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◇怯えてる?

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「三上、ありがと」

 部屋に戻ると、先輩がオレの持ってた紙袋を受け取って、中を覗き込んだ。
 テーブルの横に座り、オレの服と自分の服を仕分けている。


「これ、三上のな」

 そう言って、座布団の上に重ねて置く。


「ありがとうございます」
「うん」

 色々話す前に、着替えちまおうかなと思って、浴衣を脱ぎ捨てた。
 シャツを着て、白のニットを着る。

 ――――……自分が着てる感じが、白って。なんか、いつもの感じと違う。
 ちょっと違和感を感じながら、ズボンをはく。ジッパーを上げながら、ふと、顔を上げると。


「……先輩?」

 なんか、固まってる。


「どうしました?」
「――――……オレ、ちょっと……あっちで着替えてくる」

「は?」

 服を持って、洗面台とバスルームがあるドアの向こうに消えてしまった。

 え。ちょっと待って。
 女子じゃあるまいし、男同士で着替える時、見えないとこ行く?

 昨日風呂入る時は、何のためらいもなく、裸だったのに。

 むしろ、隠された方がはずかしくなる。


 ……もしかして、すげえ警戒されてるのかな?
 ……脱いだら襲われるとでも、思ったのかな?


 ……さすがにそれはしねーけど。

 もしそんな風に思われてるなら、すげー嫌だな。
 と悩みながら身支度を整えて、鏡の前に立つ。

 まあ、違和感あるけれど。自分が黒をよく着てるっていう思いが無ければ、似合わなくはねえかな。

 少しして、先輩が服を着替えて戻ってくる。


「――――……」


 ああ、よく考えれば。
 先輩が私服着てんの、初めて見るんだ。

 すげぇ。
 なんか貴重。

 ……似合う。可愛いな。
 ……まあ、普通の奴は、先輩の事は、カッコいいって言うんだろうけど。
 

「似合いますね」

 すごい可愛いです、なんて言葉は、辛うじて飲み込む。
 今そんなの口滑らせて言ったら、多分どっかに逃げられる。


「あ。うん。……ありがと。三上も、似合うよ」
「そうですか? 自分的には、かなり違和感ありますけど」

「黒が多いんだっけ」
「ん、そーです」

 オレは着ていた浴衣を軽く畳んで、布団の近くに置いてから立ち上がった。
 先輩の横を通り過ぎて、歯を磨きに行こうと思ったけど。

 オレが、通り過ぎようとした瞬間。
 びく、と小さく、震えた。

 ――――……。

 気づかないふりをして、洗面所に入って。
 歯ブラシに歯磨き粉を付けて、口にくわえた。


 んー……。
 ――――……先輩、怯えてる??

 無理強いしたつもり、無かったけど。
 …………やっぱ、嫌だったのかな。

 なんか朝起きた時よりも、もっとなんか、先輩が緊張してるような気がする。目が覚めて、色々考えたら、やっぱり、やばかったって、すげえ思ったのかもしれないか。


 んー……。
 どうしよ、観光。

 ……あ、そうか。とりあえず、外ならそんな警戒しねーだろうし、一緒に観光して、やっぱ今日帰ろう。それで普通に別れれば、きっと、変な警戒されてびくつかれるなんて事は、なくなるか。

 先輩ともう一泊、なんて思ったけど。無理強いはやめよう。


 ――――……最初は、先輩をさっさと帰して、1人で誰か、イイ女引っ掛けて、とか思ってたのに。そんな気持ちは一切無くなってしまっているし。先輩と帰ろう。


 ……また月曜から一緒に仕事なんだし、あんなびくつかせてたら可哀想だし。 
 しょうがねーな

 ――――……楽しいとこ回って、帰るか。
 どこがいいかなー。
 

 そんな風に考えながら歯を磨き終わり、部屋に戻る。
 先輩は、窓に立って、外の庭を見下ろしていた。


 なんか、絵になる人だなー。
 ……ほんと、綺麗。





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