211 / 274
side*陽斗 1
しおりを挟む廊下の音楽が結構大きくて、個室にはほとんど聞こえない。
多分、どんな話をしても漏れなそう。
そんな個室に連れてこられて、目の前で、涼しい顔をして注文を終えた、同期の、社長代理。
でもって。……三上の、兄。
――――……こうして見ると。顔は似てない、かな。
ちょっと前は、目がちょっと似てると思った気がするけど。
ただ、少し。雰囲気は、似てるんだよなぁ……。一緒に長く居ると、感じる。人に流されそうにない、独特な、雰囲気。
でも多分、他の奴は、似てるとかは思わないのかも。三上って名字一緒でも、他の誰もここが家族とか、疑いもしてないもんな……。
「志樹、今日、仕事大丈夫だったの? 無理しなかった?」
「大丈夫。今日は余計なの入れないでもらったし」
「え。このために?」
「そう。当たり前だろ、陽斗との飲みだしな?」
ふ、と視線を流される。
――――……う。ちょっと怖い。
「仕事の合間の食事以外では久しぶりだよな、陽斗とゆっくり飲みに来るの」
「んーでも、それは志樹が忙しいからだと思うけど」
「まあ、確かにそうだな……」
その時。ドアがノックされて、飲み物と前菜のようなものが運ばれてきた。すぐに店員が出て行って、話が続く。
「陽斗は仕事大丈夫だったのか?」
「うん。急ぎの分は終わったし、他は全部明日に回した」
「蒼生は?」
「うん。三上も、大丈夫。あの後すぐ帰ったと思う」
そう答えると、志樹は、ふ、と笑って、グラスを出してくる。
「ん。お疲れー」
かちん、とグラスを合わせて、そこから少しの間は、仕事の話。
でも多分、オレがそわそわしてるからだと思うのだけれど。
志樹が、ふ、と笑って、オレをじっと見つめてきた。
「今日話したいのは仕事じゃないよな?」
「――――……ん」
「……陽斗がそんな、そわそわしてんの、普段見ないな」
そんな風に笑われて。
「だって、ちょっと――――……状況、特殊過ぎて」
「そうか? 恋人の兄貴と話すってだけだろ?」
「……オレが志樹の弟とって……妹ならまだもう少しマシだったと思うけど――――……男っていうの、大きいし」
「別にオレは、気にならないから」
「――――……そうなの?」
志樹は、やっぱり、いろんな意味で、余裕過ぎる。のか。少しは、気を遣ってくれてるのか。
何て返したらいいのか少し戸惑いながら、志樹を見つめていたら、志樹がオレを見て、んー、と考えながら。
「オレが聞きたい事を聞いてく感じがいいか? それともお前から話す?」
「……じゃあ、まず、志樹が聞きたい事、聞いてよ」
そう言うと、志樹は少し楽しそうに笑う。
楽しそう過ぎて、なんか嫌だけど。
「前から男はありだった? 陽斗」
「うわ。……なんかズバリだな」
苦笑いしつつ。
「……無しだったよ」
そう答えると、そうだよな、と志樹が笑う。
「かけらもそっちの傾向、見えなかったしな」
「……今も、無しだよ」
「――――……何? 蒼生だけ、とか言っちまう訳?」
ニヤニヤされて。一瞬、口を閉じてから。
「……色んな意味で――――……三上以外の男は無理だと思う」
そう言うと。志樹は可笑しそうに、ふーん、と言いながら、肘をついて顎を乗せ、オレを斜めに見やる。
「蒼生がめちゃくちゃ迫ってそーなったのかと思ってたけど。違うのか?」
「……違う、と思う」
「お前が迫った?――――……て訳じゃないよな?」
「……それも、違う、かなあ……」
どっちかがめちゃくちゃ迫った、て訳じゃ、ない気がするんだけど。
「……じゃあ、2つ目の質問」
そう言った志樹に、ん、と答えて、次の言葉を待つ。
「いつから、そういう意味で、蒼生を好きだと思った?」
「――――……」
その質問には、ちょっと困ってしまう。
自分でも、ここから、とかが言えないから。
ただ、何となく、思うのは。
「明確に、ここから、ってのはないし。今思うと、って感じなんだけど……なんか前から、イイ男だなぁ、とは、思ってたかも……そういう意味、ではなかったかもしんないけど……」
どんな意味でも、そう思ってなかったら。
キスとか――――……無理だったんじゃないかなって。今は、なんとなく、思う。
へー。と、志樹がますます楽しそうに笑って。
…………またしても、変にドキドキする。
75
お気に入りに追加
1,292
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。



サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる