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◇可愛い人。

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 先輩は、一生懸命、言葉を選びながら話してる感じ。
 仕事の時とは、全然違う。

 可愛い話し方になっちゃうの、何でなんだろう。

「だけど……恋人とか、急になるには……なんか考える時間も全然なかったし。こんなさ2人きりで2晩も一緒で――――……しかも旅先とか特殊だし。これで確定させるのはどうかと思っちゃうんだよ」
「――――……はい」

 まあ。それは、分かる。
 分かるけど――――……。

 別に旅先でいつもと違う感じで盛り上がったから、したわけじゃない。
 もし、東京で、オレの家で過ごしてたって、同じ相談されてたら、ああなってたと思うし。そりゃ先輩と、非日常を過ごせたのは、楽しかったけど。

 別に旅先だから手を出した訳じゃないし。 
 オレはもう、変わらないと思うけど。

 思う事は次々浮かぶけれど、とりあえず先輩が言いたい事を言い終えるまでは我慢。


「特に三上はさ。仕事3年目でさ……慣れてきたし、これから、プライベートとかも結構楽しいはずの時期だと思うんだよね」
「――――……うん」

 …………うん?  何だそれ。
 オレのプライベートが楽しくなる時期?

 ――――……オレの心配してんのか。……なるほど、ね。 

 なんか先輩らしいな。
 そんな風に思いながら、先輩の言葉の続きを待っていると。


「東京に帰って、日常に戻ったら少し落ち着くだろ? この盛り上がってんのが落ち着いてから――――……三上もさ、普通に過ごしてもらっていいしさ。それから、決めない?」

「――――……んー……」

 まあ。……先輩によく考えてから決めてもらった方がいい気がするのは、
 オレもそう思う。けど。少し気になるのは。


「最後のだけよく分かんないんですけど」
「……うん?」」

「オレが普通に過ごすってどういう意味ですか?」
「――――……」

 そう聞くと、ちょっと決まりが悪そうな顔。

「普通ってことは――――……合コンしたり、女と遊んでいいってこと?」
「――――……そういうのも含めて、言った」

「良いんですか?」
「……うん」

 これ、良いって言われたら、結構嫌なんだけど。
 ――――……オレが他でそういうことしても良いとか。
 すげーいやだな。

 ……でも、少し間が空くってことは。やっぱりちょっと嫌だって事だよな?


「……陽斗さんも、そうするってことですか?」

 一番気になる事を聞いてみると。

「……オレももちろん、自由に考えるけど――――……ほら、オレは……一昨日まで、あんな事で悩んでた位、だからさ」

 そんな風に言う。
 ――――……てことは、先輩は、他には行かないってこと、かな。

 あれ、でも。


「……キスとか、平気になったんじゃないですか?」
「――――……?」

 不思議そうな先輩。

「キスしたいって、今は思いませんか?」

 あんなにキス、気持ちよさそうにしてたし。
 ――――……そういうスイッチ、入れ直したとしたら。

 もしかして、オレとじゃなくて、やっぱり女の子とってなるかも?
 ちょっと――――……それは、どーにか阻止したいけど。

 そう思っていたら、目の前で、何だか複雑そうな顔をした先輩。


「今何考えました? 困った顔してないで全部言ってよ」

 なんか、女の子としてみようとか。そういう事を考えてて隠してるのかなーとか、思ったら。


「……三上とすんのは、気持ち良いのは分かったけど……他としたいとは、今んとこ思わないかも………」

「――――……」


 何だそれ。
 結構びっくりした。

 ほんと、何なの。――――……すげー、可愛いんですけど。


 オレとすんのが気持ちいいって。
 他としたいとは思わない。

 って、なんだ、それ。

 そんな事言っといて、オレに、他にも楽しめって言ってんの?

 ――――……どんだけなの、それ。

 それとも。
 ほんとにそう思うから、そう言ってるっていう。
 先輩の……なんかやたら素直な気持ちって事なのかな。


 ……つか。可愛い。


 ん? ちょっと待って。
 ――――……「今んとこ」は? 


 いや、そんなの、「今んとこ」じゃなくて。
 ずっと、オレとだけって思わせたい。

 それにしても。

 ――――……じゃあ自分は少なくとも、今のとこは、他にはいく気はないけど、オレには、プライベート、楽しむ時期だって?


「……てことは、オレだけ自由にしていいってことですか……」



 なんかほんと、変なこと言ってんなあ。


 ……何な訳。オレが先輩を好きだって、信じてないのかな。
 ――――……まあ。先輩も自由にしたいって事じゃなくて、良かったけど。

 どっちにしても。オレを自由にって。
 オレによく考えてって。


 ……そのくせ、オレ以外とかしたくないとか、普通に言っちゃうし。


  
 なんかもう。たまんない。

 ――――……ほんと、はー。



 可愛い人だなー……。





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