きなとこ、触ればいいじゃん」



 恥ずかしそうな表情で。ぼそ、と言ったそのセリフに。
 なんかもう、完敗。

 完全に、撃沈させられた気分になる……。
 




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