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◇酔いたい。
しおりを挟む結局タクシーで店の前まで来て、席に着いた。
「何でカウンターで予約したの? テーブル席もあるじゃん?」
「……別に」
あんたの笑った顔、真正面から見つめながら食べるの、
なんかすげー落ちつかなそうだったから。
とは、言えない。
「まあいいけど……」
上着を脱いで、先輩はネクタイを少し緩めて、ボタンを外した。
「…………」
着崩すところ、初めて見たかも。
――――……あのキモイおっさんじゃねえけど……。
……何で男のくせに、いちいち目を引くっつーか……。
「三上って、志樹と、会社継いでくの?」
「さあ。――――……とにかく親父が倒れて、兄貴が引き継ぐから、手伝えって言われたんで」
「仲良いんだね。嫌だーとかも無く、素直にそうしたんだ?」
「仲良くはないです。兄貴、昔から、なんか逆らえなくて。表向き怖くないんですけど、裏側から怖ぇつーか……」
そう言うと、先輩は、ぷ、と笑い出した。
「分かるなあ、底知れないよな、志樹って。面白いから一緒にいたけど」
「あれ、面白いって、先輩相当ですよ……」
「まあ仕事仲間としては、すげー尊敬できたしな」
そこに、最初に頼んだビールが運ばれてきた。
「じゃあ。――――……何に乾杯しようか?」
なんかものすごく楽しそうに、キラキラした笑顔で、オレを、すぐ近くから見上げてくる。
……これ、真正面に座るより、断然近いんじゃ。
横を見なきゃいいと思ったのに、こんなに近くで、まっすぐ見上げられたら、超至近距離で見つめ返す事になってしまう。
「……ちょっ、と、待ってください」
「え?」
先輩と逆方向を見回して、店員を発見。
立ち上がって近づいて、もしテーブル席が空いてたら、移動させてくれないか頼んでみる。ちょうど一席今空いたからどうぞ、と言われた。
……マジ、良かった。
「三上何だよ??」
「テーブル席、移りましょう。荷物だけ持ってあっちにって」
「ええ? いいのに、わざわざ。もう座ってたし」
さあ飲もう、としてた先輩は、すごく不満そう。
ぶつぶつ言いながら、移動した。
すぐに店員が飲み物や前菜を運んできてくれる。
「もう、なんか泡が消えた気がする! 三上、意味わかんないな。なんなの? 移動するにしても乾杯して飲んでからにしろよ」
……怒ってる。
でも。
なんか今まで、無表情だった、この人と比較してしまうと。
なんか、ぷんぷん怒ってる顔まで、可愛く見えるとか。
…………病気か、オレ。
「すみません。 ……何に乾杯しますか?」
そう言うと、すぐに、怒った顔を解いて、そうだなあと考えてる。
「……じゃあ、オレ達、今日から、ちゃんと知り合おう記念で」
「――――……何すか、それ」
そんなニコニコして言われると。
――――……脱力しか、できねえし。
はー、とため息をついたら。
また、にこ、と笑われる。
「昨日までのは、仕事だけの関係だったけど。 今日からは、ちゃんとさ。仕事仲間としてというか。人としてちゃんと付き合お、て事で。かんぱーい」
言われて、グラスを静かに合わせる。
「オレ、人生で、お前だけだから、あんな態度で接したの」
「――――……はあ」
「あー、マジで辛かった」
ぐびぐびぐび。
一気にグラスを飲み干して、おかわりをしてる。
「三上も飲めよ」
「はいはい」
もういっそ、酔ってしまいたい。
なんかこの人の、打って変わった笑顔で放たれる、強烈な言葉の数々を、ダイレクトに受けとめないように。
酔いたいけど。
……つか、オレ、酒、強ぇんだよなー…。
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