上 下
133 / 273

◇今日の目標

しおりを挟む

「あのさ、先輩。……先輩と付き合える事になったら。オレ、先輩が良ければ、先輩と付き合いますって会社の人に言っても全然良いですよ」
「――――……」

「ただ営業先にまで広まるとちょっと面倒かなーって思うから、営業から異動させてもらえるかなとか、思っちゃいますけど。――――……多分オレ、ずっと営業には居ないと思うし」

「――――……まあ、営業にはきっといないんだろうけど……」


 しばらく無言で。


「え。待って、そういう話……? 何かよくわかんなくなってきた」

 先輩が混乱したみたいな顔で、オレを見つめてくる。
 ぷ、と笑ってしまう。

「オレが迫ってんのに、なんか……迷惑かかるとか、意味わかんないですって話です」
「――――……」 

 先輩は相変わらず混乱してたけど。
 

「とりあえず食べましょう?」

 そう言うと、頷いて食べ始める。
 少しの間黙って食べていたけど、ふと思いついた。


「あ、先輩」
「ん」

「部長んとこ、出張の報告に行きますよね?」
「うん。行く」

「朝イチ、一緒に行きましょう?」
「――――……」

「なんかバラバラに行って、下手に嘘ついて、辻褄合わなくなったら困るでしょ? オレ絶対変なこと言わないですし、合わせますから」

 そう言うと。
 サンドイッチを口に入れながら、んー、としばらく考えた後。

「――――……あー……うん。じゃあ、頼む」
「はい」

 頷いて、ふ、と笑む。


「先方とは無事話がついて、後は楽しく京都旅行してきちゃいましたって事で良いですよね?」
「ん。ていうか、オレが言うから」
「分かってますよ」

「……なんか。変なの。こういう話してると、三上のが先輩みたい」


 苦笑いの先輩は、コーヒーを啜りながら。



「……経験多そうだもんなあ、色々。……三上が狼狽えるとこ、見たいなー」

「――――……」


 なんか先輩の少し面白くなさそうな顔に、苦笑いしか浮かばない。


 つか。オレ、先輩の言動に、かなり狼狽えまくりだけど。

 なんなら昨夜、先輩と電話する直前と出る時のオレとか。かなり間抜けに狼狽えてたけど。


 ――――……ほんと、顔に出ないなあ、オレ。
 得なのか、 損なのか、ちょっとよく分かんねえ。

 今までは得だと思ってきたけど。
 なんか先輩と相対する時に、いっつも落ち着いてて、平然としてるとか見られるのは、損な気がするんだよな……。


 すげー好きって、全面に出したい位だけど。


「……先輩、今日はデザート食べないの?」

「――――……毎日食べないってば。しかも朝から」

「昨日も一昨日も、デザート、午前中でしたけどね」


 クスクス笑うと、先輩は、ふ、と笑って。


「旅行だから特別」

 なんて、言う。


「先輩が甘いもの食べてるとこ、すげー可愛いから、毎日見たいけど」

「――――……」

 オレの言葉を、先輩が理解したらしい瞬間に、カッと赤くなって。


「……っなことしてたら、確実に肥えるからな、オレ」


 照れ隠しっぽいことを、なんか、焦ったみたいに言ってくる。


 ――――……可愛いなー。なんて、思いながら。


「いいですよ、大分肥えても平気じゃないですか?」
「っ嫌だっつーの!」

「少し丸くなっても、全然可愛いですよ」
「……バカなの、お前」

 ……あ。ふざけすぎた。
 冷たい目で見られ、苦笑い。


「可愛いとか、もうそういうの、ここからほんとに一切、禁止だからな」
「はーーーい」

「短く返事しろよ」
「――――……はい」

 返事しながら笑ってしまうと。
 先輩はますますむー、と眉を寄せる。



「夕飯、一緒に食べてくれますか?」
「――――……三上が、会社で一度も変なこと、言わなかったら」

「……っと。 すげー反撃……」

 んー。と考えて。


「分かりました。約束ですよ?」
「一度もだからな?」

「はい」

 なんか金曜からこっち、先輩をからかって遊ぶ……とか言ったら怒られそうだけど。
 それに慣れてて、少し心配だけど。


 先輩との夕食の為だ。

 そう思って。とりあえず今日は1日、頑張る事を、決めた。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

そばにいてほしい。

15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。 そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。 ──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。 幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け 安心してください、ハピエンです。

浮気な彼氏

月夜の晩に
BL
同棲する年下彼氏が別の女に気持ちが行ってるみたい…。それでも健気に奮闘する受け。なのに攻めが裏切って…?

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

「誕生日前日に世界が始まる」

悠里
BL
真也×凌 大学生(中学からの親友です) 凌の誕生日前日23時過ぎからのお話です(^^ ほっこり読んでいただけたら♡ 幸せな誕生日を想像して頂けたらいいなと思います♡ →書きたくなって番外編に少し続けました。

「恋みたい」

悠里
BL
親友の二人が、相手の事が好きすぎるまま、父の転勤で離れて。 離れても親友のまま、連絡をとりあって、一年。 恋みたい、と気付くのは……? 桜の雰囲気とともにお楽しみ頂けたら🌸

俺に告白すると本命と結ばれる伝説がある。

はかまる
BL
恋愛成就率100%のプロの当て馬主人公が拗らせストーカーに好かれていたけど気づけない話

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

処理中です...