上 下
85 / 274

◇「陽斗さん」

しおりを挟む


 キレイな、顔。
 ――――……眉が、少し下がってる。

 ……苦しい?

 でも、可愛い。
 ごめん、今、やめれないや。



「……ん、っふ……」

 少し息苦しそうに声を出した先輩の手が、オレの腕に、触れる。
 でも、嫌がって押してくるとかじゃなくて、縋るように握り締めてるので、嫌がってないのは、分かる。


「……陽斗さん」


 敢えて呼んだら、先輩の瞳が開いて。
 視線が合うと、何とも言えない感じで、細められた。


「……それ、あとにして……」

 言いながら、先輩の唇が、触れてきた。


 ――――……あとにして?
 ……呼ぶのを?


 キスを返しながら。
 不思議に思ってると。
 腕に触れてた先輩の手が、少し背中に回ってきて、ぎゅ、と握った。

 オレが不思議そうなのが、分かったみたいで。
 困った顔して、眉を寄せて。

 それから、言った。


「……呼ばれると、なんか……変だから、あとにして」
「へん?」

 今日、何回か呼んだと思うんだけど。

 確かにちょっと、緊張した感じになる時もあったような……。


 にしたって、変て、何?



「――――……だから……」
「……うん」


 触れそうな位近くで見つめ合ったまま。
 先輩の言葉を待ってると。


「……ぞくぞくするから……今、やめてって、言ってる」

 ――――……。


 ……名前。
 呼ばれるだけで? ゾクゾクすんの?

 ……マジで?



「誰かに名前、呼ばれる事、ありますよね?」
「……あるよ」

 そうだよね。
 ……兄貴だって、呼んでるし。先輩の同期も皆、呼び捨てだし。


 ……何。
 オレに呼ばれるのがダメってこと?


 それってもしかして。




「なんか……三上に呼ばれたの……昨日のあの時だから――――……」

「――――……」




「……って、何で分かんないの? 三上のせいじゃん、変な時に呼んでたから……っ」



 ……突然、逆切れされた。

 しかも。

 真っ赤な、顔で、睨まれたって。



「いやだ、やっぱ離して、風呂が先にしようよ」

 離れて行こうとする先輩を、止める。



「ちょっと待って、先輩」

 腕をとって、もう一度オレの方を向かせたら、また、睨まれる。




「――――……」

 肩を掴んで、ぐい、と引き寄せて、その耳に、唇を寄せた。



「――――……陽斗さん?」

 耳の側で、息を吹きかけつつ、囁いた瞬間。
 びく、と震えて、ぎゅと瞳を閉じた。


「……っ」

 真っ赤になって、またオレから距離を置こうとした先輩を、そのままぐい、と抱き締める。


「……っや、だって言ってんじゃん!」


 先輩が、腕の中で、怒ってる。


「何で三上って、やだって言う事、すんの」
「だってそれ――――……別に嫌なんじゃないでしょ?」



 なに、この人。
 ――――……オレに、陽斗さん、て呼ばれるだけで。
 感じちゃうのか?


 く、と笑ってしまう。



「っ……何で、笑うんだよ?」
「――――……だって、可愛くて」


「……バカにしてる?」
「してない。――――……本気で、可愛い」


「――――……っ」


 抱き締めたまま、その唇を、塞ぐ。


「っ……」
「陽斗さん――――……」

 触れたまま囁いて、また口づける。


「……っ……」

 腕の中で、また、ぴく、と動いた。


 今日何度か呼んだ時も。
 ――――……昨日の事思い出して、意識、してたのかな……。



 そんな風に思うと、もう、死ぬほど、可愛い。


「――――……陽斗さん……」

 もう一度呼んで、、さらに深く口づける。

 だから、とでも言いたげに、開いた瞳は、舌を絡め取った所で、ぎゅと閉じられた。 


「……っ……ん、んぅ……」




 ……可愛すぎて。
 ずーっとキスしてられそう。







しおりを挟む
感想 119

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

【Rain】-溺愛の攻め×ツンツン&素直じゃない受け-

悠里
BL
雨の日の静かな幸せ♡がRainのテーマです。ほっこりしたい時にぜひ♡ 本編は完結済み。 この2人のなれそめを書いた番外編を、不定期で続けています(^^) こちらは、ツンツンした素直じゃない、人間不信な類に、どうやって浩人が近づいていったか。出逢い編です♡ 書き始めたら楽しくなってしまい、本編より長くなりそうです(^-^; こんな高校時代を過ぎたら、Rainみたいになるのね♡と、楽しんで頂けたら。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

処理中です...