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◇ネクタイ
しおりを挟む無意識に人を煽りまくる先輩との朝食を何とか終えて、片づける。
「三上、そろそろ、オレんちに行っていい?」
「ですね。出ましょうか」
オレのマンションを出て、先輩の家に向かって歩き始める。
少し早いから、人も少なめ。並んで歩きながら、先輩を見下ろす。
「二日酔いは? 少し痛いって言ってたのは、もう治りました?」
「大丈夫だよ」
ふ、と笑んで、先輩がオレを見上げてくる。
「ごめん、なんか昨日は志樹と色々話しながら飲みすぎちゃったみたいで」
「――――……」
昨日は、きっと、兄貴との話に結構ドキドキしてただろうし。
しょうがないのも分かってる。
「昨日飲みすぎちゃったのは、分かるんですけど」
「けど?」
「あんまり飲み過ぎないでくださいね」
「うん。ごめんな」
その「ごめんな」に、ちょっと引っかかって、先輩を見つめた。
「あ、なんか違います。オレは、陽斗さんが可愛くなり過ぎちゃうから、飲まないでって言ってますからね」
「え?」
「また、迷惑かけるとか、よく分かんないほうで、ごめんって言いましたよね?」
「……普通、そっちだよね」
先輩の言葉に苦笑いしながら、オレは首を振った。
「なんか、とろんとしてて、可愛いから。しかも――――……なんか、前より余計可愛くなってるって気がするし」
「――――……三上、意味わかんない」
そう言ってから、む、と口を閉じてる。
「オレが居る時は飲んでいいですよ、連れて帰るから」
「――――……」
何言ってんの、ほんと。と、先輩は苦笑い。
「オレのが年上なんだけど。しかも結構」
「……でも可愛さで言ったら、陽斗さんのが可愛いから」
そう言うと、先輩は、苦笑い。
「なんか、ほんと、おかしいと思うんだけどさ。オレを可愛いとか言うの、三上だけだと思うんだけと」
「――――……」
確かに、可愛いというのは、あんまり聞いた事がない。
皆、カッコいいって言うしな。
「――――……そんなことは、ないと思います」
オレが言うと、先輩は首を傾げて、クスクス笑う。
絶対可愛いよな。
オレだけ? ……そんな訳ないと思うんだけど。
可愛いという言葉が、言い辛いってだけの話じゃねえのかなぁ。
先輩の家に着くと、座ってて―と言われて、先輩が奥に消えた。
ソファに腰かけて待ってると、シャツとスーツを着替えて、先輩が戻ってきた。
上着とネクタイを椅子に掛けて、ボタンをはめてる。
「ちょっと貸して」
オレは立ち上がって、そのネクタイを手に取った。ボタンを留め終わった先輩と目を合わせる。
「つけてさせて?」
「――――……いいけど。人の、出来る?」
「分かんない。人のやるの初めてだから」
「男は普通はそうだよね」
そう言うと、クスクス笑って、先輩はオレを見つめる。
後ろ襟の下に通して、前に回して、先輩の前でクロスさせる。
「――――……こうかな……あ、逆か」
やっぱ反対からだと難しいな、と呟くと、先輩が少し、笑う。
――――……なんか。近い、な。
意識しないでやったけど。
やたら、近い。
すぐ真下に先輩が居る感じ。
――――……あー、なんか。
上から見ると、睫毛、長い。
……可愛いなあ。
何か全然関係ない方に気を取られまくりながら、何とか締め終えた。
「……できたよ」
オレが言うと、ふと顔をあげて、オレを見る。
「ありがと、三上」
真下の先輩に。我慢できなくて。
唇を、キスで、塞いでしまった。
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