138 / 274
◇仕事モード再開
しおりを挟む「……三上、なんか、それ、変なことの一部になりそうだけど」
「え?」
苦笑いの先輩に言われた言葉に、首を傾げる。
「今日1日は変なこと、言わないって約束したよな?」
「は??」
それは心外。
「全然こんなの普通の事ですけど。ていうかこれは、先輩の身を守るために必要な事なんで、ちゃんと聞いといてもらわないと、困るんですけど」
オレがそう言っている間、先輩は呆れたようにオレを見ながら聞いていたけれど。
「……分かったから……とりあえずもう部屋入るから、その話ももう今で終わりな?」
先輩に諭されるように言われつつ。
ほんと、三上、変。
そんな風に呟かれたのだけれど。
オレが先輩より早く、業務室のドアを開けると。
「……だから、オレをエスコートしなくていいから。ドア自分で開けれるし……」
「エスコートとかそんなつもりないですけど」
「ほんとにもー……タラシ」
なんだかものすごく、綺麗に笑いながらオレを見上げて、ありがと、とオレの前を通り過ぎる。
「――――……」
つか。タラシはどっちだっつの。
――――……あんたの事好きって言ってる奴に、そんな風に、めちゃくちゃ綺麗に笑うとか。
はー。もう。
……可愛いけど。
早くOKくれないと。
……ダメなのに、触っちゃいそうで、困る。
机についてパソコンを起動。
――――……前回パソコンを落とした、あの金曜日の出張前と。
隣の先輩を見る自分の感情が、
もう、全然違うにも程がありすぎて、笑える。
その時。
「渡瀬、三上ー」
部長がオレ達を呼ぶ声がした。
はい、と同時に返事をして、一緒に部長の席へと向かう。
「おはようございます」
「おはよ。どうだった、京都」
「行ってみたら、特に怒ってもなくて、全然スムーズでしたよ」
「ああ、まあ。京都の担当者からも電話来た――――……まあ、渡瀬が行ったからスムーズだったんだろ」
「もともとそんなに怒ってもなかった気もしましたけど。な?」
ちら、と視線を投げられて、何となく、はあ、と頷いて。
「結局どうしたんだ、京都。いつ帰ってきた?」
部長の何気ない質問に、隣の先輩が、少し固まったのが、オレには分かった。僅かにだけれど。すぐに気を取り直して、先輩は普通に話し始める。
「旅行しようって事になって、結局昨日帰ってきました」
「へえ。いいなぁ、京都旅行。どこ行った?」
「清水寺とか……」
もはや出張の報告ではなくて、旅行の報告になってるし。
しばらく適当に行った観光地の話題に花が咲いて。
無事報告終わり。
「ふたりとも遠くまでお疲れさま」
はい、と返事をして2人で立ち去ろうとした時。
「あ、三上。ちょっと良いか?」
「あ、はい」
――――……別任務の方か。
先輩はちょっと不思議そうな顔をしながら、でも呼ばれたのがオレだけなので、先に席に戻って行った。
部長が、ちら、とオレを見上げる。
「どうだった? 先方」
「――――……正直に言って良いですか?」
少し小さめの声の部長に、オレも少し小声になる。
「――――……」
部長はオレの顔を見て、それからぷっと笑った。
「いいよ。誰にも言わねえし」
「――――……行って良かったです。相当やばかったです」
「あー…… やっぱ、そうか」
「はい」
「お前ら行った後、休憩所で渡瀬の同期の斉藤に会ってな。結構心配してたんだよ、京都にまで呼ばれたって。相手、かなり、渡瀬のこと気に入ってるって」
「――――……有名だっんですか?」
「斉藤は一緒にその会社行った事あって、知ったらしい」
「先輩ってよくそういうことあるんですか?」
「まあ。あの外見だし、気に入られはするだろうけど、普通はあからさまにはしねえからな。あの人は特殊。つか、結婚もしてんのに、マジでなんなんだか」
苦笑いの部長。
「斉藤も、三上が一緒に行ったってオレが言ったら安心してた」
「なんかさっき、そんな話聞きました」
「そっか。まあ……次はもう行かせないから、三上も安心しろよ。今回はまだ異動したてだったし、渡瀬が気軽に良いよって言うから何か決まっちまったけど」
「はい。お願いします」
そう言うと。
部長は、何だか興味深そうにオレを見て。
「なんか……お前らって、なんとなくぎくしゃくしてるかなーと思ってたけど。仲良くなって帰ってきたか?」
「――――……」
さすが。というのか何なのか。
……鋭い。
「まあ……2泊も一緒だったのでそれなりに」
「じゃあ、良かったな」
――――……うん。まあ。
そういう意味では、誰も取らないよな。
部長との内緒話を終えて席に戻ると、先輩が、ふ、とオレをまっすぐ見つめた。
「何で三上だけ?」
「あ、別件なので」
「別件て?なんかあったっけ?」
「まあ大したことじゃないんで」
「こそこそ話してるし、なんか変じゃねえ?」
「いえいえ。全然大したことじゃないんで」
言いながら、オレは、クスクス笑ってしまう。
「何笑ってんの?」
「いえ――――……」
ふ、と笑ってしまうと。
先輩は少し、む、として。それから苦笑い。もういいや、とパソコンの方を向いて、メールチェックを始めてる。
――――……この席に座ってて。
隣の先輩がこっちまっすぐ見てるし。
オレの事気にしてるし。
なんか。
それがすげー嬉しいとか。
言ったら食事無くなるから、我慢だけど。
55
お気に入りに追加
1,258
あなたにおすすめの小説
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
初夜の翌朝失踪する受けの話
春野ひより
BL
家の事情で8歳年上の男と結婚することになった直巳。婚約者の恵はカッコいいうえに優しくて直巳は彼に恋をしている。けれど彼には別に好きな人がいて…?
タイトル通り初夜の翌朝攻めの前から姿を消して、案の定攻めに連れ戻される話。
歳上穏やか執着攻め×頑固な健気受け
怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる