【愛じゃねえの?】~社会人*嫌いだったはずの先輩に恋する理由。攻めの後輩視点

悠里

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◇落ち着け

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 思っていたよりも、メールがたくさん届いていて、先輩はまずその返信に追われていた。返信を代わりにすることはできないけれど、求められた資料を作ったり、探してきたりすることは出来る。手分けして対応していって、あれから二時間。


「もう、いいかなー。あとは来週、頑張るよ」

 先輩が、ふ、と息をつきながらそう言った。

 待ちに待っていた一言。
  
「三上、今途中のは、オレにメールで送っといて。続きは来週やるから」
「来週これ最初にやって、終わらせたら送りますよ」

「……ん、分かった。ありがと」

 ふ、と先輩が笑う。


「頼りになるなー、後輩」

 クスクス笑いながら、そう言って、先輩がオレを見つめて、目を細める。

 ――――……瞬間。
 なんかこれが、ずっと欲しかったんだなーと、思ってしまった。

 ずっと、褒めてほしかった、のかも。オレ。
 他の奴、褒めるみたいに。――――……認めてほしかったんだよな。

 ……めちゃくちゃ素直に認めてしまうと、笑顔、向けて欲しかった。

 多分、もう、恋焦がれるみたいな気持ちで。
 で、それが叶わないから、苛ついて、祥太郎に愚痴っていたような気がする。

 今、惜しげもなく向けられる笑顔が、本当に嬉しくて。
 どんだけ、前から、この人のこと好きだったんだろ。とか思ってしまう。

 ――――……会った時からかなあ、やっぱり……。
 綺麗だって思って、でも、無表情にムカついて。
 ムカついてても、この人に出来ないって思われたくなくて頑張ってたんだっけ。


「――――……オレ、もっと役に立つようになりますね」

 思わず言ったら。
 先輩はきょとんとした顔で、オレを見た。

 しばらく、二人で無言で見つめ合ってしまった。


「……今、もうなってるよ?」
 
 先輩がふわっと笑って、そんな風に言う。


「これ以上ならなくても平気だけどな」

 クスクス笑いながらそう言って、ぽんぽん、とオレの肩を叩くと、再びパソコンに向かう。


 ――――……なんかすっげー嬉しいけど。


「でも、なりますね。――――……仕事以外でも」
「――――……」

 黙ったまま、オレを振り返って、じっと見つめられてたけど、少しして、ふ、と嬉しそうに笑って、先輩は頷いた。


「だからさ、今、もうなってるってば」

 笑顔のまま、そう言って、先輩はパソコンの方を向く。

 ――――……なんか、ちょっと、顔が赤いような。
 耳、赤い。


 ……照れてるなあ、きっと。

 そこには突っ込まず、少しの間、またパソコンに向かっていると。


「パソコン落として帰ろ?」

 先輩がそう言うので、はい、とだけ言って、ファイルを保存、電源を落とした。終了画面が出ている間に机を片付けて鍵をかけ、鞄を用意。
 先輩の画面も、終了画面に変わる。


「――――……先輩、どうします? 夕飯」

 同じように机を片付けていた先輩に、近くに人が居ないのを確認してから聞いたら、振り返られた。


「出てから決めよ?」
「あ、はい」

「少しだけ部長のとこ行ってくる。待ってて?」
「はい」

 立ち上がって、部長の元へと離れていく後ろ姿を見送る。


 部長が笑顔で迎え入れて、なんだか楽しそうに話しているのが見える。


 あの二人、昨日同じ部屋に泊まったんだよなぁ……。
 いくら部長が子煩悩で、まったくそんなようなことが無かったとしても。

 なんか。ちょっと面白くない。

 浴衣で寝た? ……そうだよな、きっと。急な出張だし。
 普通浴衣しかねーしな。浴衣姿、見せたっていうだけで、面白くねーな……。

 何となく机の上のペン立てとかを整頓しながら、先輩の後ろ姿を眺めていると、すぐ終わったみたいで、くるっとこっちを振り返った。

 部長と話してたままの笑顔のまま。
 オレとばちっと目が合うと、遠くからニコッと笑いかけてくる。


「――――………」

 面白くねえとか、思っていたのに。
 ……なんかめちゃくちゃ可愛く見えて。

 すぐに、胸の中が、ふわっと明るくなる、超現金な自分に思わず苦笑い。


「お待たせ」

 ニコニコしたまま戻ってきて、先輩は上着に袖を通す。

「帰ろ、三上」

 ――――……何だかなあ。

 スーツの上着を着る動作って、当たり前の動きで、他の奴のなんか全く見ないのだけれど。先輩がすると、なんか、見惚れてしまう。


 ウエスト、細くて。
 脱がせて、抱き締めたいなーとか……。


「三上? 立たないの? 帰ろうよ」
「あ、はい」

 無邪気な顔をした先輩が不思議そうにそんな風に言ってきて、オレを少し覗き込んでくる。あ、と気付いて、立ち上がった。

 
 ……ヤッベーな、すっげーやらしい妄想するとこだった。
 なんか今、頭、そっちの方にしか向かないかも。
 
 落ち着け。まだ早いし。まず夕飯。


 自分に向けて、ひたすら唱える。

 

 

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