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◇相性

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「食べたら、オレんち行きませんか、陽斗さん」
「――――……無理」

「いつなら無理じゃないです?」
「……分かんない」

 ――――……はは。
 なんか、子供みたいな、受け答えに、笑んでしまう。

 どーしてこんなに可愛いかな。


「帰って、オレと――――……キスしませんか?」
「――――……」

 先輩は、オレのその言葉に、ぴしっと。固まっていたけれど。
 数秒後、ゆっくり顔を上げた。


「……ごめん、オレ……」
「謝んなくて良いですってば」

「――――……でも、お前にしないでって、言ってるのに」

 言ったきり、心底困った顔で、ちょっと俯いてる。


「言ってるのに、どうして、しちゃったんですか?」

 そう聞くと。
 オレを、ぱっと見て――――……少し口を噤んでから。


「……なんか三上が色々言ってるの聞いてたら……」
「うん」

「――――……したくなった、としか、言えない。……ほんと、ごめん」


 先輩は、そんな風に謝るけれど。


 つか。それ。
 謝る必要が、一切ないから。


 というかむしろ。
 こんなとこで、絶対キスなんかしそうにないこの人が。
 オレにはキスしないでって言ってる、先輩が。


 キスしたくなって、しちゃったとか。

 謝る必要なんかないって。
 オレにとって、すげえ嬉しい事だって、思わねえのかな。
 

 …………思わないか。
 先輩だもんな……。


 ……きっと、オレにはキスすんなとか言ってるのに、勝手にしちゃって、ほんとにどうしよう、ごめんなさいとか、きっと、本気で思ってるんだろうな。


 ……つかもう――――……。


 オレ、今まで自分が、こういう感じの人を好きだなんて、あんまり思った事がなかった……というか、考えた事もなかったんだけど。

 あらゆる反応と、セリフと、態度が。
 ことごとく、ツボすぎて。でもって、見た目は、超、キレイで。色々可愛くて。
 もー無理なんですけど――――……。


「……陽斗さん」
「――――……」

「……オレの事、好きなら、もう何も考えなくて、良くないです?」
「――――……」

 先輩はオレの言葉に少し俯いて。


「……もうほんと。……モテる奴の言う台詞だよな」

 なんか、むくれている。


 ていうか、あんただって、絶対モテただろうに。
 ――――……。

 ……つか、オレこんな事、今まで誰にも言ってないから。
 こんな必死で、何度も好きって言ったり、口説いたりした事も、無いし。
 

「オレ、こんな風なセリフ吐くのも、はっきり言って、あんま記憶にないですけど」
「――――……」

「……こんなに好きって思うのも、って、言ってますよね」


 そう言うと。
 先輩は何を思ったか、アルコールのグラスを持って。
 ぐびぐびぐびぐび、と一気飲み。


「え。……何してンですか?」
「……景気づけ」

「景気づけ? 何の……」
「――――……お前んち、行く」
「え」

 え。来てくれンの?
 今の状態じゃ来ねえよなと思いながらの誘いだったけど。

 と思ったら。
 先輩は、じっと、オレを見つめて。

「……でも、まだどうするか決めてない。ここだと、普通に話せないから。行くだけ。 ……それでも、良い?」
「……ん。分かりました。大丈夫。無理にしたりはしないから」
「――――……」

 何か、呟く先輩。

「え? 何ですか?」
「――――……むしろ無理にされたら、もっと、嫌がれるのに」


「――――……」


 ……え。どういう意味?

 ――――……無理にされたら嫌がれるのに?




「……無理にしないから、嫌がれないの?」


 聞いてみたら。返事はしないけど、否定もしない。



「……はは。何それ」


 可愛くて、笑ってしまう。


 優しくされるのに、弱いなあ。この人。

 本人も、気づいてなさそうだけど、可愛がられたい願望が、ありそう。



 ――――……でもって、それが可愛くて、めちゃくちゃ優しくしたいオレ。





 ……相性、すげえいいと、思うんだけど。

 


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