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◇好きだな

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 先に顔を洗ってから先輩にタオルを渡して、オレはキッチンで朝食の準備。コーヒーメーカーをセットしてから、昨日買ったパンを少しだけトースターで温める。それから、皿にのせてテーブルに並べていく。

 ――――……先輩がここに居て、一緒に朝ごはん食べるとか。
 すげー嬉しいんだけど。

 抑えようとしても、何か鼻歌でも歌ってしまいそうな気分。
 1人の朝は、ほんと、何ごともなく、ひたすら静かなのに。
 先輩が居ると思うだけで、ヤバい位、浮足立つ感じ。
 

「三上、手伝う?」

 戻って来た先輩は、オレの隣に歩いてきた。


「陽斗さん、スープ飲みます?」
「ううん。オレは良いや」
「じゃあもうコーヒー淹れるだけなんで。座っててくれても良いですけど」
「うん……ん? けど?」

 一瞬、テーブルに行こうとした先輩が、オレを振り返って、見上げてくる。

「横に、居てくれても良いですよ?」
「――――……」

 先輩は、まじまじとオレを見つめて。
 ふわ、と笑んだ。

「何それ。……三上、可愛い」

 あんまりキレイに笑うので。
 ついつい見惚れてると。

 少しだけ歩いて離れてた所から、オレの隣に並んで立った。

 可愛いのは、そっち。
 そんな事を思いながら、コーヒーメーカーに目を向けると、あと少しでコーヒー、出来上がりそう。


「コーヒー、いい匂い」


 先輩の、柔らかい、声。
 可愛い。


「――――……」

 少し下にある、先輩の唇。
 身をかがめて、唇で、触れた。

 少し重ねて。
 すぐに離れようと思ったけど、惜しくて、もう一度、重ねてから離れた。



「――――……」

 何も言わずにじっとオレを見つめる先輩。


「――――……陽斗さん?」
「キスの、仕方が…… タラシそのものなんだけど」

 言いながら、少し赤くなって、ふい、と逆側を向いてしまった。
 顔が、見えない。


「タラシタラシ言わないでよ」
 肩を抱いて、こっちに向けさせて。


「こんな事、今までしてないよ」
「――――……」

 まっすぐ見つめると、先輩は、何も言わず、眉を少し寄せてオレを見る。


「……もう、ほんとお前――――……」

 はあ、とため息の先輩が俯いてしまった。

「?」

 ほんとお前、何?
 そう思ってると、不意に顔を上げた先輩が。

 両手でオレの顔を挟んで、少し自分の方に引き寄せて。


 ゆっくり、唇を重ねてきた。



「――――……」


 オレがしたみたいな、優しいキス。


「……朝から、タラすな」 

 キスを離してから。
 オレの髪をワシャワシャとかき混ぜて。「もー何すんの……」と、髪を直してるオレを見ると。 ――――…… ふわ、と微笑む。


 なんか、もうすごく好きだな。
 そう思っていると。

 ピピ、とコーヒーが出来上がった音。
 カップに注ぐと。
 

「ますますイイ匂い」

 先輩が、隣でそう言うので。


「………ここ来てくれれば、毎日淹れますよ?」
「――――……」


 またしばらく固まってから。
 先輩は、苦笑いで。「考えとく」と言った。




(2022/3/5)
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