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◇嫌な訳。

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「兄貴の事は無視で。――――……先輩がいいなら、オレ先輩にキスしてみたいんですけど」
「――――……ん?」

 しばし沈黙の後、先輩がふ、と首を傾げた。

「したい、の?  オレと、キス?」
「……はい」

「してもいいっていうんじゃなくて? したい?」
「……」

 もうなんか、隠すの面倒だし、頷いてしまうと。
 
「……なんかそうなると、なんかまたちょっと悩むけど」
「――――……先輩」

 先輩の腕を、軽くつかんだ。

「……オレ、仕事の後輩ですけど。ここでキスしたからって、仕事に影響なんか出しませんし。ていうか、オレ、そういう経験多い方だと思うんで、今更キス位で、そんな動揺したりもしませんし。迷惑かけません」
「――――……」

「……色々考えて、あんたにキスしたいと思ってます。先輩も、キス、されてみたいなら、他の奴じゃなくて、オレで我慢してください」

 何をこんなに必死になって、真剣に言ってるんだろうと、ものすごい思うけど。

 案の定。
 最後まで黙って聞いていた先輩が、あは、と笑い出した。


「ほんと、おもしろ、三上……」

 まっすぐ、先輩がオレを見る。


「分かった。いいよ」

 そう言った先輩は、オレに真正面に向かい合った。


「ん」


 上向いて。
 少し、目を伏せる。


「――――……」


 すっげえ。 ドキドキする。
 ヤバい位。

 今更キス位って、たった今言った言葉、
 この人に関しては全くハマらないけど。

 この人にするキスが、動揺せず出来るとか。ないけど。




「――――……」


 なんか昨日まで。
 嫌いだと思ってこの人を。


 何故か今は大好きになってて。


 ……何でかキスしようとしてるとか。
 正直、全然意味が分からないけど。


 先輩の唇に、そっと、一度、触れた。

「――――……」

 ゆっくり離したら、閉じてた先輩の瞳が、ふ、と開いた。

「……え。終わり?」

 そんな言葉に、苦笑いが浮かぶ。


「――――……嫌じゃないです?」
「うん。ていうか、触れるだけのキスなんて、嫌な訳ないじゃん」

 クスクス笑う先輩に。

「じゃあもう――――……オレの好きなようにキスしますよ」
「――――……」

 ちょっとびっくりしたみたいな先輩の顔。

「なんか。急に、男の顔されると、びっくりするけど」
「――――……」


「……三上がいやじゃないなら、いーよ」


 つか。
 嫌な訳ねーし。


「――――……」

 先輩の耳の後ろに手を這わせて、ぐ、と抑えて。
 そのまま、深く唇を重ねた。

 






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