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◇誤解

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「……陽斗さん」

 テーブルの席で隣に座ってる先輩の、頭に手を置いて。
 よしよし、と撫でてしまう。

 何で隣に座ってるかって。
 先輩が座ってから、オレが隣に座ったから。嫌そうな顔、ちょっとされたけど。

「その撫で方はなんか嫌だ」
 と、避けられてしまう。

「……だって、すげえ可愛くて」
「……何がだよ、もう」

「だってさあ。陽斗さんは、オレがキスうまいって思ってるんでしょ?」
「――――……」

「で、それを誰と練習してきたんだって思って、怒ってるんですよね?」
「――――……怒ってない……」

 ぷい、とそっぽ向く。 
 怒ってないとしたら、拗ねてる。

 どっちにしたって、死ぬほど可愛い。

「……あのね、先輩。オレ、今までキスは、ここまでしてないよ」
「絶対嘘だし」

 はは、と笑ってしまう程に、先輩は即答。


「そんなに言う程キスうまいって思ってくれてるなら嬉しーな」
「…………っ」

 先輩は、自分が言ってる事に、ようやく気付いたのか。
 少し時間がおいてから、不意に、かあっと赤くなって。
 そのまま、口元を手で覆って、俯き加減。

 くす、と笑ってしまう。


「あのさ、陽斗さん」
「――――……」


「こんなにキスしたいと思うの、初めてなんだよね」
「――――……」

「だからオレが今、キスうまいって思われてんなら」
「…………」

 なんか、言えば言う程、どんどん先輩の眉が寄ってって、赤くなってく気がする。


「それはただ、陽斗さんに、めちゃくちゃ気持ち良いキスしたいなーって思ってるから、だと思いますけど」
「…………っ」

 オレが言い切ると同時に、先輩は思い切り横を向いて。つまり、オレと反対方向を向いて、完全に背を向けてしまった。

「……っつか。三上、恥ずかしく、ない?」
「……ないけど」

 クスクス笑ってしまう。

「なんかオレが 今まで色んな人とすげーキスしてきたからうまいんだと思われてるとか、心外と言うか、誤解だからさ」
「――――……」

「ほんと。こんなに――――……一緒に居たいのも、初めてですよ」

 ほんと、自分でも、こんななのが、不思議な位。

 すると。
 完全に背中を向けていた先輩は。
 ちょっとムッとした感じのまま、振り返って。


「――――……ほんとかなーって思うけど」
「……」

「でも、オレも、こんなにドキドキすんのは、初めてで、なんかほんとによくわかんないというか……」
「――――……」


 うわー。なんかこの人。すごい嬉しい事言ってるし。

 ……ほんとにこの人って…。
 オレをのせる天才だなあ……。

 ついつい、先輩の腕を軽く掴んで、自分の方に引き寄せてしまう。


「三上?」

「キスしてい?」
「…………」

「さっきよりは、優しくするから」

 そう言って笑ってしまうと、先輩は。しばらくオレを見つめていたけれど。

 その内、ん、と頷いて、瞳を閉じてくれた。





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