【愛じゃねえの?】~社会人*嫌いだったはずの先輩に恋する理由。攻めの後輩視点

悠里

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side*陽斗 1

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 廊下の音楽が結構大きくて、個室にはほとんど聞こえない。
 多分、どんな話をしても漏れなそう。
 そんな個室に連れてこられて、目の前で、涼しい顔をして注文を終えた、同期の、社長代理。

 でもって。……三上の、兄。

 ――――……こうして見ると。顔は似てない、かな。
 ちょっと前は、目がちょっと似てると思った気がするけど。
 
 ただ、少し。雰囲気は、似てるんだよなぁ……。一緒に長く居ると、感じる。人に流されそうにない、独特な、雰囲気。

 でも多分、他の奴は、似てるとかは思わないのかも。三上って名字一緒でも、他の誰もここが家族とか、疑いもしてないもんな……。

「志樹、今日、仕事大丈夫だったの? 無理しなかった?」
「大丈夫。今日は余計なの入れないでもらったし」

「え。このために?」
「そう。当たり前だろ、陽斗との飲みだしな?」

 ふ、と視線を流される。

 ――――……う。ちょっと怖い。

「仕事の合間の食事以外では久しぶりだよな、陽斗とゆっくり飲みに来るの」
「んーでも、それは志樹が忙しいからだと思うけど」
「まあ、確かにそうだな……」

 その時。ドアがノックされて、飲み物と前菜のようなものが運ばれてきた。すぐに店員が出て行って、話が続く。

「陽斗は仕事大丈夫だったのか?」
「うん。急ぎの分は終わったし、他は全部明日に回した」
「蒼生は?」
「うん。三上も、大丈夫。あの後すぐ帰ったと思う」

 そう答えると、志樹は、ふ、と笑って、グラスを出してくる。

「ん。お疲れー」

 かちん、とグラスを合わせて、そこから少しの間は、仕事の話。
 でも多分、オレがそわそわしてるからだと思うのだけれど。

 志樹が、ふ、と笑って、オレをじっと見つめてきた。


「今日話したいのは仕事じゃないよな?」
「――――……ん」

「……陽斗がそんな、そわそわしてんの、普段見ないな」

 そんな風に笑われて。

「だって、ちょっと――――……状況、特殊過ぎて」
「そうか? 恋人の兄貴と話すってだけだろ?」

「……オレが志樹の弟とって……妹ならまだもう少しマシだったと思うけど――――……男っていうの、大きいし」
「別にオレは、気にならないから」

「――――……そうなの?」

 志樹は、やっぱり、いろんな意味で、余裕過ぎる。のか。少しは、気を遣ってくれてるのか。
 何て返したらいいのか少し戸惑いながら、志樹を見つめていたら、志樹がオレを見て、んー、と考えながら。

「オレが聞きたい事を聞いてく感じがいいか? それともお前から話す?」
「……じゃあ、まず、志樹が聞きたい事、聞いてよ」

 そう言うと、志樹は少し楽しそうに笑う。

 楽しそう過ぎて、なんか嫌だけど。

「前から男はありだった? 陽斗」
「うわ。……なんかズバリだな」

 苦笑いしつつ。

「……無しだったよ」
 そう答えると、そうだよな、と志樹が笑う。

「かけらもそっちの傾向、見えなかったしな」
「……今も、無しだよ」
「――――……何? 蒼生だけ、とか言っちまう訳?」

 ニヤニヤされて。一瞬、口を閉じてから。

「……色んな意味で――――……三上以外の男は無理だと思う」

 そう言うと。志樹は可笑しそうに、ふーん、と言いながら、肘をついて顎を乗せ、オレを斜めに見やる。

「蒼生がめちゃくちゃ迫ってそーなったのかと思ってたけど。違うのか?」
「……違う、と思う」

「お前が迫った?――――……て訳じゃないよな?」
「……それも、違う、かなあ……」

 どっちかがめちゃくちゃ迫った、て訳じゃ、ない気がするんだけど。

「……じゃあ、2つ目の質問」

 そう言った志樹に、ん、と答えて、次の言葉を待つ。


「いつから、そういう意味で、蒼生を好きだと思った?」
「――――……」

 その質問には、ちょっと困ってしまう。
 自分でも、ここから、とかが言えないから。

 ただ、何となく、思うのは。


「明確に、ここから、ってのはないし。今思うと、って感じなんだけど……なんか前から、イイ男だなぁ、とは、思ってたかも……そういう意味、ではなかったかもしんないけど……」


 どんな意味でも、そう思ってなかったら。
 キスとか――――……無理だったんじゃないかなって。今は、なんとなく、思う。

 
 へー。と、志樹がますます楽しそうに笑って。
 …………またしても、変にドキドキする。




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