上 下
62 / 273

side*陽斗 6

しおりを挟む





 嘘だろ。昨日のオレ。マジか。


 ……酔ってた。…………酔っては、いたけど。
 ――――……でも、そこまで前後不覚だった訳じゃない。

 ――――……全部覚えてるし。


 起きるのを待つのは耐えられなくて、三上を起こした。
 がばっと起き上がられて。びっくりする。

「あ。――――……おはようございます……」

 普通に、挨拶はしてくれた。
 よかった。怒っては、ないみたい。

 でも、とにかくとんでもない事させて、ごめん、と、
 ひたすら謝ったら。

 そしたら。キスしたくてしたんだ、と三上は言った。
 今も、キスしたい、と。

 しばらく考えさせてとオレが言ったら、観光を楽しもう、と言ってくれた。


 ……やっぱり、優しいし。
 なんかオレの中の三上の評価がものすごい上がっていく……。

 朝食の時、迷ったり後悔したりしないのか聞いたら。

「昨夜した事は後悔してないですし。今もしたいっていうのは……本当ですけど。 でも、先輩が嫌なら、2度としませんよ」

 って、なんかものすごく普通の事みたいに言うけど。
 普通そんなに割り切れないと思うんだけど。

 ――――……昨日はしたくてしたから後悔してない。今もしたい。でも嫌なら2度としない。とかさ。

 
 ……オレだって、昨日、嫌だったら、途中で止めてる。

 いけない、と思いながら、良すぎて、流れに任せてしまった。

 嫌じゃなさ過ぎたから、本当に、困ってしまう。


「――――……今夜も、一緒に、泊まります?」

 そう言われて。
 昨日の事が全部頭によみがえってきてしまった。

 その時に浮かんだ感情は、それを嫌だとは思っていない、そんな想いで。

 鼓動が早過ぎて、困る。

 目の前に居るのは、後輩。
 昨日は酒飲んで変な相談とかしちゃって、あんな事になってしまったけど、来週からまた、自分の下に居る、指導すべき、後輩。


 顔見て、ドキドキする対象の相手じゃない。
 はず。

 なのに。


 部屋に戻ってすぐ、洗濯してもらった洋服を三上に渡すと、さっさと浴衣を脱ぎ捨てて、着替え始めてしまった。

 ……男同士だし、昨日、風呂も一緒に入ったし、全然普通の、行為。

 なのに。その裸に、昨日しがみついてしまった、三上を思い出して。
 オレは、思わず、洗面所に逃げ込んでしまった。

 着替え持って洗面所って。
 ……女子か、オレ!!


 なんか、出られない。
 隠れてしまったせいで、余計恥ずかしくなった。

 外で普通に着替えれば良かった。
 こんなの、意識してるって、言ってるみたいなもんじゃん。

 ……マジでバカ、オレ。 しっかりしろよ。

 恋したての女子高生じゃあるまいし……
 と自分で考えて、更にその考えた言葉に、クラクラしてくる。

 って ……恋したてってなんだ!
 女子高生ってなんだよーもうーー!

 思考自体がアホっぽくて、もう、自分にうんざりしてくる。


 時間が経てば経つほどに、戻れなくなると思って、何とか着替えて部屋に戻ると。


「似合いますね」

 なんて言われて。

「あ。うん。……ありがと。三上も、似合うよ」
「そうですか? 自分的には、かなり違和感ありますけど」


 ……っっ何なんだこの会話。
 めっちゃ恥ずかしい。

 そう思っていたら、三上が、オレの横を通って、その瞬間。
 びく、と体が震えてしまった。

 なんでオレ。今。びくついた?
 触られるとか思った?


 でもべつに 嫌だったわけじゃない。
 どき、と、した。


 ああ、もう――――……ヤバい。
 三上は、昨日、言ってた。

 そんな事しても、仕事に支障なんか出さないって。
 大人なんだし、慣れてるし、今更、とか。

 ……このままじゃ、どう考えてもオレだけが、仕事にめちゃくちゃ支障が 出てしまいそう。――――……どうしよう。

 ふらふら窓際にたどり着き、綺麗な庭園を眺める。


 ――――……キレイ。ちょっと落ち着く。

 そうだよ。ちょっと落ち着け、オレ……。

 ――――……昨日は、酔ってた。
 三上も、絶対酔ってた。

 ……キスは良すぎて困ったけど。
 まあ最初の生理的な嫌悪とかがなければ、別に男でもできてしまうんだなって、分かってしまった事はびっくりだったけど。

 ……ていうか。
 ほんとにヤバい位。良すぎて、困ったけど。


 キスしたいと思わない、とか。
 ……どの口が言ってんだ、オレ。









しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。 全17話、約6万文字。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

「誕生日前日に世界が始まる」

悠里
BL
真也×凌 大学生(中学からの親友です) 凌の誕生日前日23時過ぎからのお話です(^^ ほっこり読んでいただけたら♡ 幸せな誕生日を想像して頂けたらいいなと思います♡ →書きたくなって番外編に少し続けました。

Tally marks

あこ
BL
五回目の浮気を目撃したら別れる。 カイトが巽に宣言をしたその五回目が、とうとうやってきた。 「関心が無くなりました。別れます。さよなら」 ✔︎ 攻めは体格良くて男前(コワモテ気味)の自己中浮気野郎。 ✔︎ 受けはのんびりした話し方の美人も裸足で逃げる(かもしれない)長身美人。 ✔︎ 本編中は『大学生×高校生』です。 ✔︎ 受けのお姉ちゃんは超イケメンで強い(物理)、そして姉と婚約している彼氏は爽やか好青年。 ✔︎ 『彼者誰時に溺れる』とリンクしています(あちらを読んでいなくても全く問題はありません) 🔺ATTENTION🔺 このお話は『浮気野郎を後悔させまくってボコボコにする予定』で書き始めたにも関わらず『どうしてか元サヤ』になってしまった連載です。 そして浮気野郎は元サヤ後、受け溺愛ヘタレ野郎に進化します。 そこだけ本当、ご留意ください。 また、タグにはない設定もあります。ごめんなさい。(10個しかタグが作れない…せめてあと2個作らせて欲しい) ➡︎ 作品や章タイトルの頭に『★』があるものは、個人サイトでリクエストしていただいたものです。こちらではリクエスト内容やお礼などの後書きを省略させていただいています。 ➡︎ 『番外編:本編完結後』に区分されている小説については、完結後設定の番外編が小説の『更新順』に入っています。『時系列順』になっていません。 ➡︎ ただし、『番外編:本編完結後』の中に入っている作品のうち、『カイトが巽に「愛してる」と言えるようになったころ』の作品に関してはタイトルの頭に『𝟞』がついています。 個人サイトでの連載開始は2016年7月です。 これを加筆修正しながら更新していきます。 ですので、作中に古いものが登場する事が多々あります。

僕はただの妖精だから執着しないで

ふわりんしず。
BL
BLゲームの世界に迷い込んだ桜 役割は…ストーリーにもあまり出てこないただの妖精。主人公、攻略対象者の恋をこっそり応援するはずが…気付いたら皆に執着されてました。 お願いそっとしてて下さい。 ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎ 多分短編予定

そばにいてほしい。

15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。 そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。 ──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。 幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け 安心してください、ハピエンです。

肌が白くて女の子みたいに綺麗な先輩。本当におしっこするのか気になり過ぎて…?

こじらせた処女
BL
槍本シュン(やりもとしゅん)の所属している部活、機器操作部は2つ上の先輩、白井瑞稀(しらいみずき)しか居ない。 自分より身長の高い大男のはずなのに、足の先まで綺麗な先輩。彼が近くに来ると、何故か落ち着かない槍本は、これが何なのか分からないでいた。 ある日の冬、大雪で帰れなくなった槍本は、一人暮らしをしている白井の家に泊まることになる。帰り道、おしっこしたいと呟く白井に、本当にトイレするのかと何故か疑問に思ってしまい…?

処理中です...