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◇くっついてんの。

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「…――――……」

 ぎゅーと抱き締めていたら。
 先輩の腕が、オレの背中に回ってきた。




「はは。……三上、どしたの?」
「……何となく」

「すごい抱き締めるよな……」

 クスクス笑う、先輩の声が、すぐ耳元で聞こえる。


 優しい声。
 抱き締めてるから顔は見えないけど、きっと優しい笑顔なんだろうなと思うような、声で。


「…………なあ」
「……はい?」


「……これから――――……どーしたい?」
「――――……」


 ふ、と顔を上げて。先輩の顔を見る。
 目が合うと、ふ、と微笑む。

「なんか三上、難しい顔してるから……そういう事かなーと思ったんだけど……違った?」
「……バレバレですね」

「あ、やっぱり?」

 ふ、と先輩は笑う。


 じっと見つめあうと、先輩はまた、すごくキレイに微笑んだ。


「三上は、どうしたい?」
「――――……まだ、考えてた所で……」

「……オレも。すごい考えてる」


 そう言った先輩の手が、そっと、オレの頬に触れた。



「……何が、一番、いいかなあ――――……」


 キレイ。だなあ。この人は、本当に。


 引き寄せられるように、キスしてしまう。
 何も言わず、オレをずっと見てる先輩は、瞳を伏せずにいた。


 唇が離れると、先輩は、ふ、と微笑む。


「考えよ、三上」
「……はい」

「……仕事もあるしさ。一番お互いイイ形でさ」

 頷くと、先輩は、するりとオレの腕の中から抜け出た。


「シャワー浴びてくる」
「……一緒に行きます?」

「ううん。1人がいいな」


 そう言われると、頷くしかない。

 風呂の方に歩いて行く先輩を見送った後。 
 枕に頭を沈めた。


 ――――……お互いにとって、一番いい形かあ……。




 ◇ ◇ ◇ ◇


 2人共シャワーを浴びて、身支度を整えて、朝食をとった。

 スーツを持って帰るの重いしって事で、今日はスーツ。
 軽く観光して、帰ろうと、決めた。


「三上、もう歯磨き終わったら、出れる?」

 最後に歯を磨いていると先輩が、顔をのぞかせた。


「あ、はい」
「オレ先に、チェックアウトすませとこうか?」
「――――……待ってください」


 歯を磨き終えて、口をすすぐ。

「そんな時間変わんないし、一緒に行きましょうよ」
「……ん」

 ふ、と笑って、先輩が頷く。

 スーツを着てると。正直、触りにくい。
 ――――……「先輩」て、感じ。


 やっぱりこのまま東京に戻って――――……スーツで会う関係に戻って、先輩後輩にもどったら、やっぱり、元どおりになるのかな。


 先輩が望むなら、戻るしか、ないし。
 ……別に、そんな、仕事に支障をきたすような事はしない。

 そう、思っているけど。


「――――…………」


 今スーツを着てる先輩を、抱き締めたら。
 少し、変わる、かな………。


 普段の、先輩を抱き締めたら。
 なんて考えていたら。



「三上」
「はい?」

 歯ブラシを置いて、振り返った瞬間。


「――――……」


 先輩が――――……。
 抱き付いて、きた。



「え。――――……ど、したんですか?」
「んー……なんか……スーツ着てるお前、ちょっと……距離感じて」

「――――……」


「……ちょっと距離縮めておこうかなと……」
「――――……」


 なんか。
 ものすごく。



「――――……陽斗さん」


 ぎゅー、と腕の中に、抱き締める。



「……可愛すぎるんですけど」
「可愛くはないけどな」

「可愛いですよ」
「――――……」


 ぷ、と笑った先輩が。
 背中に手を回して、さらに密着してくる。


「――――……なんかオレ……お前とくっついてんの、好きかも」
「――――……」


「どうしよう。 ……これ、やばい?」
「……オレもヤバいんで。大丈夫」


「……それ大丈夫なの?」

 くす、と笑ってそんな風に言うけど。
 離れようとはしないでいてくれるので。


 オレ達はしばらく、抱き合ってた。






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