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side*陽斗 8
しおりを挟むあれからしばらく部長のお酒に付き合ってから店を出て、いったん部屋に戻ってきた。
やっぱり少し休んでから風呂に入りたいと言って、部長は部屋の座椅子に腰かけて、テレビをつけた。
オレは、窓辺から、下の庭を眺める。
――――……なんか。
三上の声が聞きたいんだけど……どうしようかな……。
そう思って、部長を振り返った。
「部長、ちょっと外の庭、歩いてきてもいいですか?」
「何、綺麗なのか?」
「はい。ライトアップされてて」
「んー……じゃあ、この番組見終えたら風呂行くから、そこまでに戻ってこいよ」
「二十分位ですか?」
時計を見ながら聞くと、「ああ」と頷いてる。
「分かりました」
そう返事をして、部屋を出た。スマホを取り出したけれど、廊下があまりに静かなので電話はかけず、一階に降りて、庭に向かう。
外に出て、通話ボタンを押した。
何度か呼び出し音。
その間に、ひとけのない左側に向かって、ゆっくり歩く。
――――……出ないなー。
いつもの店に行くって言ってたし。
仲間の子達、来てたら、電話気づかないかもな。
しょうがないか。
ぴ、と切って、どうしようかな、とあたりを見回す。
ふとさっきも見た満月を見上げる。
近くにあったベンチに腰かけて、ふー、と息をつく。
ライトアップされてて少し眩しいから、さっき窓から見上げた時よりは、月が薄く見える気がする。
しょうがないな……。またあとでかけよ。
戻って、部長と温泉行くか。
――――……あ、でも。
綺麗に光った樹々に、カメラを向ける。
何枚かシャッターを押して、一番綺麗なのを、三上に向けて送信した。
「綺麗だろ」と、一言入れて、スマホを閉じると、立ち上がった。
その瞬間。
スマホが震えだした。
「――――……」
三上の名前に、ドキ、とする。
「……もしもし」
『陽斗さん? ごめんね、さっき気づかなくて』
そう言った三上の後ろはやっぱり少し騒がしくて。
その後、すぐに静かになった。
「店、出たの?」
『そう。仲間来てたから、うるさかったでしょ』
苦笑いの三上。
『部長は一緒? 今何してるとこ?』
「部長は結構飲んでたから、温泉に行く前の休憩中。テレビ見てるよ」
「はは。そうなんだ。陽斗さんは?」
『今、庭を散歩しようかなって……』
「ああ、庭の景色なんだ。綺麗ですね」
『うん』
ふ、と笑みがこぼれてしまう。
『ていうか』
「……?」
『オレ、馬鹿なこと言いますけど』
「うん? 何?」
なんだろう、と待っていると。
『……部長と温泉行くんですか?』
「――――……」
瞬きの回数が、今すごく増えた気がする。
「……なー、三上」
『はい?』
「もー……嘘だろ?」
『……だから馬鹿なことって言いました……分かってますよ』
あ。なんか。
ちょっと拗ねた。
ふ、と笑いが零れてしまった。
可愛いなぁ……。三上。
「まったく、問題ないから」
『――――……あんまり、裸見せないでくださいよ』
「……だからー」
『貸切とかじゃないですよね?』
「なんで、部長と貸切入るんだよ」
苦笑いしか出てこない。
「大浴場って書いてあったよ」
『……もー。ほんと、ささっと入ってね、陽斗さん』
「……うん。もー。分かったよ……」
はー、とためいきをつくと。
『まあ、さすがに……部長と陽斗さんが、って、マジで想像してる訳じゃないんですけどね』
三上が、クスクス笑ってる。
「……当たり前」
オレがそう言うと、でもね、と三上が続ける。
『でもやっぱり――――……あんまり見せないで。裸とか。可愛いとことか』
「……だから。オレを見て、可愛いとか……」
『思うかもしれないですよ。可愛いですもん』
「……はいはい、分かった。分かりました。気をつければいいんだろ?」
『はい』
クスクス笑う三上の声。
優しくて。
なんかやっぱり。
――――……すごく好きだなと。思う。
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