上 下
105 / 274

◇甘い理由

しおりを挟む


「甘い、かあ……ていうか、三上も、オレに甘い気がするけど……」

 そんな風に言って、先輩はクスクス笑う。


「それはまあ――――……そうかもですけど」
「かも、じゃないよね?」

「――――……まあ。そうですね」

 ふ、と笑いあって、見つめ合っていると。
 先輩は、少し照れたように、視線だけ逸らした。


「んー。……これはさ……ちょっと違うかもしれないけど……」
「……ん?」


「ずっと、甘くしたくても出来なかったから……」
「――――……」

「その分も割り増しで、お前に甘いかも」

 そんな風に言われて、ぷっと笑ってしまう。


「何、それ。陽斗さん……」

「んー。甘くしたいっつっても、こういう意味とは違うんだけど……でもさ、仲良くしたかったのに近づかないようにしてたし」
「――――……」


 もちろんそれは、ただの先輩後輩としてだっただろうけど。

 ……仲良くしたかった、とか。
 …………物凄く嬉しい事を、さらっと言ってくれてる。

 オレが内心めちゃくちゃ喜んでいる事には気づかず、先輩は続ける。


「その反動でさ、今、三上が近くでオレを見て笑ってるのとか……嬉しいって感じるし。やっぱり少し関係あるかも」

「…………はー……なんですか、それ」
「……ん?」

「……もう、ほんと、可愛いなあ――――……」

 じー、と見下ろして、そう言うと。
 先輩は、また首を傾げる。

「オレ今可愛いこと、言った?」
「言いましたよ」

 何なら、また、ほんのすこし 首を傾げるのすら、死ぬほど可愛いンだけど。


「……三上の、可愛いって対象、すごい幅広すぎない?」
「広くないですよ」

 こんなに可愛い可愛い思った事ねーし。

「何でも可愛いっていう気がする」
「んな事言われたって、全部、可愛いんですよ」

 何でこんなに可愛いって感じるかは謎だけど、
 可愛いとしか、思わないっていう事実は、事実。

 ヤバい、可愛くて。
 愛おしいとか。

 このカッコイイ人が、こんな可愛いとか、他の誰も気づかないと良いなとか、心底思ってしまう。


「あ、陽斗さんさ、誰かに、可愛いって言われた事あります?」
「…………?」

「最近。あります?」
「記憶にないけど」

 ……記憶にないだけで、ありそうな気もするな。
 言われても、完全にスルーしてそうだけど……それで記憶に無いんじゃないのかな。


「これから、もし陽斗さんに可愛いとか言う奴いたら、教えてください」
「……」

 ぷ、と先輩は可笑しそうに吹き出した。


「なに? もし居て、そいつを教えたら、三上、どーすんの?」
「ん? あー。どうしようかな……。 まあ、とりあえず、ガードします」


 何だよ、それ、と先輩が笑う。

「ていうかさー、オレ、27だからね。 可愛いとか、普通言われないし。三上も、もうちょっと考えて、喋って。 オレ可愛くないし」

「オレはちゃんと考えて言ってますけど」

「絶対考えてないと思うけど」

 クスクス楽しそうに笑って、オレを見上げてくる。


「考えてますって」

 頬に触れて、唇に、指で触れる。


「――――……」


 黙った唇に、そっと、キスする。


「――――……ほんとに……」
「?」


「――――……タラシだな……お前」


 ふ、と困ったように笑う先輩に。
 オレは苦笑い。


「……とりあえず、寝よっか、三上」
「ん、そうですね」


 抱き寄せて、腕枕。


「いいですか、これで寝て」
「……ん、いーよ」


「――――……ありがとうございます」
「……ぷ。何で礼言うの」

「……さっき、されて、かなり恥ずかしいの分かったから」
「――――……」


「腕枕させてくれて、ありがとうございますって思って」


 自分でも何言ってんのかなと思いながら、笑いながら伝えたら。


「――――……腕枕するの、恥ずいのも分かったよ、オレも」


 クスクス笑いながら先輩が言う。




「じゃあお互い恥ずかしいって事で」

 オレがそう言うと、先輩は、腕の中でふ、と笑った。



「――――……でも、なんか、暖かくて、いい感じ……」



 笑みを含んだ、柔らかい声が。
 可愛すぎて。


 ぎゅ、と抱き締めた。
 




しおりを挟む
感想 119

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

信じて送り出した養い子が、魔王の首を手柄に俺へ迫ってくるんだが……

鳥羽ミワ
BL
ミルはとある貴族の家で使用人として働いていた。そこの末息子・レオンは、不吉な赤目や強い黒魔力を持つことで忌み嫌われている。それを見かねたミルは、レオンを離れへ隔離するという名目で、彼の面倒を見ていた。 そんなある日、魔王復活の知らせが届く。レオンは勇者候補として戦地へ向かうこととなった。心配でたまらないミルだが、レオンはあっさり魔王を討ち取った。 これでレオンの将来は安泰だ! と喜んだのも束の間、レオンはミルに求婚する。 「俺はずっと、ミルのことが好きだった」 そんなこと聞いてないが!? だけどうるうるの瞳(※ミル視点)で迫るレオンを、ミルは拒み切れなくて……。 お人よしでほだされやすい鈍感使用人と、彼をずっと恋い慕い続けた令息。長年の執着の粘り勝ちを見届けろ! ※エブリスタ様、カクヨム様、pixiv様にも掲載しています

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...