上 下
64 / 274

side*陽斗 8

しおりを挟む


 外に来て周りに観光客がいっぱいで、2人きりのあやしい会話がなくなったら、消え去っていた平常心が、とりあえず戻って来た。

 一緒に観光を楽しみましょう、夜までに考えてくれたらいいからって。
 ……とりあえずそう言ってくれたし。

 せっかくだから、楽しんだ方がいいよなと、思って。
 観光マップも買ってみた。
 ……スマホで調べればいいし、普段は、そんなの買わないんだけど。

 高校時代の修学旅行の話をしたり、一緒に写真撮ったり、
 なんかすっごく楽しい。

 三上、ほんと。いい奴。
 たのしーなー。ていうか、めっちゃ優しい。優しすぎて、なんかちょっと困る位。
 そう思って優しくて戸惑うって言ったら。

「――――……つか、そんな事言ったら、先輩とこんな風に一緒に居る事自体、オレの方が戸惑いまくりですからね。昨日までのオレが見たらひっくり返りますよ」

 と、突っ込まれてしまった。

 ――――……でもなんかそういうのを、嫌な感じじゃなくて、きっぱりはっきり言って、笑い返してくれるとか。やっぱりなかなかできない気がする。

 隠し事、しないで付き合えそう。三上って。

 ……そもそも、昨日みたいな話、他人にしてしまった事自体、
 オレ、おかしくなってたとしか思えないし。

 なんか三上なら大丈夫かもって、思っちゃったんだよね。
 仲良くなるのを避けてきた後輩なのに、ほんの数時間一緒に過ごしただけで、あんな事相談しちゃうとか。

 ……普通なら酔ってても話したりしない。
 だって、この2、3年、ずーっとぼんやり思ってたけど、仲の良い友達とかにも誰にも、言わずに来てたのにさ。

 この2年、仕事の付き合いだけだったけど、三上のこと、かなり信頼してたんだろうなぁ……。
 

 清水の舞台から、京都の町を眺めながら、色々考えていたら。
 女の子達に話しかけられた。

 写真を撮ってあげて、離れようと思ったら呼び止められて、ああ、逆ナンだったのかとそこで気付いた。
 連れも居るしと、やんわり断っていたんだけど、男2人なのはもう知ってて、良かったら一緒にと言ってくる。

 オレこの精神状態で、見知らぬ女の子達となんて絶対無理。
 三上を振り返ると、なんか笑ってるし。助けろ、と見つめたら、面白そうな顔して、近づいてきた。

 有無を言わせない感じで、三上が断って、オレの腕を掴んで歩き出した。

 三上、圧が強いな、族長ん時の圧??なんてふざけて言い出した瞬間。

 三上の手が、ぱ、とオレの口を覆った。

「声でかいし」

 そんな風に囁きながら。

 瞬間、息も出来ずに固まる。
 ダメだ。

 オレ今、三上が、触ると、昨日の事が――――……。
 

「……悪い、今、あんまり触らないでくれる?」

 思わず言ったら、嫌だったか、と謝られてしまった。
 ……違う。嫌とかじゃない。

 違う。
 三上が言ってるの、違う。

 何て言ったらいいか分からなくて、黙ったまま三上の隣を歩いていたけれど。三上も気にしてるのか何も言ってこない。

 きっと、三上が考えてる事は、全然違うから、オレは。

「……三上に触られるのが嫌だから言ったんじゃないから」

 そう言った。


「今お前が触ると、オレ……昨日の、事、よみがえるから、ほんとに、無理」
「――――……」

 なんかすごく恥ずかしいけど、事実なので、オレは、そう言った。
 そしたら。どこかに座ろうと言われて、静かなカフェに入った。


 ……でも。
 三上が勘違いしてるだろうから、否定するために言ったその言葉は。

 ……多分、オレが、昨日の事思い出して。
 …………意識、しちゃうから、やめてという、そんな意味になっちゃうよなと思うし。……ていうか、まあ、そういう意味なんだけど……。

 いいのかな、オレ。


 このまま、この気持ちのままだと。
 ――――……今夜、オレ……。


「さっきの話、なんですけど」
「……触るなって言った、やつ?」

「それなんですけど」

 三上はめちゃくちゃオレをまっすぐ見つめてくる。
 
「オレが今、人もいっぱい居る所で、先輩にどんだけ触っても、何も意図はないですから。――――……あんまり、意識、しないでください」


 ……なんかオレが1人で意識しまくってるみたいで、恥ずかしくなる。

 そうだよね、オレ男だし、三上がずっとオレを意識してるとか、ある訳ないよね。昨日はあれは特別だったし。


「でも――――……でも、2人になって、触るのは、意味ありますよ。昨日のを思い出すとか。そういうのって……オレにとって、めちゃくちゃ意味があって。誘われてるのかなって、思っちゃいます」
「ち」
「違うのは分かってます。先輩、きっと考えずに言ってるんだろうなって、分かってるけど――――……オレは、そう思います」


 誘われてるとか、あまりの恥ずかしさに、咄嗟に違うと言ってしまいそうになった言葉を即遮られて、言われて。

 ――――……それも違うと、俯いた。
 つか、そんなの、何も考えずに、言う訳ないじゃん。

 誘われてるのかなって言う三上の言葉は、ちが、くない。

 オレが今言ってるのって、どう考えても、明らかに、
 ――――……今夜、オレ……。

 
「……陽斗さん」

 咄嗟に、顔を上げて、三上を見つめてしまった。
 昨日――――……おかしくなりそうな、感覚の中で、何回か呼ばれた名前。

 う、わ。
 やばい。な。 心臓、ドキドキしだした。

「……無理なら、陽斗さんとは、二度と、呼びませんから。無理しなくて、大丈夫ですよ」


 ――――……三上は、ほんとにそういう奴なんだと、思う。

 無理強いなんか、しない。
 ――――……昨日だって、何回も、途中で聞かれて。

 ずっと優しかった。


 陽斗さん、て呼んだのも。
 オレが、先輩後輩、気にしてたから。

 あの時だけ、「先輩」をやめてくれた。
 耳元で、「陽斗さん」て、呼ばれた感覚が、不意によみがえって、顔が少し熱くなる。


 ――――……何かオレ。ほんとにヤバくないだろうか。



 三上はきっと、ああいう事に慣れてて。
 そんなに嫌でもなかったから、続けて――――……。

 キスしてたら、反応したそれを、ただ鎮めただけ。
 ――――……そんな、気がする。



 ……ん? 
 そういえば。

 ……キス、したいって、なんだろう。


 美味しいスイーツ、食べさせたり、食べさせられたりしながら、
 すごく美味しくて、幸せに浸りながら。

 頭の中は、その疑問でいっぱいになってくる。


 キスしたい、触りたい、先輩じゃなかったら、してない。

 …………何それ。

 三上って、オレの事、好き。 ……じゃないよな。
 絶対昨日まで、嫌な奴ナンバーワンだったよな、オレ。

 好きなわけないし。


 じゃ何だろ??


 ツンツンしてた憎たらしい先輩が、変なことで悩んでて。
 ちょっかいだしたら、思ってたより良かった……から、もっと触りたい?
 
 …………なんか相手は三上だし、それとも違うような気がするけど、よく分かんないな……。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

前後からの激しめ前立腺責め!

ミクリ21 (新)
BL
前立腺責め。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

笑って誤魔化してるうちに溜め込んでしまう人

こじらせた処女
BL
颯(はやて)(27)×榊(さかき)(24) おねしょが治らない榊の余裕が無くなっていく話。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

とある金持ち学園に通う脇役の日常~フラグより飯をくれ~

無月陸兎
BL
山奥にある全寮制男子校、桜白峰学園。食べ物目当てで入学した主人公は、学園の権力者『REGAL4』の一人、一条貴春の不興を買い、学園中からハブられることに。美味しい食事さえ楽しめれば問題ないと気にせず過ごしてたが、転入生の扇谷時雨がやってきたことで、彼の日常は波乱に満ちたものとなる──。 自分の親友となった時雨が学園の人気者たちに迫られるのを横目で見つつ、主人公は巻き込まれて恋人のフリをしたり、ゆるく立ちそうな恋愛フラグを避けようと奮闘する物語です。

処女姫Ωと帝の初夜

切羽未依
BL
αの皇子を産むため、男なのに姫として後宮に入れられたΩのぼく。  七年も経っても、未だに帝に番われず、未通(おとめ=処女)のままだった。  幼なじみでもある帝と仲は良かったが、Ωとして求められないことに、ぼくは不安と悲しみを抱えていた・・・  『紫式部~実は、歴史上の人物がΩだった件』の紫式部の就職先・藤原彰子も実はΩで、男の子だった!?というオメガバースな歴史ファンタジー。  歴史や古文が苦手でも、だいじょうぶ。ふりがな満載・カッコ書きの説明大量。  フツーの日本語で書いています。

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

処理中です...