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◇「陽斗さん」

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 キレイな、顔。
 ――――……眉が、少し下がってる。

 ……苦しい?

 でも、可愛い。
 ごめん、今、やめれないや。



「……ん、っふ……」

 少し息苦しそうに声を出した先輩の手が、オレの腕に、触れる。
 でも、嫌がって押してくるとかじゃなくて、縋るように握り締めてるので、嫌がってないのは、分かる。


「……陽斗さん」


 敢えて呼んだら、先輩の瞳が開いて。
 視線が合うと、何とも言えない感じで、細められた。


「……それ、あとにして……」

 言いながら、先輩の唇が、触れてきた。


 ――――……あとにして?
 ……呼ぶのを?


 キスを返しながら。
 不思議に思ってると。
 腕に触れてた先輩の手が、少し背中に回ってきて、ぎゅ、と握った。

 オレが不思議そうなのが、分かったみたいで。
 困った顔して、眉を寄せて。

 それから、言った。


「……呼ばれると、なんか……変だから、あとにして」
「へん?」

 今日、何回か呼んだと思うんだけど。

 確かにちょっと、緊張した感じになる時もあったような……。


 にしたって、変て、何?



「――――……だから……」
「……うん」


 触れそうな位近くで見つめ合ったまま。
 先輩の言葉を待ってると。


「……ぞくぞくするから……今、やめてって、言ってる」

 ――――……。


 ……名前。
 呼ばれるだけで? ゾクゾクすんの?

 ……マジで?



「誰かに名前、呼ばれる事、ありますよね?」
「……あるよ」

 そうだよね。
 ……兄貴だって、呼んでるし。先輩の同期も皆、呼び捨てだし。


 ……何。
 オレに呼ばれるのがダメってこと?


 それってもしかして。




「なんか……三上に呼ばれたの……昨日のあの時だから――――……」

「――――……」




「……って、何で分かんないの? 三上のせいじゃん、変な時に呼んでたから……っ」



 ……突然、逆切れされた。

 しかも。

 真っ赤な、顔で、睨まれたって。



「いやだ、やっぱ離して、風呂が先にしようよ」

 離れて行こうとする先輩を、止める。



「ちょっと待って、先輩」

 腕をとって、もう一度オレの方を向かせたら、また、睨まれる。




「――――……」

 肩を掴んで、ぐい、と引き寄せて、その耳に、唇を寄せた。



「――――……陽斗さん?」

 耳の側で、息を吹きかけつつ、囁いた瞬間。
 びく、と震えて、ぎゅと瞳を閉じた。


「……っ」

 真っ赤になって、またオレから距離を置こうとした先輩を、そのままぐい、と抱き締める。


「……っや、だって言ってんじゃん!」


 先輩が、腕の中で、怒ってる。


「何で三上って、やだって言う事、すんの」
「だってそれ――――……別に嫌なんじゃないでしょ?」



 なに、この人。
 ――――……オレに、陽斗さん、て呼ばれるだけで。
 感じちゃうのか?


 く、と笑ってしまう。



「っ……何で、笑うんだよ?」
「――――……だって、可愛くて」


「……バカにしてる?」
「してない。――――……本気で、可愛い」


「――――……っ」


 抱き締めたまま、その唇を、塞ぐ。


「っ……」
「陽斗さん――――……」

 触れたまま囁いて、また口づける。


「……っ……」

 腕の中で、また、ぴく、と動いた。


 今日何度か呼んだ時も。
 ――――……昨日の事思い出して、意識、してたのかな……。



 そんな風に思うと、もう、死ぬほど、可愛い。


「――――……陽斗さん……」

 もう一度呼んで、、さらに深く口づける。

 だから、とでも言いたげに、開いた瞳は、舌を絡め取った所で、ぎゅと閉じられた。 


「……っ……ん、んぅ……」




 ……可愛すぎて。
 ずーっとキスしてられそう。







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