上 下
207 / 274

◇さすが。

しおりを挟む


「陽斗、帰れるか?」

 時間通り、兄貴が先輩を迎えに来た。

 ――――……周りの女子が、ざわつく。
 ……ほんとむかつく。すげー目立つんだよなこの人……。

 今日は先輩を連れて行ってしまうから、余計不愉快。

 つーか、社長代理、忙しいんだろ。18時なんかに帰るな。
 仕事しろ、死ぬほど仕事。

 黙ったまま、パソコンに向かってると。兄貴が少し笑う気配。
 じろ、と見上げると。

 軽く握った拳を、口元に持っていった所。

「……何」
「大好きな先輩。今日は借りるから」
「――――……っ」

「志樹」

 からかうような小声に、先輩が、き、と兄貴を睨んで制する。
 その視線に、ぷ、と笑って。「はいはい」と流すのもまた、ムカつく。

「じゃな、三上。飲みすぎんなよ」
「先輩こそですよ」

「ん」

 ふ、と笑んで、じゃあね、と言って、兄貴の後ろに歩き出す。


 つーか。
 ……ちょっと絵になるとか、ああ、すげームカつく。

 いや、オレとの方が絵になるはず。
 ほんの少しだけ兄貴のが背ぇ高いけど。……あぁ、くそムカつく。

 それに、当たり前のように、「陽斗」と呼び捨てるのが、腹立たしくてしょうがない。

 とまあ。
 本当はそんな事を言ってる場合ではない。
 
 先輩は、兄貴と、オレとの話をしにいくんだよな。
 兄貴がどんなつもりかは分かんねえけど、先輩はちゃんと話さないと、って言ってたし。まあ――――……反対はしないだろうけど。


 …………しない。
 ――――……よな??


 なんか、やな感覚になってきた。

 よし。このメールだけと思ってたけど。もう、全く持って身が入らないし、帰ろう。早く祥太郎のとこに行くしかない。飲もう。

 速攻でパソコンを落として立ち上がると、まだ残ってる周りに挨拶しながら、職場を後にした。



◇ ◇ ◇ ◇



「よー、しょーたろー! 飲ませろー!」
「は? なんな訳、デレ男」

 店に入るなりそう言って、祥太郎の目の前のカウンターに座ると、呆れたように一瞥された。

「はー? 変な名前で呼ぶな」

 オレがそう言うと、祥太郎は、苦笑いで、オレを見下ろしてくる。

「オレ、お前があんな感じになるとは、思わなかった」
「――――……」

 あんな感じって、どれのことだ。


「……あの人、そんなに可愛いの? 顔は綺麗だけど、男じゃん。しかも仕事出来そうな。お前が甘やかす必要なんか一切なさそうだし、そんな事されたら、怒りそうな気もするけど」

「――――……うーん。確かに仕事は出来るんだけど……」
「――――……」


「すげー可愛いとこがいっぱいあって。たまに、びっくりする位抜けてて。特に恋愛関係の話してると、すぐ赤くなって、ほんと可愛くて」

 思いつくまま話していたら。
 ものすっごく嫌そうな顔の祥太郎が、オレを見ていた。


「お前のノロケ話、しかも男への……聞くとか。もう……マジで、信じられねー」
「――――……だって、可愛かっただろ? そう思わなかったか?」

 そう聞いたら、可愛いねえ、と考えた後。


「答えたくない」

 と、言いやがった。


「は? 何で?」

 とちょっとムッとして、聞き返すと。


「だってお前、可愛くないって言ったらキレそうだし、可愛いって言ったら、もっと面倒そうだし」

「――――……」


「ノーコメントで。――――……ほら、飲め」


 祥太郎は苦笑いを浮かべながら、オレに、ビールの入ったグラスを差し出した。




 まあ確かに。
 どっちで言われても、は?てなりそう。

 さすが。
 超よく分かってる、オレの事。

 



しおりを挟む
感想 119

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

【Rain】-溺愛の攻め×ツンツン&素直じゃない受け-

悠里
BL
雨の日の静かな幸せ♡がRainのテーマです。ほっこりしたい時にぜひ♡ 本編は完結済み。 この2人のなれそめを書いた番外編を、不定期で続けています(^^) こちらは、ツンツンした素直じゃない、人間不信な類に、どうやって浩人が近づいていったか。出逢い編です♡ 書き始めたら楽しくなってしまい、本編より長くなりそうです(^-^; こんな高校時代を過ぎたら、Rainみたいになるのね♡と、楽しんで頂けたら。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

処理中です...