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◇全部可愛い。

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 その時。仲居さんが、そっと近づいてきた。

「昨夜お預かりしたお洋服です。ここに置いておきますね」
「あ。ありがとうございます」

 先輩が、ぱ、と顔を上げた。
 気を取り直して、笑顔でお礼を言ってる。

「無理言ってすみませんでした」

 そんな風に言って、いえいえ、と笑顔の仲居さんと楽しそうに話してる。

 なんかその横顔は。
 一緒に営業回ってる時の、人当たりの良い、でもちゃんと仕事してますっていう顔と同じ。


 ――――……こっちの先輩も、好きだけど。


 オレも一緒にお礼を言った所で、仲居さんが居なくなって。 
 いつも通りの顔をしていた先輩が、ふーーー、と深い息をついた。


「とりあえず食べて、部屋で話そう。なんかこんなとこで話す事じゃない気がしてきた」

 ……周りとは席離れてるし。オレは全然平気なんだけど。
 先輩、真っ赤んなっちゃうからなあ。


「そうですね」

 普通の顔で、もう一度食べ始める先輩。
 ……先に食べ終わって、じっと見つめていると。


「……あんま見るなよ」

 困った顔をして、視線を、ぷい、と逸らしてる。



 ああ、なんか……。
 マジで可愛いな。 ほんと、どうしようかな――――……。



 そう。今日、オレ、この人と、観光するんだよな。
 どこ、行こう。
 すっげー楽しみ。


 …………そういえば。
 金土と泊って、日曜に帰っても良いって、部長、言ってたっけ。


「……先輩」
「うん?」

「――――……今夜も、一緒に、泊まります?」
「――――……っ」


 とりあえず今は、普通に聞いただけだったのに。

 先輩は、きょとんとした後。
 かっと赤くなって。もうかなり俯き加減で、頬杖をついて口元を隠してしまった。


「……オレ今は、普通に聞いただけなんですけど…… なんか、想像、しました?」

「っし、てないっつの。 何も。何、想像したっていうんだよ」
「んー……例えば」

「わあ、何! っ言わなくていいから! ほんと、言わないで、もう、何なんだ、三上、ほんと、なんかもう……」


 なんか早口で、ぶつぶつ言ってる。
 ――――……ぷ、と笑ってしまう。


 ああ、ほんと。
 可愛すぎて、ヤバい。


 
 その反応だと。
 ……オレ、調子に乗るけど。

 悪いけど。あんまり調子にのせると。
 オレ、ほんとに止まんなくなるんだけど。


 ……分かってねえよなー、絶対。


 
 なんだかな、と思いながら、先輩が食べ終わるのを待って、食事の部屋を出ると、隣に土産物屋があった。


「三上、ちょっと寄りたい」
「いいですよ」

「今、朝食に出てた漬物、置いてないかなー……」
「あぁ。好きなんですか? 漬物」
「オレじゃなくて、母親が好きそうだから」

 あーなるほど。
 頷きながら店内を一緒に見まわしていると、目についたポップ。
 
「あ。これじゃないですか? 朝食の漬物ですって書いてありますよ」
「あ、ほんとだ。ありがと」

 先輩がそれを手に取って、レジに行こうとするので。

「それ持ってますよ」

 先輩が持ってくれていた服の入った紙袋を受け取って、レジに行く先輩を見送る。


 こういう時は、ほんと、全然普通。いつも通りの先輩だな。
 ――――……昨日の話になると。なんか。すげえ可愛くなってしまうのは、何なんだろうか、ほんとに。


「お待たせー。ありがと、それ」
「いいですよ、持ってます」
「……ん、ありがと」

 ふ、と笑む先輩。



 ――――……つーか。
 ……昨日の話とかしてなくても。やっぱり、全部可愛かった。


 昨日下手に、手をだしてしまったりしたせいなのか。
 こんな普通の笑顔見て、キスしたいとか思ってしまうって。


 いよいよ本気でヤバいな、オレ。







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