上 下
175 / 274

◇めいっぱい

しおりを挟む

「……陽斗さん」
「うん……」

「……嬉しいんですけど――――……あんまり可愛いと……」
「可愛くないし」

「あんまり可愛すぎると」
「可愛すぎないし」


「――――……」
「――――……」


 2人で、見つめ合って、苦笑い。
 

「とにかく、ほんと、可愛すぎると……襲いますよ」
「――――……」

 先輩は、じっとオレを見て。
 しばらく無言で、じーーーっとオレを見続けて。

「オレ、穴あきますけど」

 思わず苦笑を浮かべてしまうと。
 不意に先輩の手がオレの頬にかかった。

「え」

「……それがさぁ、三上」
「は、い」

「……オレ、別に、やじゃないんだよね」
「――――……」

「困った事に、全然、嫌じゃなくて」
「……こま、るんですか……?」

 頬に触れてた手をそっと離して、先輩は、その手を握った。

「だってさ、お前とこのままいいのかなとか、色々思ってるのに――――……何か……こないだも、全然嫌じゃなかったし」
「――――……」

「……困るよな?」
「――――……オレ、困らないですけどね」

「あ、困らないのか?」
「はい」


 そこで目が合って、2人でまたクスクス笑って。
 ――――……先輩が、少し近づいてきて。


「――――……」


 頬にキスされる。


「……おやすみ、三上」
「――――……ん。おやすみなさい、陽斗さん」


「あー……」
「……ん?」


「おやすみ――――…………あおい」
「!」

 言った瞬間オレが見つめてしまったからか、先輩は暗い中でも分かる位に赤くなって。

「や、……っっぱり、無理。 おやすみ、三上!」

 むぎゅ、と抱き付いてくる。


「つか、言い直さなくていいのに――――……陽斗さん?」

 腕の中に潜り込んでる先輩に、もう、苦笑するしかない。
 名前呼ぶより、抱き付く方が恥ずかしくないのかな?

 もーほんと。抱いてしまいたいけど。
 手順。手順……。

 ていうか、ほんと、嫌じゃないとか、散々煽られてるけど。
 ……手順…………。

 自分に言い聞かせてから。
 

「――――……おやすみなさい、陽斗さん」


 笑ってしまいながら、先輩を抱き締めて、髪を撫でる。
 そのまま、さらさら、触れていると。
 

「――――……」

 しばらくして、すー、と寝息が聞こえ始めた。

 少しだけ腕の力を弱めて、寝やすいようにしてあげてから、その顔を見つめる。

 ほんと――――……綺麗な顔。

 仕事は、ほんと尊敬できる先輩。
 この人が、オレの指導者で、本当に良かった。

 ――――……態度は、最悪だと思いながらも。嫌いになれなくて。 
 他の奴と笑ってる姿にムカついてたのも……今なら嫉妬してたって分かる。

 話してみたら、恋愛事になると、なんか抜けてて。
 ……反応全部、可愛くて。

 なんかほんと。……こんな風に、腕の中に居てくれるとか。 
 嘘みたいだよな。

 じっと、見つめてしまう。

 睫毛、長いなあ……。 可愛い。
 何なんだろう。全部が綺麗だし。全部が可愛く見えるって。

 まあ何なんだろうも何も、大好きだって事以外に、理由なんかねーよな……。



 一ヶ月恋人。

 とりあえず、めいっぱい、恋人、しよう。




 ――――……一ヶ月で終わらす気なんか、これっぽっちもねーけど。



 





(2022/2/25)

「愛じゃねえの」
ノベルアップ+様の「BLコミック原作小説コンテスト」二次選考に通ってました😭 応募401作品→最終選考9作品残ってる内の1つに…😭
いつも読んで下さる皆さま、反応下さるから楽しく書けてます。ありがとうございます☺️💕 最終結果まで静かに待ちます♡ 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

前後からの激しめ前立腺責め!

ミクリ21 (新)
BL
前立腺責め。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

強制結婚させられた相手がすきすぎる

よる
BL
ご感想をいただけたらめちゃくちゃ喜びます! ※妊娠表現、性行為の描写を含みます。

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

初夜の翌朝失踪する受けの話

春野ひより
BL
家の事情で8歳年上の男と結婚することになった直巳。婚約者の恵はカッコいいうえに優しくて直巳は彼に恋をしている。けれど彼には別に好きな人がいて…? タイトル通り初夜の翌朝攻めの前から姿を消して、案の定攻めに連れ戻される話。 歳上穏やか執着攻め×頑固な健気受け

笑って誤魔化してるうちに溜め込んでしまう人

こじらせた処女
BL
颯(はやて)(27)×榊(さかき)(24) おねしょが治らない榊の余裕が無くなっていく話。

発禁状態異常と親友と

ミツミチ
BL
どエロい状態異常をかけられた身体を親友におねだりして慰めてもらう話

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

処理中です...