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◇楽しすぎて。

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 察知されて、結局何も言えず。というか、言わず。
 だって、夕飯一緒に食べたいしな。

 そこからまた少し集中して仕事にとりかかって。


「――――……」

 とりあえず、割と急ぎのメールには返信すんだし、連絡も終わったし。
 あとはまた午後で良いか。

 思いながら、固まった気がする肩を少し回してると。


「三上、一緒に、昼行く?」
「――――……」

 先輩の言葉に、オレはまたまた言葉を失って、マジマジと先輩を見つめてしまう。すると、先輩は。


「あのさー」
 と、苦笑いを浮かべた。

「もうさ、オレ、お前とずっと普通に話してたじゃん、金曜からさ」
「……はい。そうですね」

「もうさー、何でそこまで、ガン見されなきゃいけないの」

 まったくもう、とブツブツ言いながら、先輩はパソコンをスリープモードにした。


「行こ、お昼」

 くす、と笑いながら立ち上がった先輩に。


「でもさ、先輩」
「ん?」

 笑んだ先輩が、少し首を傾げながら見下ろしてくる。


「旅先の先輩には慣れてたけど――――…… ここで、そんな風に普通に話してくれる先輩には、全然慣れてないんですよ」

 そう言って、ふと笑むと。
 先輩は、少し、表情を曇らせた。

「――――……ごめ」
「違います。謝ってほしいんじゃないです」

 先輩の言葉が容易に予想できたので、遮って。


「慣れてないから、そうやって、笑ってくれるだけでも、すげえ嬉しいっていう話ですよ」


 ほんとにただただ、嬉しいってだけなので、そう言ったら。


「……オレもう、ずっと、このままだから」

 ふ、と先輩が笑う。


「早く慣れて。――――……いちいち、見られると、照れるから」
「……分かりました」


 見つめ合って、微笑んでしまう。
 オレも、パソコン落として、立ち上がった。


「食堂行きますか? それとも、外のランチ行きます?」

 聞くと、先輩は時計を見て、んー、と少し考えて。

「今外行くと混んでるだろ。まだやること結構あるし。社食行って、さっと食べて戻ろ」
「分かりました」

 机の椅子を奥に入れて、先輩と歩き出す。


「今度はどっか食べに行きましょうね?」
「ん。いいよ」

 なんか。
 全然見慣れない。

 ここで見てた2年間の先輩は、オレにはほとんど笑わなかったから。
 こんな風に笑いながら、オレを見つめてくれるとか。

 しかも、なんか、めっちゃ嬉しそうに笑うしさ。


 エレベーターで社食の階に降りる。メニューの前で、一旦立ち止まる。

「何食べます?」
「んー……ぱっと見すごく食べたい物が無いからどうしようかと……」

「いえ、夜」
「え、夜の話?」

 先輩がぷ、と笑って、オレを見上げた。

「何でこれから昼なのに、先に夜のこと聞くんだよ」

 クスクス笑われて、見つめられる。

「だって、夜何食べたいか決まってるなら、それに近い物は昼は食べないようにしようかなーと」
「ああ。そういうこと……ていうか、全然考えてなかった」

 社食は、色んなメニューが置いてある。
 麺類、丼は日替わりで1、2種類ずつ。カレーはいつでも置いてあるし。小鉢で野菜とかが数品、白米、みそ汁は単品であるし、それとは別に定食も何種類か。まあ毎日食べても飽きないような感じで作られている。


「昼は食べたいもの食べれば? 違うのを夜食べようよ」
「そうですね」

「て、普通そっちなんじゃないの? 先に昼考えるだろ」

 先輩の言葉に、確かにそうですね、と返してから。
 すぐ、ああ、と気付いて、先輩を見つめる。


「夜の方が楽しみすぎて、そっち優先で考えちゃったんだと思います」

 思うままそう言うと、先輩は、じっとオレを見上げて。


「そんな楽しみ?」
「は? 当たり前」
「――――……」

「つか、先輩は楽しみじゃないです?」

 そうなの?と少し心配で、先輩を見てると。


「……楽しみじゃない……」
「――――……」

「ことは、ないけど……」


 がく。
 ――――……何その、答え方。


 ツッコみいれようかと思ったけど、その前に、ぷ、と吹き出してしまう。


「ほんと、可愛いですね、先輩って」

 まわりに人が居なかったのを良い事に、こそ、と囁いて。
 トレイや箸から準備を始めると。


「――――……夜、無くなるからな」

 なんかちょっと怒ったような顔で、呟く先輩。


「あー嘘嘘。今のなし。――――……って、嘘ではないですけど」
「三上……」


 はー、とため息の先輩。
 なんだか、やりとりが 楽しくて、全然止まらない自分に、苦笑いが浮かぶ。
 





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