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◇好き過ぎる。

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 木の匂い。
 いいなー、この風呂……。

 寄りかかって、月を見上げる。

 月が綺麗。
 ――――……そう言った、先輩のがキレイに見えた。

 もうなんか、1人になってて静かに考えると、すんなり認めてしまう。

 あんな態度されて、嫌いだと思い込もうとしてたけど、今となっては心の中ではどうしても惹かれてたとしか、思えない。

 嫌われていたんじゃないっていう事が分かって。
 その、とんでもない、避けてた理由も分かって。

 望んでた笑顔が、惜しげもなく向けられてきて。

 ――――……2年間の距離を、埋めようとしてるみたいに、楽しそうに話しかけてこられると。

 ほんと。
 ――――……オレ、陽斗先輩のことが、好き過ぎるって、思ってしまう。

 しかも――――……これって、先輩後輩の好きとかじゃねえし。

 裸とか浴衣姿を意識して、首筋に反応して……って、
 自分でもすげえヤバいのが、分かる。

 オレ。そっちもイケたのか……。今まで生きてきて、知らなかった。

 はーー、とため息をつきながら、お湯をすくう。なんかお湯が柔らかい、気がする。
 そのまま何気なく、するりと、手首に触れると。

 ――――……おお? 超すべすべしてる。
 あやしい思考が一瞬止まった位の感触に、自分で腕をさすってみる。

 気持ちいいな、このお湯。


「みーかーみー」

 がらがら、と急に引き戸が開いた。

 もう先輩はすっかり浴衣姿。
 ホッとするような。……残念な、ような。

 でも、浴衣姿すらも、やばいんだけど……。


「なんですか?」
「まだ入ってる?」

「……ん、もう少し」

 言いながら、腕を擦ってると。
 先輩は、ふ、と笑った。

「すべすべだから触ってんの?」
「え?」
「今、外に出てから、腕に触ったら、超すべすべでびっくりした」
「……うん、ですね」

「もっとつるつるになってから出てくる?」
 クスクス楽しそうに笑って、そんな風に言ってくる。

「そーですね、後少しだけ」

 そう返すと、先輩は、何を思ったのか、とことこ湯舟に近付いてくる。
 すとん、としゃがんで、浴衣の袖をまくると、ぽちゃん、とお湯に手を入れてくる。

「お湯がなんか、柔らかいよな?」

 袖をまくった白い腕と、楽しそうな笑顔に、ドキ、として。
 そうですね、と言いながら、先輩からは目を逸らして、お湯をまた両手ですくう。


「……あとでもう1回、はいろーっと」

 お湯をクルクルかきまぜながら、先輩はそう言って、笑うと、ゆっくり立ち上がった。

「つまみ並べとくー」

 そんな風に言いながら、先輩が姿を消した。


「――――……」
 
 ――――……うん。
 好き、だな。オレ。


 今まで絡まなかった視線と、今まで向けられなかった笑顔。
 それがこんなに嬉しいって。
 そっちは、今までの経緯から、納得できるんだけど。


 ――――……白い腕、掴んで、細い腰、抱き寄せて。
 あの瞳を、もっと近くで見たい、とか。
 首筋、噛みつきたい、とか。

 こっちのヤバすぎる衝動は、もう、そういう意味の好き以外では、ありえない。


 オレ、マジで、男イケたのかぁ――――……。

 違うな、男というか、陽斗先輩。
 先輩、そういう対象で、イケてしまうのか……。

 はー。マジ、ヤバい。


 しかもあの人。

 さっきのおっさんの時も思ったけど。

 自分がキレイなのとか。狙われてるとか、全然気づかない。
 その上、距離近い。まっすぐ見つめるし。 
 

 ――――……しっかりしろよ、オレ。


 あの人の、自覚のない、行動に、のせられて、
 絶対、変なこと、やらかすなよ。

 自分にひたすら言い聞かせる。






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