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◇欲しい答え

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 なんかすごく、緊張してるというのか。
 言葉に躊躇ってるというのか。

 そんな先輩を、胡坐から姿勢を正してちゃんと座ってから。
 その言葉を待ちながら、考える。


 思えば、先週の金曜日。午後から、急に2人での出張になって。
 その時は、本当に、冗談じゃないと思ってた。

 オレの入社と同時に、先輩がオレの教育係になってから2年間。
 ずっと、ムカつくって思ってたし。
 綺麗なのは分かってたし、仕事の教え方はほんとに丁寧で上手で。
 他の奴に優しいのも、良い人なのも、分かってはいて。

 けど。だから余計、オレへの態度がムカつくって、思ってた。

 色々打ち解けてから、金土と、一緒に夜を過ごして。
 日曜もずっと一緒で。月曜の今日は朝から待ち合せて、夕飯も一緒に食べて。で、オレの家に、先輩が、泊りに来て。


 ……濃密すぎた。この4日間。
 それまで、仕事以外ほぼ関わりなかったのに、いきなり、この4日間、どんな奴より、ずっと側に居た気がする。

 が、しかし。

 先輩みたいな人が、覚悟を決めるには、ちょっと、短すぎるんだろうなと。
 何となく、思ってしまう。

 オレは、わりと適当というか、割り切り方が、ざっくりしてて。

 男同士とか、会社の先輩だとか、兄貴が絡んでその親友だとか。
 なんかそこらへんも全部、そこまで気にならない。

 どうでもいいと、一旦割り切ったらもう関係ない。

 先輩が可愛くて、側に居たくて、今までの誰より好きなんだから、
 もうそれでいいと思ってしまう。

 でも多分、先輩はそういうタイプじゃなさそう……。

 男同士とか、会社の後輩だとか、兄貴が絡んでその弟だとか。
 ここらへん、気にしないようにと一旦決めたとしても、また後から引っ張り出してきて気にするタイプ。

 まあでも、常識的、なのかも。
 オレの割り切り方が、適当すぎるだけかもしれないから、そこは、分かる。

 それに多分、先輩のが、荷が重いみたいな気がする。

 職場の後輩なのに、何させてるんだ、とか。
 そんな風にさせちゃっていいのか、とか。
 志樹の弟なのに、とか。

 何かそういうこと、何回も言ってるし。
 オレよりは、考える事が多そうなんだよね……。


「あのさ、三上」
「はい?」

 やっと話し出した。
 一言答えて、黙っていると。

「……オレ、お前の事は、好きなんだと思う」
「うん」

「お前がオレを好き、て言ってくれてる事も、オレ、今は信じてると思う。適当に言ってるとか、からかってるとか、は思ってない」
「ん」

「志樹も……明日話すけど、今の感じだと、なんかほんとに好きに決めろ的な感じだったし…… だから、これ、普通なら、もう――――……付き合うって、答えるところだと思うんだけど」
「うん」

 思うんだけど。
 だけど。


「――――……何でオレ、いいよって言えないんだろう」

「――――……」


 ――――……すっごく困った顔で、見上げられてしまった。


 ……ああもう。
 ――――……可愛いなあ。

 オレは、苦笑いが浮かびそうになるのを堪えながら。
 ベッドから降りて、先輩の、隣に膝で立って。

 ぎゅ、と抱き寄せてみた。


「……こうされるの嫌ですか?」
「――――……」

 首を横に振る。

「キスするのは?」
「……オレ、自分からした位だから」

 そんな答えに、クスクス笑ってしまう。

「じゃあ、体に触られるのは、嫌ですか? あ、今触らないですよ。嫌かどうかだけ、考えてください」
「――――……」
「嫌?」

 また、先輩は、首を横に振る。

「抱かれる、のは?」
「――――…………嫌じゃなかった、よ」

 抱き締められたままの先輩が、オレの腕の中で俯きながら、答える。


「……陽斗さんの中で、男と付き合う事は、無しですか?」
「――――……」

「世間体とか、家族とか、もうそういう気になる事全部ひっくるめて、結論的に、無理ですか? それとも、オレと、付き合っていけるなら、ありかなと思いますか?」


「……あり、じゃなかったら、考えてないよ」

 そんな答えに、ふ、と笑ってしまう。


 もう、これ、答えてくれてる内に、
 完全に答え、出てると思うんだけどな。



 先輩の答えって、全部オレの欲しい答えだし。



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