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◇楽しみ

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 先輩は、オレを見上げて。

「……オレんち、一緒に来るの? それとも、準備出来たら、三上んち行けばいい?」

 そう聞いてきた。

「陽斗さんち行っていいなら、ついてきます」
「狭いよ?」
「関係ないですけど」
「んー……三上が面倒じゃないなら良いけど」

 はー。分かってないな。
 面倒な訳ないじゃん、つーか、すげー行ってみたいっつーの。

 どんなとこで暮らしてるのかなとか、どんな部屋なのかなとか、
 色々気になるし。 そういうの、分かんないのかなー。
 先輩は、思わないのかな。

「……先、パン屋さん行こ、もうすぐ閉まるかも」

 先輩はオレにそう言って、歩き始める。
 その隣に並ぶと、先輩が、ふ、とオレを見上げる。

「明日三上んちでパン食べて、一緒に出社するって事だよね?」
「うん。そのつもりですけど。ダメですか?」

「ダメじゃないけどさ」
「……けど?」

 何だろう、ダメじゃない、けど。

 先輩を見つめていると。


「……なんかさあ?」
「はい」

「家、行き来して泊まって、とかってさ」
「はい」

「……なんかすごく特別な感じするけど……いいのかな?」
「――――……」


 ……だから、オレは、めちゃくちゃ特別になりたいんですけど。

 いいのかなあって……。
 聞かれるとこじゃないんだけどな。

 うーん、と少し悩んでいると。
 先輩は、じっと オレを見上げて。


「……やっぱり、良くない?」

 ちょっと返事に困っていただけなのに。そんな風に聞いてくる。
 ていうか、無言を、そっちに受け取る?

 やっぱり、なんか、基本、分かってないよなあ。
 オレがこんなに好きって言ってるの、たまにどっか、飛んでっちゃうのは一体何故なんだろうか。
 

「――――……んな訳ないでしょ、陽斗さん」

 もう、苦笑いしか浮かばない。

「陽斗さんの特別になりたいし、オレの特別にもなってほしいし。……つーか、もう、陽斗さんだけが特別って、オレ、結構ずっとそんなような事、言ってると思うんですけど……」

「――――……」

 先輩は、じーっとオレを見上げてくる。


「大体、特別だと思ってない人、何で家に誘うんですかオレ。しないですよ」


 そう言うと。「そっか……」と呟いて。
 なんか。ちょっと嬉しそうな顔で微笑みながら、オレを見上げてくる。


「三上んちって、どんな感じなんだろ」
「――――……」


「なんか、どんな風に暮らしてんのか、ちょっと楽しみかもしれない」


 もうほんと。
 ……なんでこんなに可愛いんだろう、この人。
 
 一体何回、オレに、可愛いって思わせるんだろうか。


 口開くと、不思議な事、言う時あるけど。……ていうかしょっちゅう、不思議だけど。

 表情とか、とっさの言葉とか。

 ――――……好いてくれてるんだろうなと。思う事、ぽろぽろしてくるし。
 可愛くて、しょーがないんですけど。





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