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◇酔えない
しおりを挟む「湯葉、美味しい。 三上、この店すごい良いな?」
「良かったです」
「日本酒も美味しいし」
もう結構ご機嫌な先輩は、少し赤くなった顔に、ひたすらニコニコ笑顔を浮かべてる。
――――……こっちは、なんだか、全然酔えない。
とりあえずネットで選んだ店、アタリだったらしい。
まあ、料理もうまいし、店の雰囲気も良い。
「美味しいて言えばさ」
ふと、思い出したように、先輩が言う。
「三上の友達の店。あそこ美味しいな」
「ああ――――……言っときます。喜びます」
「2回夕飯食べたんだけど……ちゃんと作ってる感じ」
「ですね、ちゃんと作ってますよ。レトルトっぽいのは使ってないはず」
「うん。美味しかった。また行きたい」
「……兄貴とですか?」
兄貴があの店に通うの、ほんとマジで勘弁してほしいんだけど……。
一瞬で、ものすごく、憂鬱になっていると。
「え? あ、志樹?」
意外そうな顔をして、先輩は、ふ、と笑った。
「たまたま先週と先々週は、一緒にやってた仕事があって、食べに行ったけど。オレ、今は三上と行こうと思ってた」
「――――……」
――――……オレと、行こうと、思ってたの?
「だって三上はほとんど毎週行ってるんだろ?」
「……そう、ですけど」
「それについてこうと思ってたけど。……あ、つか。指導係一緒じゃ嫌か」
「そ、んな事は」
「あ、いいよ。友達の店だし。ゆっくりしたいよな。やっぱりやめと」
「行きましょ、来週」
先輩の言葉を、ものすごい食い気味に遮って。
そう言ったら。
きょとん、とした顔でオレを見て。
それから、クスクス笑い出した。
「何でそんな、すごい勢いなんだよ?」
「――――……」
確かに。
……乗り出し過ぎた。
「じゃあ、来週、行く?」
「……はい」
オレ達が一緒に行ったら、祥太郎びっくりするだろうな。
……いきなり行く事にしよ。
「先週、友達と居たよな」
「ああ、ちー……高校の頃の、後輩達ですね」
チーム、と言いそうになって、慌てて言い直した。
「仲良さそうだった」
クスクス笑う先輩。
「志樹が言ってたんだよね」
「何をですか」
「とにかく、人に懐くのも懐かれるのもうまくて、すげーモテる奴って」
「……兄貴の方が、モテますけど」
嫌味かな。
「あー、でも志樹のはあれだろ? 今も会社でそうだけどさ、カリスマっぽいというか……遠巻きに、みたいな。三上の事は、ほんとに好かれる奴だからって言ってたよ」
「……初耳ですね」
「あ、マジ? んー、まあ。……でも、言ってたよ。 だから、一緒に会社やってく、役に立つからって」
「役に立つ……」
何か、言い方が気に食わないが。
ちょっと初耳。
ていうか、兄貴、そんな事、この人に話すんだ。
「……兄貴と先輩って、すごく仲良いんですか?」
「仲いい……まあ、最初は仕事、ライバルだったんだけど、組ませた方がうまくいくって言われるようになってからは、ずっと仲間で――――……まあ、だから、仲は良い、かなあ……」
「……褒めるなとか、そんな依頼を2年間も聞くくらい、ですか?」
「あー。んー……それはさ、仲いいからってよりは――――…… なんか今後の会社とか、三上の立場的にとか……志樹の言ってる事、納得できたから」
「――――……」
何となく、何も返事を思いつかないまま黙っていると。
先輩は勘違いしたみたいで、ふと、視線を落とした。
「……んー…… やっぱ、三上って、オレの事、嫌いだったよな、ずっと」
「え?」
「オレだったら嫌いだもん。仕事厳しくて、話さないし笑わないし目も合わさない先輩なんて」
「――――……」
……確かに。
…………嫌いだと、思ってた。
――――……オレも、嫌いだから、別に良いって。
嫌われてても、オレも、嫌いだから、別に気にしないって、思ってた。
けど――――……。
実際どうなんだろう。
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