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◇一緒に出社

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 先輩と一緒に出社。
 ――――……初めてだな。

 ……こんな事に感動してるとか、オレ、ちょっと気持ちわるいなと、自分で思いながら、隣を歩く先輩を不自然にならないように少し見つめる。

 営業先から帰る時に一緒に会社に入る事はもちろんあったけど、それとこれは、全然別の話。
 あれは望まなくても誰とでもする事で。

 今一緒に出社できてるのは。
 先輩が昨日、一緒に朝食べようって誘ってくれたから。

 たとえそれが、色々やっちゃったせいで、会社で顔を合わせるのが恥ずかしいんだとしても。
 望んで一緒に居て、一緒に出社してるのだから、それはもう。


「なんか、三上、嬉しそう過ぎて、嫌なんだけど」
「え、そうですか?」

「そうだよ。ていうか、顔、引き締めて」

 顔引き締めてとか、そんな恥ずかしそうに言われると、なんかとても。
 ……可愛く見えてしまうんだけど。

 だめだ。これ言ったら、先輩との夕飯が無くなる。
 黙って自分の顎に手を触れさせて、引き締めさせていると。

「おはよー」

「ああ、青木。おはよ」
「おはようございます」

 先輩の同期の青木さん。
 エレベーターホールまで一緒に歩くことになる。

「京都行ってきたんだろ?」
「うん。あ、聞いた?」

「聞いた。大変だったなー? 前の担当なんだろ?」
「そう」

「お前の事お気に入りだったって、聞いたけど。大丈夫だった?」
「何だそれ。まあ――――……気に入ってくれてはいたと思うけど。大丈夫だけど?」

 先輩はいまだちゃんとは気づいてないし、青木さんがほんとに心配してるとも思ってないんだろうな……。何か不思議そうに、青木さんとやり取りをしている。

 というか、もはや、青木さんのほうがちゃんと分かってる気がする。

「ああ、三上も一緒に行ったんだっけ?」
「はい」

 青木さんに振られて、頷くと。

「三上も一緒に行ったなら、良かった。話聞いた皆で、大丈夫かなーってちょっと心配してたんだよ」

 クスクス笑う青木さんに、先輩は苦笑いしながら、変な心配すんなよ、と笑っているが。

 オレ的には、オレが居なかったら、あいつは絶対先輩を食事に連れて行って、きっと酒を飲ませて、そしてきっとあわよくばとか狙ってたんじゃないか……と思うと。
 もうすでに、あのおっさんは遠く離れた京都の地に居るとは言え。

 気持ち悪くて、最大限にムカつく。


「三上??」

 先輩に呼びかけられて、顔を上げると。
 すでに青木さんの姿はなく、先輩が不思議そうにオレを見つめていた。

「なんか、複雑な顔してるけど、大丈夫?」

 クスクス笑われて。大丈夫です、と言う。

「なんか大丈夫そうに見えないんだけどね」
「――――……ていうか、先輩」

「ん?」

 無邪気に見上げられても。
 ちょっと今は心配過ぎて、嫌になる。……それでも可愛いけれど。


「……先輩の事、お気に入りとかキモイこと言う奴いたら、とりあえずそいつの会社とフルネーム、オレに教えてもらえますか?」
「……は?」

「もう、全力でガードしますから」

 勢い込んで言うと、先輩は、呆れたようにオレを見上げて。
 それから、可笑しそうに笑いながら、頷いた。

「そんなに居ないけど、まあ……分かった。キモイ奴、居たらな?」


 その言い方にちょっとひっかかて、また言い直す。


「先輩、ちょっと待って。やっぱり、キモくなくても、先輩の事をお気に入りだとか好きとか言う奴居たら。ああ、あと、無意味に良く触ってくるとかあったら、絶対すぐ教えてくださいね。そういうとこの営業は、絶対1人で行かないで、オレ連れてって下さい」



 先輩は、一応黙って聞いてはいたけれど。
 

 その内、なんか、すごく苦笑いを浮かべる。







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