上 下
30 / 273

◇秘密。

しおりを挟む


 
 先輩が隣に来てしまって、ドキドキしながらの時間。
 早いような、ゆっくりなような。

 変な感じで、時が過ぎていく。

 もう早く寝てしまいたいような、
 いつまでも、こんな風に、先輩の顔を見ながら話していたいような。

 どっちつかずの気持ちでずっと、話していた。


 今までの先輩は。
 目も合わなくて、笑わなくて、仕事を教える時は丁寧だったけど、余計な話とかは一切しなくて。他の奴とばっか、楽しそうに話してて。

 ……すげえムカついて、嫌いだと、思い込んでた。


 今、目の前に居る先輩は。
 すぐ隣に居るっつーのに、目をあわせすぎって位、合わせてくるし。
 めちゃくちゃ笑うし。ずっと楽しそうに余計な話、してるし。
 ちょっと酔っ払ってて、なんか、とろんとしてて。

 そんな風に、見つめられると、マジで困るんですけど。


「先輩、ちょっと飲みすぎ」

 先輩の前から、酒の缶を奪う。

「あー、お前、何すんの。先輩の酒を奪うってどー言う……」
「とりあえずちょっと水飲んで」

 うるさいので遮って、水をコップに入れて先輩に渡す。

「……」

 静かに水を飲んでるのが、ちょっと可愛く見える。
 ――――……じゃねえだろ、ほんとに。

 ため息をつきながら、オレは酒を飲んでると。

「……なあ、三上?」
「はい?」


 なんか少し調子の変わった先輩の声。
 ふと、視線を向けると。

 はー、と息を吐いてて。少し着崩れてる浴衣が。
 ……ちょっと、色っぽい。



「高校ん時の秘密って、なに?」
「え?――――……ああ、気になってます?」

「……うん。まあ、ちょっと。2人そろってだし」

 先輩、可笑しそうにクスクス笑う。


「……まあ、良いんだけど。秘密って、言いたくねえから、秘密なんだもんな……」

 笑み交じりではあったけれど、先輩が、少し、トーンを落とした。


「先輩も、何か秘密、あるんですか?」
「えっ。何で??」

「……なんかそんな言い方だった気がしただけ、ですけど」

 言ってみただけだったんだけど。
 ――――……そんなびっくりされると、もう、あるって言ってるようなもんだと思うけど。
 

「秘密っていうか――――…… 誰にも言ってない事が、あるってだけ」
「――――……それを秘密って言うんじゃないんですか?」
「……あ、そっか」

 そういやそうだね、とか、笑ってる。
 なんか、酒飲むと、幼くなるのか?

 仕事教えてる時とか、取引先と話してる時とか、プレゼンしてる時のすげえカッコいい、嫌いと思いながら憧れてしまってたような先輩と、ここに居る先輩は、何だか別人みてえ……。

 こっちも可愛いけど。と、もはや普通に思ってしまうオレも、実は結構酔ってるんだろうか。

 
「オレのは別に……どーしてもって程の秘密じゃないんですけど……」
「ごめん、良いよ」

「あー。一緒に、祥太郎の店行くなら、すぐバレると思うんで、言っちゃいましょうか」
「え、そうなの?」

「あそこに来る奴らは知ってる事なんで」
「じゃあ、全然秘密じゃないじゃん?」
「あー……まあ。 てか、会社の人には、隠しとこうかなと思う程度です」



 ――――……じゃあ先輩のは、「ちゃんと誰にも秘密」って事か。

 どんな秘密なんだ?
 そっちのが、気になるけど。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

そばにいてほしい。

15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。 そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。 ──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。 幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け 安心してください、ハピエンです。

浮気な彼氏

月夜の晩に
BL
同棲する年下彼氏が別の女に気持ちが行ってるみたい…。それでも健気に奮闘する受け。なのに攻めが裏切って…?

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

「誕生日前日に世界が始まる」

悠里
BL
真也×凌 大学生(中学からの親友です) 凌の誕生日前日23時過ぎからのお話です(^^ ほっこり読んでいただけたら♡ 幸せな誕生日を想像して頂けたらいいなと思います♡ →書きたくなって番外編に少し続けました。

「恋みたい」

悠里
BL
親友の二人が、相手の事が好きすぎるまま、父の転勤で離れて。 離れても親友のまま、連絡をとりあって、一年。 恋みたい、と気付くのは……? 桜の雰囲気とともにお楽しみ頂けたら🌸

俺に告白すると本命と結ばれる伝説がある。

はかまる
BL
恋愛成就率100%のプロの当て馬主人公が拗らせストーカーに好かれていたけど気づけない話

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

処理中です...