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◇笑顔が可愛いとか。
しおりを挟む部屋に戻ると、先輩がテーブルの片側に座って、暇そうに、つまみの裏側を眺めながら待っていた。
「三上、大丈夫?」
「もう全然平気です。すみません」
「いーけど。 のぼせちゃうとか。可愛いなー、お前」
クスクス笑う先輩に、もう、めちゃくちゃため息をつきたい気分。
弟とか。可愛いとか。すげー、嫌……。
飲み干した水のペットボトルをゴミ箱の隣に置いて、冷蔵庫からもう一本水を出す。
「オレとりあえず今は水飲みますけど。 先輩は?」
「ビールがいい」
ビールを渡して、先輩の向かいに座る。
テーブルが大きくて、先輩が遠いので、少し、ほっとする。
「すっごい――――……いいなー、ここ」
「そうですね」
ビールを開けて、一口飲んで、先輩はくすっと笑った。
「木原さんてさ」
一瞬誰かと思ったが、さっきのおっさんの名前か。
頷いて、続きを待っていると。
「昔担当してた時からさ、なんだろ…… よく、触る人でさ。志樹が、離れろよって、よく言ってたの。別にオレ、男だし、多少触られても別に減るわけじゃないし――――……大丈夫、てよく志樹に言ってたんだけどさ」
「――――……」
「兄弟でおんなじこと言ってくるとか。 笑える」
あははー、と笑ってる。
兄貴と似てるとか言ってたの、それか。
「ていうかさ、木原さんて結婚してるし。オレ、パーティで奥さんに会った事もあるしさ。志樹が心配し過ぎなんだって、何回も言ってたんだよ。まあさ、木原さんがオレを気に入ってくれてるっぽいのは分かってるんだけど。あと多分、距離が近い人なんだと思うんだけどさ」
「――――……」
それだけだとは、思えねーけどな。
……まあ、これから会わねえだろうから、もう、何も言わねえけど。
「先輩、ちょっと聞きたいんですけど」
「ん?」
「あの人以外に、距離が近いって思う人って、いますか?」
「んー……?? 居ない事もないような……どうだろ……オレの取引先って、ほとんどお前、連れてったけど。別に気になってないだろ?」
「――――……」
思い出そうとしてみるけど、いまいち、はっきり覚えてない。
何でだ?と思った瞬間、分かった。
この人がニコニコ話してるとこ、見るとムカつくから、全然違う所見てるか、他に人が居るなら他の人と話してるか。
……見てなかった。
そういや、あのおっさんが東京に居る時も、行った事あったっけ。でも、覚えてない。 見てなかったから。
「――――……」
今度から排除するから、先輩が気になって無い位なら、まあ大丈夫か。
心の中で思って、テーブルに置いてあった、ナッツを口に入れた。
「……兄貴がそんな風な心配するとか、やっぱり、仲いいんでしょうね」
「んー? そうかな?」
「だってあの人、そんな、他人の心配するような人じゃないですし」
そう言ったら、先輩は、クスクス笑った。
「志樹、どんなイメージなんだよ」
「……そういうイメージです」
「はは。おもしろ――――…… でも、一緒に会社やってくんだろ? 仲いいんじゃねーの?」
「……兄貴の為ってよりは……親父の為です」
「社長の?」
「うち、母さん、早く亡くなってから、まあ色々心配かけたんで」
「色々って?」
族やってたの、途中でバレたしな……。
兄貴は、バレてなかったみたいだけど。
「高校ん時とか――――……まあ、色々」
「何? 秘密?」
「そう……ですね、あんまりおっきく言うような事じゃないんで」
苦笑しながら言うと、先輩はふ、と笑った。
「高校ん時色々か。なんか志樹もおんなじような事言ってたような…… 似てるんだな、三上家の兄弟」
クスクス笑う先輩に、そういや、やってる事同じかも。
と一瞬思いながらも。
……いやいや、オレはあんなのには似てないはず。
思わず、首を振ってしまう。
「つか、似てるの、嫌なの?」
「……はい」
三上、おもしろ。と、先輩が可笑しそうに笑う。
笑顔が、可愛いとか。
思ってしまう気持ちはどうしようもない。
――――……なんか。昨日まで、というか。今日の夕方まで、オレの人生で一番のモヤモヤの対象だった人なのに。
こんな急激に、真反対にいってる気持ちに、自分でも呆れる。
まあでも――――……真反対でもねえのか。
好きだから、モヤモヤずっと気にしてたってことで……。
で、今は完全に、好きの方にいってしまった、というだけの話で……。
笑顔を見ながら、ふ、と息をつく。
とりあえずこのテーブルでっかくて、距離あって、良かった。
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